業火(4)
メイセアでは政府の指揮で王都プリアスタから北西にある先の大戦で焼かれた町に避難民用の集合住宅を建設、第一次避難民受け入れ作業を始めていた。
他の地域でも急ピッチで集合住宅を建設していた。
レシスの基地ではジルマストを精製して中和剤を作っていた。
しかし希少資源である為に量産できず他の物質で中和剤を作れないか研究が進められたが難航していた。
ダンルは戻って来たシャルンから報告を聞いた。
「工場を封鎖しただけで後は良い報告は無いのか。ブラーゴも手間取っているか」
「避難民の受け入れを急ぐ必要がありますね。これからも燃え広がりますから」
心なしか気落ちしているダンルにシャルンは真顔で話した。
「向こうの王族も大変だろうな」
「メイセアへ避難する事に先住民の反発が激しいようです。こちらも受け入れてから監視が必要ですね」
シャルンが答えるとダンルはため息を深くついた。
「メイセアの住民も同じだ。これを機にブラーゴに乗っ取られるなどと言いふらす者もいる。簡単に事は進まないものだ。あとはトオヤの件か……気乗りしないが彼の能力に期待するしかない。研究所の情報部門とペルトーレの接続を許可する」
シャルンは「わかりました」と答えて退室した。
「気乗りしないのは私も同じですよ」
シャルンは呟いて廊下を歩いた。
ブラーゴの炎はバヤナを焼いて王都レーデに迫った。
レーデの住民の避難が済んで軍と王族だけ残った。
「ルーシ、補給基地へ行きなさい」
ゼイアはルーシを自室に呼んで話した。
「いえ。ドルギ王子の言いつけ通り王と王妃が避難するまでお供します」
「そんな言いつけを守る必要はありません。私とブレッツォはこの星と共にいます」
ゼイアは冷たく答えた。
「仲良く死にたいならご勝手にと言いたいですが、言いつけを守らなかったらドルギが抱いてくれないので守らせてもらいます」
「本当に品がないわね。カリューダはどんな育て方をしたのか」
「うちの事はいいですよ。ドルギが心配しているのですから甘えたらいいのですよ」
「前から思っていましたが本当にドルギの体目当てなの?」
「そうですよ。私もお姫様ならレジーアが向いているのにドルギが私を選んだのが未だに不思議です。私の体が好きなのかしら。何度も言いますが私が騙した訳じゃないですから」
あっけらかんと言うルーシにゼイアは呆れた。
「あなたと話すと頭が痛くなるわ。でもドルギを本気で好きなのはわかりました。だけどね。あなたには私と違う道を生きて欲しいの。許して」
ルーシが「えっ」とゼイアを見た。
ゼイアが「よろしく」と通信機で話すと数人の兵達が部屋に入ってルーシの腕を掴んだ。
「ゼイア様! どうして!」
ルーシの叫び声をゼイアは聞いて深く頭を下げた。
ルーシは兵に連れられてガレミザ宙域の補給基地へ避難した。
「そうか。王妃の命令で」
補給基地の一室で父のカリューダはルーシの話を聞いて呟いた。
「死ぬつもりよ。助けてあげなさいよ」
ルーシが言うとカリューダはしばらく黙った。
「いいじゃないか。大規模な災いを引き起こした責任を感じて死ぬ。王らしい高貴な死に様だ。遺された者達にとっては迷惑な話だが」
カリューダは端末を見ながら呟いた。
「冷たいのね。だから家族にも嫌われるのよ」
ルーシが蔑む目でカリューダを見た。
「否定はしない。ブラーゴの民が穏やかに暮らせるなら家族を捨てる覚悟はできている」
「こんな奴とお母様が良く結婚したもんだわ。まあこんな奴だから別れたのでしょうけどね。できれば子供を作る前に別れて欲しかったわ」
「そのおかげでお前は今の地位にあるのだから感謝して欲しいもんだな」
「あのね! もういいわ。とにかく私が軍に連れて来させるから」
ルーシは苛立って退室した。
「燃え続けるブラーゴには誰も住めなくなるのか」
カリューダは端末を置いて目を閉じた。
補給基地の管制室は各地からの被害の報告を受けて騒々しかった。
ドルギは基地に作られた政府の会議室と管制室を往復する日々を送っていた。
「王はブラーゴと共に死ぬつもりか……しかしそれでは避難したブラーゴの民の間で混乱が起きてしまう。説得しないとならないな。いつでもレーデに降りられるように船の手配をしておいてくれ」
秘書に指示したドルギは将軍室に入り椅子にもたれた。
今ではここが唯一、一人で居られる場所になった。
端末を起動するとレジーアからのメッセージが届いていた。
今日の便でメイセアへ行くと書いてあった。三日前の未読だったメッセージを見てドルギは削除した。
手首に着けた通信機から会議の予告アラームが鳴った。
「王も少しは周りの都合を考えて欲しいものだ」
ドルギは呟いて立ち上がって退室すると外で待っていた秘書と兵と共に会議室へ向かった。
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