呪縛(12)

 数日後、ガレミザ付近の補給基地でレナンとブレッツォの会談が行われた。

「ダンル王子には深くお見舞い申し上げる。ご無事で良かった。しかし工場襲撃の件は抗議させてもらう」

 ブレッツォが太い声で言った。

「ブラーゴの民が働くのを嫌っている者がいると噂が流れているようですがその辺はどうなのですか」

 同席したアザレ議員が訊いた。

「まずはダンルの件、お気遣いありがとうございます。お見舞いの品まで頂いてダンルも喜んでおりました。深く感謝申し上げます」

 紺色のフォーマルな服を着たレナンは穏やかに言うと頭を下げた。

「しかしながら工場襲撃の件は理解できない点が多い。後でミッドレが話しますが単なる武装組織による攻撃と断定できない状況に困惑しています」

 レナンは淡々と言った。表情は硬かった。

「はっきりと言ったらどうですか。ブラーゴが関わっていると」

 アザレが腹立たしく言った。

「口を慎まんか! 失礼した。見ての通り頑固で好戦的な奴でな。言いたい事があれば構わん。言ってくれ」

 ブレッツォは威圧感を交えて言った。

 同席したミッドレが「それでは」と一礼して説明を始めた。

 ガネロッサ軍の戦車やセルセの残骸からブラーゴ軍の兵器の部品が使われていた事、回収したゴレットは初期型で大戦時のメイセア軍の部品が使われていた事、襲撃後にグバスランと名乗る者から基地に声明が送られた事──

「そいつは何と言ってきたのか」

 ブレッツォが興味深い表情で訊いた。

「『大戦で追われたブラーゴの民と国を滅ぼされたガネロッサの民はレリンデアの王族を殺して新たな国を作る。メイセア政府はレリンデアの王族を処刑しないとジルマストで殺傷兵器を作ってメイセアの町を焼き払う』だそうです」

 ミッドレが淡々と答えた。

「馬鹿げた声明だ。もし我々が王族を殺すなら……」

「どのように殺すのだ?」

 呆れて言うアザレにレナンが微笑んで訊いた。レナンの目は笑っていなかった。

 アザレは「いや、失礼」とうつむいた。

 ブレッツォはため息をついて、

「レナン女王、本当にすまない。それでその声明をどう思っているのかね」

 穏やかに訊くとレナンは微笑むのをやめた。

「この者を探して真意を聞くつもりです。この声明がガネロッサやブラーゴの民の総意とは思いません。工場は引き続き稼働します」

「もしブラーゴの民が王族を殺そうとしてもかね」

「それでメイセアの民が幸せに暮らせるなら構いません。しかしメイセアの民を蹂躙して不幸に陥れるつもりなら徹底的に戦うだけです」

「さすが先代エルト王の妃、そして女王だ。我が軍も協力しよう。ブラーゴを騙る者がいるのは許し難い」

 淡々と話すレナンにブレッツォは明るく笑って答えた。

 会談を終えてそれぞれ宇宙船に戻った。

「アザレよ。お前の仕業か」

 座席でブレッツォが真顔で訊いた。

「まさか。私が王子を殺すなら綺麗に殺しますよ。敬意を表して眠る様に。頑固で好戦的な私でも品はありますから」

 アザレは微笑んで答えた。

「お前の皮肉はたまに聞くと面白いな」

 ブレッツォは小窓から外を見ながら言った。

「さて、どうするか」

 秘書に端末を渡してレナンは席に座った。

 通路を挟んだ隣の席にミッドレが座った。

「グバスランは偽名でしょう。記録にありませんでした。声明を発信したと思われる通信車両は爆破されていました。何も手がかりは出てきませんでした」

「なぜ、あの場でそれを言わなかった」

「ブラーゴが関わっている可能性は否定できません。捜索の情報は小出しにします」

 ミッドレは淡々と答えた。

「駆け引きも大事か。任せたぞ」

 レナンが言うとミッドレは「はい」と答えた。

 宇宙船は亜空間航行を抜けた。遠くにレシスが見えた。

「ダンルが近い内に退院します」

 レナンが椅子にもたれたまま言った。

「そうですか。どうか無理をなさらずに」

 ミッドレが答えた。

「ロゼム姫は近い内に手術します」

 レナンが同じ口調で言った。

「無事にお子様が生まれる様に願っています」

「今度はな」

 型通りのミッドレの返事が終わる前にレナンが被せるように言った。

 一瞬の沈黙が訪れた。

「複雑な気持ちだろうが黙って見守って欲しい。この件で私が言うのはそれだけです」

 レナンは椅子にもたれたまま淡々と言った。

 ミッドレは「はい」と口調を変えずに答えた。

 宇宙船はレシスの基地に止まりミッドレは船を降りた。

 燃料を補給した宇宙船はすぐにメイセアの本部基地へ出発した。

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