業火(10)

 ガレミザ宙域で止まっているプレリーゼも撤退の準備をしていた。

「やっと帰れます。何も出来ませんでしたけど」

 ファスラは気だるく言った。

「つまらなかったでしょう。むさ苦しい船で寝泊まりするのは」

 ミッドレが皮肉交じりに言うとファスラはにっこりした。

「たまに体験するのも悪くないですね。匂いが凄いだけで他は気になりませんでしたよ」

「それなら次回もぜひ。先に帰られてはどうですか。この船は最後ですから」

「そうですか。それならお言葉に甘えて」

 ファスラが答えるとミッドレは部下にファスラを次の便の船に乗せる様に指示した。ファスラは一礼してミッドレと別れた。

「やっと離れる事が出来た。鬱陶しい政治屋が」

 ミッドレは鼻でフッと笑った。

「少し席を離れる。後を頼んだ」

 ミッドレは艦長のキアットに任せてブリッジを出た。

「司令官のセルセ、緊急発進」

 オペレーターの声がブリッジに響いた。

「何!」

 キアットは慌てて無線でミッドレに呼び掛けた。

「すまん。予定の時間になったら帰ってくれ」

 ミッドレの声がブリッジに響いた。

「嫌な予感がしたんだよな」「やっぱりね」「わかりやすいな」

 ブリッジのクルーが呆れかえった。

「全く……」

 キアットも呆れた。

「ブルック隊、わがままな司令官を護衛しろ。危なくなったら引き摺ってでも連れ戻せ。お前達も周辺を確認しろ」

 キアットが怒鳴るとクルーは「了解」と作業を始めた。

「飛び出したのはいいがどこにいるんだ」

 ミッドレが操縦しながら呟いた。警告音が鳴った。セルセに近づく機体が見えた。

「ボルザット。ザッズか!」

 ミッドレは通信機を操作した。

「私はミッドレだ。お前、ザッズだな。補給基地に向かう。攻撃するな」

「見ての通り基地の周辺は内戦状態だ。これ以上進むと死ぬぞ」

 補給基地の周辺で光が所々で輝いた。

「構わん。カリューダとかいう奴に聞きたい事がある」

「何で司令官がわざわざ行くんだ。後ろに護衛が見えるが突っ走り過ぎだぞ」

「うるさい! カリューダにロゼムの居場所を聞き出す。それだけだ!」

 ミッドレが怒鳴った。

「ロゼムって……ああ、ロゼム姫ね。あんたの噂は聞いた事があるが無理するなよ。王子に任せとけって」

 ザッズが諫めるように言った。

「うるさい! ロゼムが心配だ。カリューダもミークもぶっ殺してやる」

「おい、少しは頭冷やせって」

 ザッズが呆れていると警告音が鳴った。

「ペルトーレだと!」

 ザッズは驚いた。

 ボルザットの横をペルトーレが飛んだ。

「いいじゃないか、ザッズ。行かせてやりなよ。司令官は彼女を救いたいんだよ」

「どうなっても知らんからな」

 セルセの両脇をボルザットとペルトーレが挟んだ。

「ブラーゴ軍のザッズだ。メイセアのミッドレ司令官が愛するロゼム姫を救いたくて乗り込んで来た。邪魔する奴は俺が撃つからな」

 ザッズが無線機で言った。

「何考えているんだ!」

 無線機からシャイザの怒鳴り声がした。

「まあ、いいけど。カリューダの居場所はわからないんだよ」

 シャイザが呆れた口調に変わった。

「それなら基地に入って誰かに聞くか。司令官、このまま前進。基地に入るぞ」

「ミッドレで構わん。頼むぞ」

 ミッドレは素っ気なくザッズに答えた。

「ロゼム、すまん。俺はこんな事しかお前にできないんだ。馬鹿だな。俺って」

 ミッドレが呟いた。

「司令官。今の周りに全部聞こえているよ。こいつが何かやったようだ」

 トオヤが半笑いで言った。

「おい、何やっているんだ!」

 ミッドレが怒鳴った。

「こちらブラーゴ軍親衛隊のゲゼイだ。勇敢な愛の戦士を援護する」

 無線から男の声がした。

「……まあ、いいか。感謝する。基地に着いたらカリューダの居場所を知りたい。情報を頼む」

 ミッドレが落ち着きを取り戻して答えた。

 親衛隊の青いドレングがミッドレ達を包囲して基地の港へ先導した。

 ミッドレ達は基地に入った。

「トオヤ、絶対に外に出るな。ここから銃撃戦だ」

 ミッドレがガトリング型の光線銃の手入れをしながら言うとトオヤが「わかったよ。気をつけて」と素っ気なく答えた。

 基地で銃撃戦が始まった。

 親衛隊長のゲゼイが部下を連れて応戦したが格納庫から進めずにいた。

「多いな。こんなに反乱を企てる者がいるとは」

 ゲゼイがライフル型の光線銃を撃ちながら舌打ちした。

 遠くで悲鳴がした。王族派の援護が始まった。

「無駄に戦いを広げたくない。カリューダの場所がわからないか」

 ミッドレがゲゼイに訊いた。

「今、調べているが難航している」

「複雑な構造の基地だから簡単には見つからないか」

「まずは管制室を制圧する。船で逃げる前に閉じ込めたい」

「わかった。任せる」

 ミッドレが光線銃を構えた。

 光線銃の光が止んでゲゼイは右手の指輪を光らせて壁の向こうにいる援軍に合図した。援軍の一人が右手を挙げてその後を兵達が廊下を走って行った。

 廊下の向こう側で銃撃戦が始まったがすぐ止んだ。

「こちらの足並みが揃って来たな」

 ゲゼイが呟いた。

「わかった。誰が敵かわからんから慎重にな」

 ザッズが通信機で話した。

「シャイザ達が裏から入った。向こうが先に管制室に入る」

 ザッズが言っているとまた通信が入った。

「俺だ。おい。勝手な事をするな!」

 怒鳴るザッズにゲゼイが「どうした」と訊いた。

「クソガキがボルザットを連れてゼンゼルグに行くってよ」

「ほっとけ。ペルトーレに乗っているなら死なないだろう」

 呆れるザッズにミッドレは早口で答えた。

「後方の部隊は指示があるまで待機」

 ミッドレが港で待機しているセルセ部隊に指示した。

「わかった。こちらも向かう」

 ゲゼイは援軍と通信機で話した。

「道は出来た。管制室に進む」

 ゲゼイが言うと皆が廊下を走り出した。

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