業火(1)
ジルマストの採掘や輸送作業は順調に進んだ。ブラーゴに建てられた化学工場でジルマストの精製を行い五段階の内、三段階目の精製が完了した。
「おかげさまで無事に精製が進んでいます」
プリアスタの城の会議室でブラーゴの大使ミークはレナンに作業の進捗を報告した。
「それは良かった。ジルマストはメイセアでも貴重な資源である。くれぐれも採掘量は条約に従うようにな」
レナンはミークを見て答えた。
「ブレッツォ王はさぞ楽しみだろう。ラギュンゼと同じ兵器を作れるからな。いつメイセアを焼きに来るのか」
レナンは端末を見ながら言うと、
「ご冗談を。そんな事はしませんよ。もしそんな物を作って奪われたら我々が焼かれますから」
ミークは笑って答えた。
「まあ良い。ガネロッサに奪われた振りも出来るからな」
「今日はご機嫌がよろしくないようで」
「いや、気を悪くしたのなら謝る。ブレッツォ王によろしく」
ミークは「はい。それでは」と退室した。
「そんなに不機嫌に見えるか」
レナンは呟いて端末を操作した。
プリアスタの病院でダンルはロゼムを見かけた。
「今日は診察だったか」
「はい。王子もでしたか」
「今、終わったところだ。もう成長期に入ったのかな」
「見ますか」
「ぜひ見たい」
二人は胎児を育てている病棟に入った。
「この子よ」
ロゼムはダンルに指を差した。
ダンルはカプセル状の機械の小窓から覗いた。
「大きくなったな」
ダンルは微笑んで言った。
「早くこの手で抱きたい」
ダンルが言うとロゼムが「私もです」と微笑んだ。
ダンルは先に病院を出て基地に戻った。
ロゼムが診察を終えて廊下を歩いているとミッドレと会った。
「どうも」
ミッドレは軽く会釈して受付に歩いた。
ロゼムも会釈した。そして振り返った。
ミッドレの背中を見て複雑な気分になった。
ミッドレはトオヤがいる病棟に入った。
「しばらく退院の許可が出た。ブラーゴとの関係は安定しているからな」
面会室でミッドレが言うとトオヤがホッとした表情に変わった。
「さすがに退屈していたからね。良かった」
トオヤは目を伏せた。
「監視を付けるが好きな所に行けるぞ。行きたい所はあるか」
「そうだね。ゾロハ老師には会っておこうかな」
「わかった。ジェイスと行けばいい」
それからトオヤは基地の寮に戻った。
「そうだ。あいつに会おうか」
荷物をまとめてトオヤは車でペルトーレのあるドックに向かった。
ドックにはペルトーレだけが立っていた。
入って来たトオヤを整備士達が見た。トオヤはペルトーレの前に立った。
「やあ、調子はどうだい」
トオヤの言葉にペルトーレが反応した。
「呼び合っているぞ」「こんな事が本当に起きるのか」
整備士達がざわつく中、ペルトーレの腹のハッチが開いた。トオヤはためらわずに乗り込んだ。
ハッチが閉じてトオヤは目を閉じた。
「僕は君の友達なのか。それともただの部品なのか。何でもいい。この居心地の良さはここしかないからね。しばらく休ませてくれ」
トオヤは座ったまま眠った。
「うん?」
司令官室で端末を操作していたミッドレが端末の異常に気付いた。
「誰かが交信している」
モニターに数箇所が丸で囲まれた地図が表示された。
「ガネロッサの領土。そこに何があるのか」
《未完成のゾレスレーテを回収せよ》
端末に文字が表示された。
「そこにゴレットがあるのか」
ミッドレは呟いた。
「誰がこんな情報を……まさか!」
ミッドレは耳に着けた通信機を操作した。
「トオヤはどこにいる? ペルトーレに乗っただと! シャルンを行かせてトオヤを引き摺り出せ」
ミッドレは言って部屋を出た。
「ああ良く寝た。うん?」
