業火(7)
ブラーゴの炎は大陸の西半分の低地を燃やし続けた。
工場の事故から百日余り経ちブラーゴの住民はメイセアで避難生活を送っていた。
仮設の集合住宅の暮らしは住民達にストレスを与え体調不良やトラブルが相次いだ。
また、避難民の優遇にメイセアの住民が不満を募らせて避難民に対する嫌がらせが起きて治安の悪化が懸念されていた。
「各地の農業施設の生産量が限界に達しています。避難民向けの食糧の配給を制限しないと住民に食料が行き届かなくなります」
「各地から避難所の警備を増援する様に要請が来ています」
大臣からの報告を聞いたレナンは指示をしたものの抜本的な手段とはいえず小手先の対応にレナン自身も苛立った。
「何とかブラーゴへ帰せないか」
「燃えている土地にか」
「ガレミザに避難所を作ればいいだろ」
「陸が殆ど無いのにか」
何度目かの同じ議論に陥り議会に参加した者達はすぐに黙った。
「とにかくあの炎を何とかせねばならない。研究はどうなっている」
レナンが重たい口調で言うと研究所の所長が説明をした。
「中和剤の増産は無理か。ジルマスト以外から作れないのか」
レナンの問いに所長は無理だとはっきり答えた。
「大体、危ない物に手を出したブラーゴが悪いんだ」
大臣の一人が言った。レナンは目を伏せて、
「それは言わない約束だ。言っても議論が進まない」
押し殺した口調で答えた。
「今は先程指示した内容で動いて下さい。ブレッツォ王とは私が話をします」
レナンは言うと退室した。
「私も言いたいのだよ。余計な仕事を増やしてブラーゴの馬鹿共が!」
レナンは小さく吐き捨てる様に言って城へ戻った。
城の玉座の間で大使のミークが数人の男を連れて待っていた。
「ミーク殿、わざわざ付き添いを連れて何か重要な事ですか」
玉座に座ってレナンはミークに訊いた。
「いえ。お別れの挨拶に参りました」
ミークが一礼して言った。
「別れ? ブラーゴへ帰るのですか?」
レナンは驚いた。
「いえ、女王。あなたの気高い命にです」
ミークは答えて懐に入れた光線銃を持ち出しレナンを撃った。
胸を撃たれたレナンが倒れた。
部屋の横に立っていた警備兵が銃を構えたがミークの後ろにいた男達が爆弾を投げてあちこちで爆発が起きた。
「な、何の真似だ」
室内が騒然とする中でレナンは虚ろな目でミークを見た。
「ブラーゴで住めなくなった以上、ブラーゴの民はメイセアで暮らすしかないのです。その為には王制を解体して頂きます」
「無駄な争いでまた血が流れるぞ」
「そうならない為にもダンル王子には王制解体を要求します」
銃撃戦の中でミークは走り去りレナンは意識を失った。
「何をするのです!」
部屋にいたロゼムにミークの仲間が薬を嗅がせた。ロゼムは気を失って連れ去られた。
「ガネロッサ軍のセルセ部隊。プリアスタに接近!」
司令室でオペレーターが叫んだ。基地の各所で緊急事態を告げるサイレンが鳴った。
ダンルが急いで部屋に入った。
「ナスラ、任せたぞ」
「はい」
ミッドレが不在で司令官を代行していたナスラが指示を出した。
「なぜ、今になって」
ダンルが呟くと手首の通信機が鳴った。
「何だと!」
ダンルの叫び声は室内の騒然とした中では響かなかった。近くにいた秘書とナスラがこちらを見た。
「どうしましたか」
ナスラが訊くと、
「女王がミーク大使に撃たれてロゼムが連れ去られた」
驚いた表情で答えた。
ナスラは思わず「何ですって!」と驚いた。
マイクを通した声が室内に響きオペレーター達が一斉に見た。
「作戦続行! 迎撃を急げ!」
ナスラが叫ぶと室内がまた騒がしくなった。
ダンルは右手でこめかみを押さえた。ナスラはマイクのスイッチを切った。
「大丈夫ですか。休まれてはいかがですか」
「すまない。私は大丈夫だ。ミークがガネロッサの連中と繋がっていたという事か」
ダンルは頭の中を整理するように言った。ナスラも落ち着きを取り戻した。
「それならば何かしらの要求が来る筈です。ロゼム姫を誘拐したのですから」
「待つしかないか……」
ダンルは腕を組んで慌ただしい室内を眺めた。
プリアスタの上空にガネロッサ軍のセルセ部隊が接近した。
「配属が基地に変わった途端にこれかよ」
ゴレットに乗ったヘイズが嘆いた。
「そう言うなよ。俺達、運がいいぜ。常に最前線にいるからな」
ゾッロが笑った。
「見えてきたな。先に行くぜ」
ヘッズのゴレットが先頭に出て光弾を連射した。
ガネロッサのセルセ部隊が散開してプリアスタへ空爆を始めた。
投下された爆弾で町の建物が次々に爆発した。
ゾッロ隊を始め多数のセルセ部隊が散開して応戦した。
ガネロッサ軍はメイセア軍の攻撃をかわしながら空爆を続けた。
「こいつら乗り慣れている。本当に今までコソコソ隠れていた連中か」
ゾッロが呟きながら敵機に光弾を連射した。
「ブラーゴが絡んでいるのか」
騒然とした司令室でダンルが呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます