森の星(4)
「ブラーゴ軍に散々やられたらしいな」
会議室のモニターでダンルが不機嫌な表情で言った。
「すまない。ゾレスレーテにな。ゴレットの改造機らしい。乗っていたのはザッズというアンカムだ」
ミッドレが申し訳なさそうに答えたが、
「こっちのアンカムはどうなんだ。さっき会ったが子供じゃないか。地球の兵の奴は適合しなかったのか」
途端に呆れた口調に変わった。
「信じられないがトオヤの適合度は高い。ジェイスは無理だった。同じ星の種族でも個体差が激しい。彼らの話を聞くと人工授精とやらで体を調整するからかも知れん」
「研究所の奴らが笑っていたな。地球では同族を機械で作って食うのかって」
ミッドレがフッと微笑んだ。
「そう言って笑っている連中もかなり危ないな」
ダンルが引き気味に言った。
「それでヴァンジュをどうするんだ。使えないだろ。ゴレットより劣る見掛けだけの機体を」
「そう言うな。ヴァンジュは《メログデン》に乗せる。船は調整中だ。ジェイスは《スパーシュ》に乗ってもらう」
ダンルは微笑んで言った。
「また古いのを色々持ち出して来たな」
「サウレックスと動くから大丈夫だろう。ブラーゴ侵攻に連れて行ってくれ」
「わかった。安心しろ。壊れない程度に使うから」
ミッドレはため息をついた。
レシスのカイキス──
先程トオヤが少女と出会った草原の向こう側にレシス族が住む小さな町がある。
建物はメイセアの田舎町と大して変わらない。
「ロッツ。ヴァンジュを見たそうだな」
やや肥満気味の長老のゾロハが屋敷でロッツに優しく訊いた。
「はい。私と同じ位の年の子が乗っていました。自分はトオヤでアンカムだと」
ロッツは思い出しながら呟いた。
「王のゾレスレーテに乗るのがアンカムとはな」
禿げあがった頭を掻きながらゾロハは言った。
「これは何かの導きでしょうか」
「導きか。そうだな。戦いは激しさを増して色々な物を巻き込んでいく。ジルマストさえも戦いの道具になりつつある」
「ジルマストなんてただの珍しい石でしょう」
ロッツは馬鹿にしたように訊いた。
「加工すれば軽くて丈夫な素材になる。しかし化学反応を起こせば強力な兵器になる。かつて大戦で使われた《ラギュンゼ》と同じ兵器も作れる」
ゾロハは棚に飾ってある結晶化したジルマストの置物を見ながら言った。
「大地を底まで焼いたという兵器ですか。ですが原料は全て焼けて無くなったのでは」
ロッツの表情が強張った。
「ジルマストが似た効果を出すのがわかったんだ。段階的に化学反応を起こせばな」
「そんな物がまた使われたら」
「メイセアは終わるだろう。何もかも焼き尽くされてな」
ゾロハは怯えるロッツに目を伏せて答えた。
外で鐘が鳴った。
「もうこんな時間か。ロッツ行くよ」
ゾロハが立ちあがるとロッツは「はい」と一緒に屋敷を出た。
町の広場には料理が置かれた長いテーブルが並んで住民達が長椅子に座ってゾロハが来るのを待っていた。ゾロハとロッツは椅子に座った。
「感謝を込めて」
ゾロハの声に住民達は手拍子を三回して食事を始めた。食卓はすぐに賑やになった。
一日に一度、集まって食事をするのは畑で収穫した食材を無駄にしないのと談笑を楽しむ為。余った料理はそれぞれの家で翌日の朝食にした。
うちの子がどうだと世間話をする住民達に幼い子供はいるものの若者は少なかった。
殆どがメイセアで働いて結婚して年老いてレシスに帰って来た。カイキスの町にいる大半の住民はメイセア族で純粋なレシス族は減りつつあった。
メイセア軍や政府で働いてゾロハに伝える者もいた。ゾロハがアンカムの存在を知っていたのもその為だ。
毎日戦いに向けての悪い情報しか届かないゾロハはため息をつきながら紫の果物を手に取った。
「これからどうなるのだ」
ゾロハは呟きながら果実を両手で割って頬張った。
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