呪縛(11)

 ジルマスト採掘工場の上空で交戦が続いていた。

 戦車部隊が上に一斉に太い光弾を発射した。数機のセルセに命中して工場の周りに墜落して爆発した。

「ペルトーレ・ヴァン、上空から接近」

 司令室のオペレーターが叫んだ。

「ペルトーレ……トオヤか」

 ミッドレが呟いた。

「レシスから飛んで来たのか」

 ナスラは驚いた。

 モニターに作戦内容が表示された。

「ペルトーレから全部隊へ発信」

 オペレーターの声に司令室がざわついた。

「この作戦、どう思うか」

 ミッドレが表情を変えずにナスラに訊いた。

「問題ありません。しかしこれをトオヤが考えたのですか」

「それは後で考えよう。指示を」

「わかりました。各員、提示された内容で指示を」

 ナスラが室内のオペレーターに指示をした。室内が騒がしくなった。

 赤いペルトーレがスピードを保ったまま三機のゴレットを右手に伸びた剣で突き刺してすぐに抜いた。ゴレットは爆発せずに墜落した。

 ペルトーレの機体が白く変わり工場に降りると掌から光弾を戦車に連射した。

 戦車が次々と爆発した。

 上空ではメイセア軍のセルセとゴレットが敵セルセ部隊を撃墜した。

 工場の敷地でペルトーレはしゃがみ込んだ。

 工場にいた護衛の兵がベッドに横たわったダンルを運んで来た。

 ペルトーレが手を差し出した。兵達がダンルをベッドから降ろして手に乗せた。

 ペルトーレはダンルをコックピットに乗せると上昇して機体を赤く変えて飛んだ。

 王都プリアスタに到着したペルトーレは病院の前にダンルを置いて基地へ飛んだ。

「ダンル王子、搬送完了」

 司令室でのオペレーターの声にミッドレは一瞬ホッとした表情に変わったがすぐにモニターで工場周辺の戦況を確認した。

 城で知らせを聞いたレナンとロゼムは車で病院へ向かった。

「車を出たら落ち着いて歩くのよ」

 レナンが言うとロゼムは「はい」とだけ答えて前を見た。

 敵のセルセ部隊は撤退、陸上の戦車部隊は全滅した。墜落したゴレットに乗ったパイロットは自爆した。

「取りあえず落ち着きますか」

 ナスラが訊くとミッドレが「後は頼む」と立ち上がって司令室を出た。

 基地に戻ったペルトーレからトオヤが降りた。

「随分とご活躍でしたね」

 目の前にシャルンが立っていた。

「僕は何もしていない。僕の意識とあいつが同調して動いている。操縦している感覚はないよ」

 トオヤが淡々と言うと、

「率直に訊きます。君は何をしたいのですか」

 険しい表情で訊いた。

「さあ、僕自身に野望はないよ。ただの賢い人形だから」

「君は自分が嫌いですか」

「好きな奴がいるかい? こんな僕を」

 トオヤが微かに微笑んだ。シャルンはため息をついた。

「それはそうと自分が立てた作戦を軍に発信して混乱させた罪は大きいですよ。あっ、もう来ましたか……」

 シャルンは目を伏せた。

 ミッドレが車から降りて歩いて来た。表情は硬かった。トオヤは薄く微笑んだ。

「どういうつもりか説明してもらおうか」

 ミッドレの言葉に押し殺した感情が滲んだ。

「あいつに聞いてくれ」

 トオヤはペルトーレを指差した。

「僕はカイキスで眠らされていた。あいつが僕を乗せた。そして勝手に作戦を立てて発信した。僕の説明はそれだけだ」

「わかりやすいが納得できない。なぜゾレスレーテが勝手に動く。見解を聞かせてもらおうか」

「あのペルトーレはヴァンジュの知能をコピーして乗せている。ヴァンジュはエルト王の機体だ。ダンル王子の危険を知って助けに行ったという所だね。ヴァンジュはエルト王を好きだったみたいだから友達の子供を守りたかったのかな」

《友達の子供》の言葉にミッドレの目尻が微かに動いた。

「そんなに感情的に動くのか。あれが」

 ミッドレはペルトーレを見て呟いた。シャルンが会話に入った。

「トオヤとペルトーレの意識が融合して生き物の様に動かせるのでしょう。あんな細かい動きは操縦では不可能です。私の仮説ですが」

 ミッドレは「うむ」と腕を組んで考えた。

「今回はペルトーレの暴走という事でこの問題は終わりだ。シャルン、ペルトーレの調査を。トオヤ、お前は体の精密検査を。それとペルトーレに乗るのをやめてもらう」

 シャルンは「わかりました」とその場を離れて指輪でペルトーレと会話した。ペルトーレが立ち上がって歩き始めた。

「あれに乗りたいのか」

 ミッドレが訊くと、

「僕はどうでもいいけどあいつは僕を必要としている。僕を乗せたくなかったらあいつを解体する事を提案するよ」

 トオヤは淡々と答えた。

「それはお前の言葉か」

「もし覚醒処置を施されていたら僕は感情を失くした状態で話している。どうでもいいなんて言わない。だから僕の言葉だよ」

 静かに話すトオヤの目が青かった。

 ミッドレは間を置いて、

「私の言いたい事は以上だ。今すぐ検査を受けろ」

 トオヤを見て押し殺した口調で言うと車に乗って去った。

 トオヤは黙って基地の病院へ向かった。

 プリアスタの病院でダンルの手術が行われていた。レナンとロゼムは個室で待っていた。

「ロゼム姫、ここは任せます。私は戻って政府の意見を聞きます。公の場で取り乱さないように」

 レナンが表情を変えずに言うとロゼムも「わかりました」と一礼して答えた。

 レナンは部屋を出てロゼムは座って茶を一口飲んだ。

 ダンルの負傷の知らせをレナンから聞いた時を思い出した。

 うろたえて涙を流したロゼムの両肩を掴んでレナンは穏やかに言った。

「あなたの涙でメイセアの民は泣いてあなたが怯えるとメイセアの民は怯えるのよ。あなたの気持ちはメイセアの民の気持ち。落ち着きなさい。そして強くなりなさい」

 ロゼムは自分の頬に手を当て、目を閉じて医師の知らせを待った。

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