森の星(1)

 メイセアの衛星レシス。トオヤはここにあるメイセア軍の基地でヴァンジュの稼働テストを行っていた。以前にヴァンジュに乗ってレシスに訪れた時はうまく動いたもののその後の点検で機体の老朽化や破損部分が多数見られて外観は変わらないが最新のゴレットの部品を流用して調整が行われた。

「腕の動きが遅いぞ」

『関節の回転力限界』

 ヴァンジュの答えにトオヤは苛立った。

「シャルン、聞こえたか」

「ええ。トオヤの動きが早いのでしょう。その年のメイセア族がゾレスレーテに乗るのは考えられていませんからね。機体に合わせて下さい」

「大人が乗る兵器。仕方ないか。外で飛んでみる」

 トオヤはヴァンジュを動かした。ヴァンジュが基地を出た。基地の試験区域の森は伐採されて灰色の土がむきだしになっている。所々に砲撃の跡が残る中でヴァンジュは背中から紫の光を出して旋回しながら飛んだ。

「機体が回っているのにスピードを感じない。どんな風にすればこんなに負担にならないのか」

 トオヤが呟くとヴァンジュが専門用語を並べて説明を始めたので「いや、いいから」と言って話をやめさせた。

「知っている事は何でも答えるのか」

『パイロットのセキュリティレベルに見合った事なら』

「ふ~ん。地球の言葉を覚えてくれて助かるよ」

 トオヤが地球の宇宙船にあった端末を回収してメイセア軍で端末のデータを可能な限り翻訳してヴァンジュに記録させた。ヴァンジュは非常に早く地球の言語を習得した。

「カイキスに行くか」

『了解』

 ヴァンジュはカイキスへ飛んだ。

「うん?」

 トオヤは人影に気付いてカイキスの草原に機体を着陸させた。

 少女は驚いた顔でヴァンジュを見上げた。

 トオヤは機体を降りた。

「ここで何しているんだ?」

 トオヤが訊くと少女はおどおどして後ずさりした。

「あっ、いきなりで悪かった。ごめん。びっくりするのも無理ないか。俺はトオヤ。自分で言いたくないけどアンカムだ。こいつはヴァンジュでゾレスレーテってやつ」

 早口で話すトオヤに少女は相変わらずおどおどした。

「まだびっくりしているのか」

 トオヤは困った。

「えっと……その……ごめんなさい」

 少女はそう言って走って行った。

「何だよ。ここの住民は臆病なのか」

 自分と同じ年頃の少女に怯えた態度を取られたのが少し悲しかった。

 ヴァンジュに乗ると、

『口説き下手』

 淡々とヴァンジュが言った。

「おい、そんな言葉まで覚えたのか。ていうか口説いてないし。まあいいや。レシスに住んでいる奴ってメイセアの奴と仲悪いのか」

 トオヤの問いにヴァンジュは答えた。

 レシスには基地から離れた場所にレシス族と呼ばれる種族が住んでいた。メイセア族とは若干交流がある程度で余計な干渉をしない条件でメイセア族がレシスに基地を作った。

「それなら仕方ないか」

『あのレシス族はロッツで……』

「ああ聞きたくない。干渉しない条件なんだろう」

 トオヤが言うとヴァンジュは説明をやめた。

『空間移動反応発生』

 ヴァンジュが言うとトオヤは「えっ」と戸惑った。

 右上の空に巨大な白い光の輪が輝いた。

「えっと、亜空間から出てくるってやつか。敵か?」

『識別信号確認。司令官艦隊』

 ブラーゴの宙域の戦闘から帰艦して来た三隻の艦隊が光の輪から現れた。艦隊は減速しながら基地の方向へ飛んだ。

「司令官? 今帰ったら面倒だな。しばらく飛ぶか」

 トオヤは基地から遠く離れて飛び回った。

「基地に戻って下さい」

 シャルンの声がした。

 トオヤはため息をついて「わかった」と答えた。帰って来た艦隊の兵にシャルンがトオヤを紹介するのだろう。アンカム呼ばわりして蔑んで見る兵達の顔が想像できた。レシスの基地で何度もそういう顔で見られた。

「アンカムは辛いね」

 トオヤはヴァンジュを操縦して基地へ戻った。

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