呪縛(13)
王都プリアスタの病院の敷地内にある病棟へダンルが護衛の兵と共に訪れた。
ここには危害を加える恐れのある者達が隔離されて入院していた。
ダンルが面会室に入った。
透明の分厚い壁に仕切られて向こう側にはトオヤが座っていた。
「こういう形で君と会う事を許して欲しい。今日は礼を言いたくて来た。助けに来てくれて本当にありがとう。おかげで無事に退院できる事になった」
ダンルはトオヤに頭を下げた。
「礼ならヴァンジュに言ってくれ。僕はあいつに呼ばれて乗っただけだからね。あいつは先代の王を友達と思っているから王子も好きなのさ」
トオヤは淡々と話した。
「何の罪もないのにこんな所に閉じ込めた事を申し訳なく思っている。解決策が見つかるまで我慢してくれ」
「別に気にしなくていいよ。検査を受けて睡眠装置で寝るだけの繰り返しだからね。外に出るとヴァンジュと交信して何が起きるかわからないから妥当な手段だよ。王子も気をつける事だね。どこで狙われているかわからないから」
「そうだな。護衛の兵が増えたよ」
「本気で殺すつもりならあの時に殺していたから脅しと思っていいけどレナン女王もロゼム姫も注意しないといけないね」
「忠告ありがとう。必ずここから出すから待っていてくれ」
ダンルはそう言うと一礼して部屋を出た。
部屋の外でシャルンが待っていた。シャルンはダンルに一礼すると部屋に入った。
「調子はどうですか。トオヤ」
明るく訊くシャルンにトオヤは「まあまあだね」と微笑んで答えた。
「君の考えを聞かせて欲しい。ガネロッサ軍の基地の事だ。司令室や衛星の記録を調べたが特定できない」
「王子が工場に来る日程を知って事前に兵器を工場の近くに隠していた可能性がある。そうでなければ王子を撃ってすぐに戦車で工場を囲むのは無理だろう」
二人は基地の所在について仮説を立てながら議論した。
「ありがとう。この方向で調べてみます」
シャルンは印が幾つも書き込んだ地図を畳んで言った。
「ジェイスが心配していましたよ」
「元気にしていると言っておいてくれ」
「ゾロハが見舞いに来たいと言っていました」
「世話好きな爺さんだな。大丈夫だからと言っておいてくれ」
面倒臭く答えるトオヤを見てシャルンがフフフと笑った。
「何がおかしいんだい」
「時々気持ちが入るのですね」
「前にも言ったけど僕は完全な覚醒処置を施されていないからね。ザッズのせいでこうなったが感情はあるよ。その分、判断が鈍るけどね」
トオヤは穏やかに答えた。少し口元が緩んだ。
「薬の効果が切れたら元に戻るのですか」
「それはないね。投与された薬は脳の活動を活性化させるのと同時に一定の活動を超えたら抑制する効果も備えている。下手に薬を抜こうとしたら死ぬだろうね」
「そうですか。治療法が見つかる事を願っています。では」
シャルンは手を振って言った。トオヤは黙って手を振った。
部屋を出たシャルンはうつむいて歩いた。
「なぜ簡単に死ぬなんて言えるのだろう。予見しているのか」
青い目をしたトオヤの顔を思い出して切なくなった。
ダンルが復職して程なくしてブラーゴ行きの輸送機にジルマストが搬入された。
出発式はダンルの出席は見送られ厳戒態勢下で輸送機が離陸した。
ザッズを含むドレング部隊が輸送機を囲んで飛んだ。
グバスランの捜索は難航したが、ガネロッサ軍の施設を幾つか発見してメイセア軍が制圧した。
「ブラーゴでジルマストの精製が始まるな。どうなる事やら」
カイキスの屋敷でゾロハが端末を見て呟いた。
「ジルマストなどに手を出して。何が起きても知らんぞ」
城でレナンが金色の果実酒を飲みながら呟いた。
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