業火(8)

 その頃、ガレミザ宙域の補給基地の一室でブレッツォとゼイアとカリューダが話していた。

「ルーシの気持ちも落ち着きました」

 カリューダが穏やかに言った。

「ドルギの力になってくれ」

 ブレッツォが言うとカリューダは「わかりました」と光線銃を二人に向けた。

「どういう事だ」

 ブレッツォがゼイアを庇うように前に立った。

「ブラーゴと共に死にたいのでしょう。お望み通りに死なせてあげます」

 カリューダはブレッツォを撃ち、すぐにゼイアを撃ち抜いた。

「ブレッツォ……」

 倒れて虫の息で呟くゼイアを見てブレッツォは息を荒立てながら「すまん」とゼイアに覆いかぶさった。

 二人は絶命した。

「後程ブラーゴに埋めますからご辛抱を」

 カリューダは淡々と呟くと部屋の非常ボタンを押した。

 基地で甲高いサイレンの音が響いた。

「王と王妃がドルギ王子の部下に撃たれた。至急、王子を拘束せよ」

 館内放送が響いた。

「何だと!」

 基地の管制室にいたドルギは驚いた。

 一緒にいた兵達が「えっ」と驚いてドルギを見た。

「メイセアでガネロッサ軍がプリアスタを空爆!」

 オペレーターがメッセージを読んだ。

「王子!」

 議員のアザレが駆け込んで来た。

「カリューダの仕業です」

「カリューダだと! ルーシは!」

「わかりません。とにかくカリューダを拘束する様に指示しました。それまではゼンゼルグにお乗りください」

「カリューダめ。やってくれたな。メイセア軍将軍として命令する。これはカリューダが起こした反乱である。今すぐ拘束して問いただせ! それとメイセア軍に反乱が起きた事を通達しろ!」

 ドルギが怒鳴るとそばにいた司令官が「ハッ」と立ち上がり指示をした。

「カリューダ議員による内乱が発生。至急拘束せよ。ドルギ王子からの命令である」

 二つの命令で基地の中は混乱した。

「気づくのが早いな。アザレが動いているのか」

 兵達に囲まれた一室でカリューダは茶を飲んで呟いた。

「お父様。どういう事です」

 ルーシが兵に連れられて部屋に入って来た。

「そういう事だよ。ブラーゴの民をメイセアに住ませる為にな」

「いい加減にしなさいよ! こんな事をやって誰があなたに従うの!」

「いるとも。争いより平穏な暮らしを望む者達がな。その為に今は戦うのだ」

 カリューダは微笑んだ。

「聞いてられないわ。ドルギ王子に会わせなさい。命令です」

 ルーシはカリューダを睨みつけた。

「今さらどんな顔で会うのだ。お前は王と王妃を殺した私の娘だぞ」

「殺した? あなたが?」

 ルーシが大きく目を開いてその場に座り込んだ。

「何でよ……何で殺したのよ!」

 ルーシは叫んでカリューダに飛びかかって頬を拳で殴った。兵達が慌てて引き離そうとしたが、

「触るな! 私を誰だと思っている」

 ルーシが睨みつけて怒鳴ると兵達が一斉に手を引いた。

「失礼します」

 兵の一人がルーシの腹に当て身をした。ルーシはその場で崩れる様に倒れた。

「気が強い所は母親似か。薬で眠らせておけ」

 カリューダは頬を押さえながら言うと椅子に座って端末を見た。ルーシは兵に抱えられて隣の部屋へ連れて行かれた。


 ブラーゴ軍の内乱によりメイセア軍は消火活動を中止しブラーゴから撤退を始めた。

 トオヤはペルトーレでブラーゴを調査していた。

 飛んでいるペルトーレの上空からザッズのボルザットが監視していた。

「そちらは大変みたいだけど手伝いに行かなくていいのかい」

 ボルザットのコックピットの通信機からトオヤの声が響いた。

「別に何も言って来ないからな。軍はお前の監視の方が大事なんだろう」

「たかが子供一人で星を変えられる訳じゃないのにほっといて欲しいけどね」

「休戦状態とはいえ敵軍が母星でウロウロしているんだ。軍もほっとく訳にはいかないだろ」

 ザッズが面倒そうに言うと、

「その敵に救いを求めているのにね。挙句に内輪もめでメイセアも滅茶苦茶で迷惑だよね」

 笑いが混ざった口調で答えた。

「お前ほど冷笑していないが俺も呆れているよ」

「冷笑とは酷いな。これでも心配しているんだよ。周りから嫌われているけどね」

「賢い奴が見下す言い方するから嫌われるんだよ。お前は確かに賢いがな」

「それ褒めているのかい。いや違うか。君が褒める理由はないからね」

 トオヤの嫌味な答えにザッズは呆れてため息をついた。

「その口の悪さも洗脳されていると思いたいよ」

「洗脳処置は受けていないよ。君が僕を覚醒させたから人格に問題が起きたかもね」

「はいはい。悪かったな」

 ザッズは更にため息をついた。

「なあ、賢いお前なら地球へ帰る方法を知っているんじゃないのか」

 ザッズは思い出したように言った。

「もう百五十年経っているんだよ。誰も知り合いがいない地球に帰りたいのかい。君にとっては悪い思い出しかない星だろ」

「そうだけどな。これからもアンカム呼ばわりされて生きるのかと考えるとな」

 ザッズの呟きにトオヤは少し黙った。

「残念だけど生きて帰る方法はないよ。宇宙船に乗っていた乗客を見ただろ。あんな風になるんだよ。僕達が生きているのは奇跡的なのさ」

「ここの技術を使えば帰れるんじゃないのか。亜空間航行を繰り返してさ」

「あれはメイセアとブラーゴの距離だからやれる方法だよ。何度もやったらエンジンが吹っ飛ぶ。しかも莫大な燃料が必要だ。地球へ行くまでに必要な燃料はメイセア何個分になるだろうね」

「お前、本当に冷たいな。そこは子供らしく頑張れば行けるとか言えないのか」

 ザッズは呆れて答えた。

「賢者候補の僕に子供らしさを求めるのかい。もっと冷たい事を言うと僕が乗っていた船のエンジンを調べたよ。外から破壊された形跡はなかった。燃料に何かが混ざっていたのだろう。それがあるタイミングで化学変化を起こして爆発的に推進力を高めた。でもエンジンは爆発しなかった。どういう事かわかるかい」

 トオヤの問いにザッズは黙って考えた。

「細工した燃料を船に入れて細工したエンジンで飛ばす。しかも同じ型式の宇宙船。航空会社か空港の整備士にテロリストがいたのか……」

「空港に潜入して爆弾を取り着けるような連中じゃないって事だよ。政治家を乗せた船が行方不明になれば戦争を起こす口実にもなるからね」

「なるほどな。雑魚な連中じゃないって事はわかった」

 ザッズは目を閉じて答えた。

「それでも帰りたいかい。そんな地球に」

「その事と俺の気持ちは別だな」

 ザッズが答えるとトオヤは黙った。

「ああ、帰艦命令が来たよ。逆らうと怖い儀官様がいるから帰るね」

「シャルンの事か。ならさっさと帰るんだな」

 ザッズは笑って答えた。

「じゃあ帰るよ。ブラーゴの内乱が鎮まるといいね」

 トオヤを乗せたペルトーレは方向を変えて飛んで行った。

「さて、馬鹿共の喧嘩を見物するか」

 ザッズはモニターで基地への帰還命令のメッセージを見て呟いた。

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