森の星(3)
ブラーゴへ攻めていた艦隊がレシスの基地に着艦した。
側近と車に乗って隣のブロックに入るとヴァンジュが動いているのが見えた。
「止めろ」
ミッドレが抑揚のない口調で言うと運転手が車を止めた。
ミッドレは側近に「待っていろ」と言ってヴァンジュの歩く方へ向かった。
ヴァンジュが止まって腹のハッチが開いた。
トオヤが昇降機から降りて歩いていると、
「おい、お前」
ミッドレが声を掛けた。
トオヤが「はあ?」と訝し気にミッドレの顔を見た。
「お前がヴァンジュに乗るアンカムか」
高圧的な物言いにトオヤはムッとしたが、
「ええ。地球というクズな星のアンカムのトオヤです。あいつは気に入っていますよ。メイセアの連中より」
ヴァンジュを指差して皮肉交じりに言った。
「ふん、よく言う。気に入ってもらっているなら戦力になれ。ゾレスレーテは遊び道具じゃないからな」
ミッドレは鼻で笑って歩いて行った。
「何だあいつ。嫌な奴だが何か強そうだな」
トオヤは呟いて基地の奥にある休憩室に入った。
ジェイスとシャルンが部屋にいた。
「どうだ。調子は」
ジェイスが訊くとトオヤは「まあまあだな」と答えた。
「トオヤ、これを見て欲しいのですが」
シャルンが端末を見せようとしたがジェイスはシャルンの端末を取り上げてトオヤに見せた。
「こいつに心当たりはあるか。名前はザッズ」
「ないよ」
ジェイスは端末を自分に向けて、
「こいつがブラーゴにいる地球人。そして奴は記憶を失くしている。以上だ。わかったか?」
ゆっくりと棒読み口調に言った。
トオヤは「おう。それだけならわかったよ」と戸惑いながら答えた。
ジェイスは「はい。終わり」とシャルンに端末を返した。シャルンも戸惑った。
「説明不足だな」
ミッドレが入って来た。
「あんた、さっきの」
トオヤが言いかけると、
「ミッドレ司令官。お久しぶりです」
シャルンが挨拶した。
「シャルン儀官。ヴァンジュの調整かね」
「ええ。ザッズの件で何か」
シャルンが穏やかな口調で訊いた。
「やつは敵のゾレスレーテに乗ってゴレットを撃墜した。適合者だよ」
トオヤは「えっ」と思わず呟いた。
ミッドレはトオヤを見た。
「どうやらお仲間は倒すべき敵になったな。殺せるか。お前に」
ミッドレの問いにトオヤは黙ったが、
「別に仲間じゃないし、攻撃されたらやり返すだけだ」
と淡々と答えた。
「子供相手に酷な事を訊くね。司令官殿は」
ジェイスが言うとミッドレはジェイスを見た。
「お前は地球では兵士だったそうだな。お前が適合者なら良かった」
「こいつの方が相性がいいから仕方ないさ。それで何の用ですか。司令官殿」
「アンカムの顔を見に来ただけだ。軍に入ったからには私の指揮下だ。これからはブラーゴ侵攻作戦に加わってもらう。じゃあな」
ミッドレは手を振ってその場を去った。
「いかにも司令官って感じだな。シャルンはあいつを知っているのか」
「ええ、優れた司令官。それにダンル王子の親友です」
「ああ、なるほどね」
シャルンの答えにジェイスは納得したがトオヤは黙っていた。
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