呪縛(5)
宇宙船の中でザッズは戻った記憶についてドルギに話した。
「なるほど。トオヤは政府の賢者か。しかしこの星では何の役にも立たない知識ばかり持っているのだろう。お前が兵士だったのは何となくわかっていた。その経験をブラーゴの為に活かして欲しい」
「殺さないのか」
「地球では同族を簡単に作れるから気に入らない者をすぐに殺せるのだろう。お前がすぐに死を望むのはそのせいだ。ここは地球ではない。私に従ってもらう。いいな」
「わかった」
「もういい。持ち場に戻れ」
ドルギが言うとザッズは部屋を出た。
「やはり殺すべきだった。見た目がガキだから迷ったが知識を欲しがる化け物だ。敵になったら厄介だ」
ザッズは呟きながら廊下を歩いた。
「面白い事が起きたな」
レシスの屋敷でゾロハは通信衛星を通して送られて来た病院の騒動の映像を端末で見て微笑んだ。
「何か大変な事が起きるのですか」
ロッツが茶を持って来た。
「大変な事か……そうだな、トオヤがここに来るかもしれんな。寂しいだろうから来たらうまい物を食わせてやろうか」
ゾロハは茶を飲みながら言った。
翌日、城の隣にある青白い宮殿でシャルン達儀官が集まった。
儀官は城の儀礼的な式典から軍や研究所の管理まで手広く行っていた。シャルンの様な古代メイセア族の血を引く者は高位に就いて他の儀官を指揮した。
「トオヤとヴァンジュの相性は良さそうだな」
老いた儀官がシャルンに言った。
「体の適合は普通でしたがトオヤの特別な判断力がヴァンジュを引き寄せているのでしょう。根拠はありませんが」
「勝手にゾレスレーテが動いた原因は調べるとして問題はトオヤが王族のみが知る事を知っている事だ」
「ヴァンジュは王の機体と言っていましたから大体の事をわかっているでしょう。自分が気づかないうちに記憶に刷り込まれているのかも知れません。トオヤは特殊な教育を受けていたので」
「殺した方がいいかも知れん」
老いた儀官が静かに言った。
「それはまだ先でいいでしょう。もしかしたらゾレスレーテの構造を調べるのに役に立ってくれるかも知れません」
シャルンが淡々と言った。
「監視を付けよう。シャルンがやってくれるか」
シャルンは淡々と「はい」と老いた儀官に答えた。
会議を終えてシャルンが青白い廊下を歩いていると儀官の長のハルシスが呼んだ。
「ヴァンジュの修理の具合はどうかね」
「難航しています。まさかあの状態で飛んで来るとは思っていませんでした」
「ゴレットと違って古いから何が起きるかわからんからな」
「ペルトーレにトオヤの翻訳機を繋げろとヴァンジュが言っていますが正直迷っています」
「冷静なお前が戸惑うとはな。アンカムのせいで歴史が変わるのが嫌なのか」
「いえ。メイセアの歴史を見守るのが儀官の役目なのでアンカムの存在は気にしませんが、ゾレスレーテの変化が心配です。何かが変わっている気がします。何となくですが」
シャルンの答えに僅かに感情が混ざった。
「今だったらベルックは死なずに済んだと思うか」
ハルシスが訊くと、
「さあ、どうですか」
と表情を変えずに答えた。
シャルンには年が近い兄のベルックがいた。
ベルックもゾレスレーテの調整を行っていた。
ある日、ベルックが自分の体とゾレスレーテを繋げてゾレスレーテに知能を転送していた時、同期機能が暴走してベルックに知能データが逆流した。
ベルックはその負荷に耐えられず死んだ──
シャルンが駆け付けた時にはベルックの遺体は運び出されていた。
室内には試験機のゾレスレーテの頭部が吊るされ床にはベルックが頭に着けていた転送装置が転がっていた。
「お前が殺したんだぞ。わかっているのか!」
シャルンはゾレスレーテに叫んだ。吊るされた頭部は反応しなかった。
昔の事を思い出したシャルンはフッと微笑んで、
「ゾレスレーテが変わってもメイセアの歴史は変わりませんよ」
とハルシスに答えて宮殿を出た。
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