呪縛(7)
プリアスタの病院の前でトオヤは兵達に囲まれて立っていた。
ペルトーレが飛んで来た。
「来たか」
トオヤが呟いた。
ペルトーレは着陸して右手を差し出した。トオヤは黙って乗った。
ペルトーレの腹部のハッチが開いてトオヤは乗り込んだ。
座っているトオヤの首筋を壁から伸びた針が刺した。トオヤの表情は変わらなかった。
『適合確認。レシスのカイキスへ発進』
コックピットに響く機械的な声と共にペルトーレは背中と足から紫の光を放ち高速で飛んだ。
『適合度上昇。同期度最大』
「ヴァンジュ、君と僕の意識を合わせるんだね。いいよ。後は君に任せよう」
トオヤは目を閉じた。コックピットの表示が素早く切り替わった。
ペルトーレの機体が赤くなり紫の光が更に輝き高速モードに変わった。
レシスのカイキスの上空でペルトーレは白い機体に変わりゆっくり着陸した。
『カイキスに到着』
コックピットの声でトオヤは目を開けた。ハッチが開いて降りるとゾロハとロッツが立っていた。
「あなたがゾロハ老師ですか」
「そうだ。この子はロッツ。よろしくな。トオヤ」
「お邪魔します」
トオヤは一礼してゾロハを見た。
ゾロハはハッとした。
(まるで古代メイセア族の目をしている)
トオヤの目はシャルンと同じ澄んだ青い目になっていた。
「随分と様子が変わったな。アンカムの条約で見た記録と違う」
「それは僕が半覚醒状態になってゾレスレーテと意識が同調したからでしょう。古いゾレスレーテは古代メイセア族の意識が情報として埋め込まれている。ゾレスレーテに不要な情報も含めてね。同調した結果、僕の体に変化があってもおかしくないですよ」
トオヤは淡々と答えた。
「その話し方。それは作られた者の特徴か。まるで悟った者のようだ」
ゾロハは少し戸惑って訊いた。
「作られた者と言われるのは心外ですが僕自身の言葉と言っておきます」
「まあ良い。私の家でゆっくりしなさい」
「それではお邪魔します」
トオヤは微笑んでゾロハ達について行った。
ゾロハの屋敷でトオヤは地球の事について話した。ゾロハは興味深く話を聞いた。
「酷い話だ。よく住んでいられるな。火星とやらに移住してもいずれ戦いが起きるだろう」
「地球を汚す人類は滅びた方がいいのですが、どうしても人類を生き延ばせようとする者達がいるので訳のわからない社会を築く。その為に僕のような知識を蓄えた人間を作って政治家達が僕達に判断を仰いで議論する。愚かですよ。自分で判断できず都合が悪い時には僕達のせいにして廃棄処分にする。笑えませんよね」
トオヤはフッと軽く笑った。
「どこの星も愚か者の集まりだ。ところでどうしてここに来たのか?」
「あなたが持っている情報が欲しい。ヴァンジュでもレシス族の情報を把握できなかった」
「なるほど。レシス族の知識に魅かれてここに来たという訳か。構わんよ」
「ありがとうございます。端末を借りてもいいですか」
トオヤが訊くとゾロハは「構わんよ」と答えた。
トオヤが端末を起動した時、
「うっ!」
トオヤは小さく呻いて倒れた。
ゾロハが睡眠用の光線銃を撃った。屋敷に数人の男が入って来た。
「少し休むといい。今のお前は本当のお前ではない。トオヤを《アルバルズ》に入れてやりなさい」
ゾロハの指示に従って男達はトオヤを屋敷の敷地にある施設へ連れていき裸にしてアルバルズと呼ばれる液体入りの冷凍睡眠装置に入れた。
「ゾロハだ。しばらくトオヤとゾレスレーテを預かる。ミッドレ司令官に伝えておいてくれ」
ゾロハは端末でレシスの基地に連絡を入れて食事に出かけた。
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