呪縛(1)
メイセア軍の艦隊がブラーゴの宙域から外れた場所に現れた。
「亜空間航行ってあっけないんだな」
ブリッジにいたトオヤが呟いた。
《メログデン》──エルト王の為に作られた小型艦でヴァンジュと支援機の《スパーシュ》が収容されている。
かつて王の他に親衛隊が乗っていたが王の死と共に部隊は解散。今はトオヤとジェイスの他、急遽集められた兵や技術者が乗っていた。
「船体に異常なし。全員持ち場へ」
艦長のカムダはマイクで言った。トオヤとジェイスは格納庫へ向かった。
「こんな小さな船でブラーゴに降りるのか。すぐ撃ち落されそうだな」
「他の船が守ってくれるさ。王の船だからな」
「ゾッロ達がいるサウレックスに乗りたかったな」
トオヤはジェイスに言うと、
「まあな。こっちの方がヴァンジュのメンテが楽だから仕方ないさ」
ジェイスは正面を向いたまま言った。
二人は格納庫に入った。
ジェイスは「それじゃ」とスパーシュに乗り込んだ。
ヴァンジュの足元にシャルンがいた。
「シャルンまで来なくて良かったのに。儀官って戦争の手伝いもするのか」
「ヴァンジュの調整の為ですよ。ゴレットと違って古いですからね」
シャルンが微笑んで答えた。
「使える物は何でも使うのはいいけどさ。本当にこいつで戦えるのか」
「王のゾレスレーテなので士気は上がりますよ」
「俺は王様じゃないけどな」
トオヤは投げやりに言ってヴァンジュに乗った。
(そう。君は王ではない。でもそれに乗れるのは何か意味がある。決して偶然ではない)
シャルンは黙ってヴァンジュを見上げた。
戦闘はすぐに始まった。
衛星ガレミザ宙域の補給基地付近でセルセとドレングが交戦した。
「ゴレットが出てきたらボルザットで出る。準備しておいてくれ」
補給基地の格納庫でザッズは技師に言うとドレングに乗った。
「前線を抜けてきた部隊を叩くのが我々の任務だからね。前に出過ぎるなよ」
シャイザの声がコックピットに響いた。
「メイセアが攻めて来るとはな。今度は本気のようだ」
王都レーデの王宮の自室でブレッツォが呟いた。
「いつかはこうなる運命だったのですね。残念です」
椅子に座ったゼイアが目を伏せた。
「プリアスタを攻める作戦が漏れたのだろう。しかしこちらが攻撃されたらブラーゴもメイセアを攻める口実が出来る。メイセア族は本当に愚かだよ。我々もだがな」
ブレッツォが暗い空を眺めて言った。
「ルーシ様、避難の準備を」
侍女が言うとルーシは、
「残るわ。王と王妃を守るのが私の務め。ドルギと約束したの。あなた達は避難して」
と静かに指示した。
侍女は「私達も残りますから」と上品に一礼して部屋を出た。
レーデでは軍の指示で住民の避難が進んでいた。
「メイセアの連中はこれだから」「全く迷惑だ」「同じ種族と思えない」
住民達は不満を口にしながら町の外へ出て行った。
「住民の避難が済むまで食い止めろ」
ガレミザ宙域の補給基地でバラル司令官は耳にかけたマイクで叫んだ。
ブラーゴの艦隊が補給基地から発進した。
セルセとドレングの細い点線のような光弾の合間を戦艦の太い光線が飛び交い時折、火の手が上がる。
宇宙空間で爆散する機体。その間を抜ける光線。どちらの軍も引けを取らないがメイセア軍の増援艦隊が亜空間航行して来て変わりつつあった。
「補給基地を攻撃せよ」
ミッドレの命令でメイセアの艦隊は補給基地へ攻撃を始めた。
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