呪縛(8)
数日後、ジルマスト採掘工場の開業式典が行われた。
式典にはブラーゴとメイセアの王族が出席し順調に式典を終え、城で祝宴が行われた。
「ロゼム様、お会いできて嬉しいです」
ルーシが会釈してロゼムに話しかけた。
「こちらこそルーシ様。わざわざ遠いメイセアに来て下さってありがとうございます」
ロゼムは微笑んで答えた。
「レナン女王、相変わらずお元気そうで」
「ええ、ブレッツォ王も相変わらず」
二人の挨拶はぎこちなかった。ブレッツォは料理を取りに行った。
「レナン様、すみません。大勢で押し掛けて」
ゼイアが取り繕うように挨拶した。
「いえ。ゼイア様も勇ましい王に振り回されて大変でしょう」
レナンが言うと、
「そういう気性なので楽しく過ごしていますよ」
ゼイアは穏やかに答えた。
「女王はご機嫌がよろしくないようで」
ドルギがダンルに微笑んで話しかけた。
「すぐ態度に出るので困っています。まあ怒るのも無理はないですが」
ダンルは困った表情で答えた。
「ロゼム様はダンル様のどこが気に入っていますの?」
ルーシはにこやかに訊いた。
「優しいところですね。ルーシ様はドルギ様のどこが好きなのですか」
「やっぱり体ですね。優しいだけでは幸せを感じないのです。私」
ロゼムの問いにルーシはあっけらかんと答えた。
「そうですか……」
ロゼムは少し戸惑った。
「ロゼム様だってダンル様に抱かれるのは悪く思わないでしょ。私も同じですよ。王子に愛人がいたとしても私といる時は私を愛してくれるからいいのです」
「形はどうであれ今が幸せならいいのではないですか」
(挑発しているのね)
ロゼムは言葉を選んで答えた。
「私はミッドレ様が好きですけどね。逞しくて素敵ですし」
ルーシが言うとロゼムはグラスの酒を一口飲んで、
「用事がありますのでこれで失礼します。どうぞお楽しみ下さい」
と言うとグラスを置いて歩いて行った。
「あら、怒らせたかしら」
ルーシもグラスの酒を軽く飲んだ。
「お前、何か言ったのか」
ドルギが小声で話しかけてきた。
「別に。ダンル様よりミッドレ様が好きと言っただけよ」
「お前……」
あっけらかんと言うルーシにドルギは呆れた。
「それにしても本当にお若いですね。ルーシ様は」
レナンがゼイアに言うと、
「ああ見えてしっかりしていますよ。よく庭でレゴンゲルを相手に訓練しています」
ゼイアは呆れた口調で答えた。
「まあ、勇ましい事」
「ブラーゴでは勇ましくなければ生きていけません。どうしてそんな所に住まなければならないのか歴史のせいにしても仕方ありませんし」
「ジルマストで歴史を変えるつもりですか」
レナンは冷たい口調で訊いた。
「どんな歴史になろうとも私は王を支えていくだけです。出来るなら穏やかに暮らしたいと思っています」
ゼイアは穏やかに答えた。
祝宴を終えブラーゴの王族はメイセアを去った。
「いかがでしたか」
寝室でくつろいでいるレナンにダンルが訊いた。
「あまりいい気分ではないですね。何がと訊かれてもわかりませんが」
侍女に服を着替えさせながらレナンは答えた。
「ロゼム姫はどうしたのです」
「気分が悪いと休んでいます」
「ルーシ姫に何か言われたか。私には『おひとりで寂しい時は何をなさっているのですか』ですって。ドルギ王子も良くあんなのを好きになったものです。明け透けにも程があります」
「面白い姫だと思いますよ。度胸があります」
「そうですか。それはいいとして工場の監視をお願いしますね」
「わかりました」
ダンルは一礼して退室した。
「用があったら呼ぶので下がりなさい」
レナンは侍女を下がらせてベッドに腰かけてため息をついた。
「ヴァンジュの返還の代償が工場建設とは甘かったか」
おもむろに立ち上がり椅子に座り机の端末を起動した。
トオヤから渡されたエルトの記録を見た。
「こんなのを見たら返して欲しくなるのも無理のない事だ」
画面には大樹のそばに立つエルトの画像が映っていた。
「エルト、これで良かったの……」
レナンは静かに呟いた。
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