目覚めたトオヤはコックピットのモニターを見た。シャルンの顔が大きく映った。
「また何かしたのかい?」
『ミッドレに作戦を指示』
「そうか。勝手にやってもいいけど僕に迷惑をかけるのはやめてくれよな。出してくれ」
トオヤが言うとハッチが開いた。目の前でシャルンが硬い表情で見た。
「相変わらず怖い顔しているね。ちょっと寄っただけだよ」
「君をペルトーレに乗せるなと言われています。叱られるのは私なのです」
「それは悪かった。気をつけるよ」
トオヤは言って昇降機で降りた。ミッドレが待っていた。
「まず作戦の提案をありがとう。どうして俺の端末に?」
「さあね。王子を殺そうとした奴を許せなかったのだろう。ヴァンジュの友達の子供だからね」
トオヤはフッと笑った。
「それとも君を試しているのかな。王子の友達にふさわしいか」
「何を言いたい」
ミッドレの口調が微かに乱れた。
「君はわかっているよね」
「お前は俺を裁くのか」
「裁く? 僕にはそんな権限はない。王が君を認めていたのならヴァンジュも認めているだろうね」
トオヤが言うとミッドレの目が険しくなった。
「どうしろと言うのだ」
「ヴァンジュの気持ちを落ち着かせて欲しい。あいつは戦うのを嫌っているからね。君にはヴァンジュを守る義務がある」
トオヤはそう言うとドックを出て行った。
翌日、トオヤは宇宙船でジェイスと共にレシスへ向かった。
「おう、やっと会えたな」
カイキスでゾロハが二人を迎えた。
「心配してくれてありがとう」
トオヤは抑揚のない口調で言った。
「こういう話し方だけど感謝しているんだぜ」
ジェイスがフォローした。
「別に構わんよ。元気そうで良かった」
ゾロハは笑った。
「あれはジルマストだね」
トオヤは棚の置物を指差して訊いた。
「よくわかったな。ただの石でも精製を繰り返すとこんな風に透明になるんだ」
「へえ。クリスタルみたいだな。地球に似たような透明な石があるんだ」
ジェイスは置物を見ながらゾロハに言った。
「あの位まで精製するのは大変なんだろ? 失敗したら大爆発だからね」
トオヤは目を閉じて微笑んだ。
「おい、そんな危ない事をブラーゴの連中はやっているのか」
ジェイスは驚いた。
「そうだ。精製する程、爆発の危険が高まる」
ゾロハが棚の石を見ながら答えた。
「ブラーゴは燃える星になるかも知れないね。ブラーゴの土壌はジルマストを吸収しやすい。ジルマストの炎でブラーゴの土に引火する」
トオヤは淡々と言った。
「よく知っているな。それもヴァンジュの力か」
「誰かがブラーゴにラギュンゼを撃ち込んだ時の被害を想定した論文を書いていた。ヴァンジュを通してそれを見たのさ。だからラギュンゼの成分と似たジルマストを精製したら同じ事が起きるかも知れないと思った」
トオヤはゾロハに答えた。
「それはブラーゴの連中は知っているのか」
ジェイスが訊くとゾロハは「さあな」と答えた。
「まさか女王はその事を知っていたのか」
ジェイスは戸惑いながら呟いた。
「知っていたとしても教える必要はないからね。事故になってもメイセアに責任はないから」
トオヤは相変わらず淡々と答えた。
「別にいいじゃないか。僕はただここでのんびりしたいのさ」
「お前……本当に別人みたいだな」
「そう思ってもらって構わないよ」
トオヤはジェイスに静かに微笑んで答えた。青い目が僅かに輝いた。
トオヤがレシスにいる間、ミッドレの指示でメイセア軍が旧ガネロッサ領の各地の廃墟や森を攻撃した。
そこにはゴレットが隠されており軍が全て回収した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます