業火(2)
ゾロハ達の懸念は数日後に発生した。
ブラーゴのジルマストを精製する工場で爆発事故が起きた。
爆散したジルマストは小さな青白い粉となって風に乗って周辺の地域に降り注いだ。
その結果、化学変化を起こして土の可燃性が高くなりその上を生き物のように炎が燃え広がった。
「ガドとボデア全焼」「避難船を出せ」「消火部隊が足りないぞ」
ブラーゴ軍本部基地の司令室で怒号が飛び交った。
ドルギは黙って様子を見ながら司令官から報告を聞いていた。
「議会を招集する。住民の避難を優先的に」
ドルギはそう言うと席を立った。
しばらくして政府でメイセアへ救援要請が可決されてブレッツォ王が承認した。
「レナンの策略に嵌まったか。いや、自ら招いた罪か」
ブレッツォは呟きながらレナン宛の親書をドルギに渡した。
「王も王妃もガレミザ宙域の補給基地へ避難して下さい」
「我々より民の避難を優先しろ」
ブレッツォは静かに言った。
「ドルギ、私達は構いませんからルーシを連れて行きなさい」
ブレッツォの隣に座っていたゼイアが穏やかに言った。
ドルギは「わかりました」と答えて早足で退室した。
「恨みに任せて急ぎ過ぎたか」
ブレッツォはため息をついた。
「それはメイセアを追われた民の長年に渡る恨み。恨みで呼び寄せた災いで私達が滅びるのは罪ではなく予め決まっていた歴史だったのかも知れません」
「ほう。お前がそんな事を言うとはな」
「ブラーゴが滅びるかも知れないのでこれ位言う事をお許し下さい」
「我々もブラーゴの歴史と共に終わるか」
「私達が激しい熱さと痛みと共に焼き尽くされるのが償いになればいいじゃないですか。後の事は王子に託しましょう」
ゼイアは穏やかにブレッツォに言った。
「やはり起きたか。愚かな」
ミーク大使からブレッツォの親書を受け取って読んだレナンが怒りを込めて呟いた。
「どうか良いお返事を」
ミークは淡々と答えて頭を下げた。
「見捨てはしない。王には消火と避難に注力するように伝えて下さい」
レナンが言うとミークは「わかりました。それでは」と退室した。
ダンルが入って来た。
「ブレッツォ王から救援要請が来ました。避難民の受け入れは私が政府と決めます。ダンルは軍の派遣を急ぎなさい」
レナンが淡々と言った。
「わかりました。ミッドレ司令官に行ってもらいます」
「司令官が直接ブラーゴへ? その方がブラーゴ軍と足並みを揃えられるか。わかりました。任せます。それとガネロッサの動きも気になります。これを機に活発にならなければいいが」
「その件もミッドレと相談して決めます。それでは」
ダンルは早口で答えると急いで退室した。
「メイセアを焼く前に自らを焼くか。笑えないな」
レナンは袖を整えながら呟いた。
「ロゼム、女王と子供を頼んだぞ」
廊下でばったり会ったロゼムにダンルは歩きながら言うと城を出て車に乗り込んだ。
この後、ミッドレ率いる艦隊がブラーゴへ飛んだ。
メイセア軍とブラーゴ軍が消火作業を始めた。
各地の町の周辺に消火弾と消火剤を空中から投下してその間に住民を乗せて飛び立つ。この作業を繰り返していたが文字通り焼け石に水でジルマストと化学変化を起こした土の上の炎は着実に広がっていた。
レシスのカイキスにシャルンが訪ねてきた。
屋敷でシャルンはゾロハとトオヤとジェイスに事情を話した。
「土に引火したら消火剤では消えないだろう」
ゾロハは軽く呆れた。
トオヤは端末でブラーゴの各地の映像を黙って見た。
「派手に燃えているな。土が燃えるのを見たのは初めてだ」
ジェイスは目を凝らして映像を見ながら言った。
ロッツが陶器の水差しで四人の茶碗に赤い果実を煎じた茶を注いだ。
シャルンがロッツに小さく頭を下げた。
「ゾロハ様にはジルマストの中和剤の開発に協力頂きたいのです」
シャルンが穏やかに言うと、
「別に構わんが儀官達はどう思うか。私はとっくに儀官を辞めた身だぞ」
ゾロハはため息交じりに答えた。
「会議で決まりましたのでご安心下さい。ダンル王子も是非お願いしたいとの事です」
「わかった。細かい話は基地で聞こう」
「それで僕は何をしたらいいのかい」
トオヤは端末を置いて会話に入った。シャルンが横目でちらっと見た。
「命令に従って手伝う気があるなら基地に来いとミッドレ司令官が言っていました」
「まるで僕がいつも勝手に動いている様な言い方だね」
「命令に従った事があるのですか」
シャルンは淡々と言った。
「わかったよ。老師が手伝うのにここで休んでいる訳にはいかないからね」
トオヤが言うとジェイスは、
「俺も手伝えって事か」
シャルンに訊いた。
「そういう事です。ゾロハ様を連れて基地へ行って下さい」
シャルンは残った茶を飲んで「それでは」と一礼して家を出た。
「まあいいか。のんびり休んだからな」
ジェイスは茶を一気に飲んだ。
「燃える星の王は何を思う……か。詩人だったらカッコいい言葉が浮かぶのにね」
トオヤはフッと微笑んだ。
「そういう感覚は子供なんだな」
ゾロハが微笑んで言うとトオヤは「まあ子供だからね」とおどけて答えた。
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