黒い雲の星(5)
数日後、ザッズ達は
《ガレミザ》──ブラーゴの衛星で淡水の星。陸地が少ない為、ブラーゴへ水を運ぶ基地がある位だった。
「雲に覆われたブラーゴと違って綺麗だな。何でこっちに住まないんだ。浅瀬を埋めて居住区を作ったら幾らでも住めるだろ」
ザッズは作戦室で外に映るガレミザをモニターで見ながら同じ部隊のドータスに訊いた。
「あの水は飲めないのさ。ガレミザの成分や雑菌が色々混ざっていてな」
「ああ、それでか」
不愛想に言うドータスにザッズも無表情で答えた。
艦内で甲高いアラームが鳴った。二人は格納庫に入ってドレングに乗った。
「メイセアの艦隊が接近。援軍が来るまで応戦」
コックピットの無線機からオペレーターの指示が響いた。
シャイザの「行くよ」の声がその後に響いた。
「訓練の後にこれか」
ザッズはヘルメットのフェイスシールドを下ろして操縦桿を握った。
格納庫からドレング部隊が発進した。敵のセルセ部隊とすぐに交戦した。光弾があちこちで光りながら爆散する機体があった。
「シャイザ隊、敵部隊に突入と同時にザイデロン発射。当たるんじゃないよ」
シャイザの声に五機のドレングがセルセ部隊に突っ込んで機体の上部から細かい光弾を発射した。セルセが次々と爆発した。シャイザ隊のドレングは急旋回した。すれ違う様に後続のドレング部隊が突入してザイデロンを発射した。
「援軍はまだか」
ザッズは苛立った。敵の光弾が機体スレスレに通過する。少しでもずれたら命中する距離だ。
沢山の太い光線が敵へ飛んだ。
「来たか」
機体のレーダーで味方の艦隊を確認してザッズはホッとした。
「帰艦してザイデロンを補給して発進する」
シャイザの声が無線で響いた。
すれ違って飛んで行くドレング部隊を横目にザッズはゲナンドラの格納庫に着艦した。整備士が機体にザイデロンを補給した。
「ザッズ、初めての実戦はどうだい」
ヘルメットを外して髪を整えながらシャイザはザッズを見た。
「生きているのが不思議な気分だ」
「お前は生きている。何もなくても今を生きている。それでいいんだよ」
「ありがとうな」
ザッズはシャイザに優しく答えた。
シャイザ隊が再び発進した。敵からの攻撃は手薄になった。
「ゴレット接近」
オペレーターの声にザッズは緊張した。
「ゴレットにザイデロン発射後帰艦」
シャイザが言うとザッズが「了解」と操縦桿を前に倒した。
ゴレットが見えた。次々とドレングを撃墜していた。
「あの巨体でよく動く。どうなっているんだ」
ザッズはボルザットに乗った時を思い出した。
「散開してザイデロンを発射」
シャイザの部隊は四方に散開して機体を傾けてゴレットにザイデロンを発射した。
無数の細かい光弾がゴレットに向かった。ゴレットの周りに薄い光の膜が輝いて弾を受けた。
「バリアか。まずいな」
ザッズは急旋回して逃げた。
「早すぎる!」
後ろを飛んでいた味方のドレングがゴレットに蹴飛ばされて爆発した。
「何でデカいのに早いんだ」
ザッズは全速力で飛んだ。目の前にシャイザの機体が見えた。
「隊長、敵が追って来る」
「わかっている。援軍が応戦する」
シャイザの言う通り援軍のドレング部隊が攻撃を始めた。しかし次々と撃墜された。
「とにかく帰艦だ。こんなに早いとは」
シャイザの命令でザッズ達はゲナンドラの格納庫に入った。
「このままだとゴレットにやられる。そして艦隊戦だ」
ドータスが緊張した声で無線で言った。いつもの不愛想な声ではなかった。ザッズはコックピットのハッチを開けて飛び下りた。
「どうするんだ」
ヘルメットの無線でシャイザに、
「黙って死ぬより潔く死ぬさ」
叫ぶように答えて格納庫の隣の部屋に入った。
「俺に乗れるのか」
そこにはボルザットがあった。
ヘルメットを外したザッズは深呼吸をして腹のハッチを開いて乗り込んだ。
『生体反応適合。機体制御確認。同期機能に問題発生。自動操縦不可』
「やはりな。自動操縦停止」
『生体情報再確認』
コックピットから頭と首に数本の細い針が刺さった。
「うわあああ!」
ザッズは叫んだ。
「死んでたまるか。さっさと調べろ」
ザッズは息を荒くしながら叫んだ。
『手動操縦可能』
痛みがおさまったザッズはコックピットの機器を操作した。
「隊長、こちらザッズ。ボルザットを動かす」
無線でザッズが言うと、
「何だって! ちゃんと動かした事ないだろ。やめときな」
シャイザが怒鳴った。
「このままだとやられる。今、動かす」
ザッズはシートの両脇にある操縦桿を握った。ボルザットが歩いた。
「武器はあそこか」
床に置いてあったハンドガンを手首に、腰にマシンガンを着けた。
「ブリッジ、ボルザットで発進する」
ザッズの呼び掛けにオペレーターは「待って下さい」と間を置いてすぐに。
「了解、ボルザット発進。シャイザ隊はボルザットを援護」
と答えた。
「いいのかい」
シャイザが訊くと「今止めたら死ぬかも知れんから動く」と答えて操縦桿を動かした。
ボルザットが歩いて格納庫に入った。格納庫のリフトが上昇してゲナンドラの甲板の上に立った。
「発進する」
ザッズが言うとボルザットが前方に飛んだ。その後をシャイザ隊のドレングが追って来た。
「どうすればいいんだい」
「俺が攻撃する以外のゴレットの足を止めてくれ。同時に相手は出来ない」
「わかったよ」
ザッズがシャイザに答えるとボルザットは前に出た。
「まずはあいつから」
ドレングを撃墜しているゴレットをモニターで見た。向こうも気づいたらしくこちらに飛んで来た。
ボルザットは右手首のハンドガンを撃った。ゴレットはジグザグに動いて光弾をよけた。
ゴレットが掌から光弾を連射した。ボルザットはよけながら間を詰めて近づいてゴレットの足を蹴った。ゴレットの動きが止まってボルザットはゴレットの腹を殴りすぐにハンドガンをゴレットの顔に撃った。ゴレットの顔の装甲が砕けた。
ボルザットはゴレットの背後に回り蹴飛ばして腰のマシンガンを持って連射した。
光弾が背中の噴射口に命中してボルザットは爆散した。
二機のゴレットが近づいて来た。
シャイザ隊のドレングが攻撃してゴレットの速度が落ちた。
『同期に異常。左手が動作不能』
「くそっ、右手でやれるか」
ボルザットは右斜め上を飛ぶゴレットに接近してマシンガンを撃った。足に命中した。
「今だ」
ザッズは操縦桿を前に押し込んだ。ボルザットは全速力でゴレットに接近した。ゴレットが光弾を撃った。ボルザットは薄い光の膜を張って弾を受けた。コックピットが激しく揺れた。
「ギリギリか。そこだ」
ボルザットが追い抜いてゴレットに足を向けた。足の装甲が開いて四本の太い光線を発射した。光線がゴレットの体を貫通して爆散した。
「あと一機」
ザッズはモニターで敵を探した。シャイザ隊と交戦していた。
「そろそろ持たないよ」
シャイザが言った。
「わかった」
ボルザットがマシンガンを撃ってゴレットを威嚇しながら接近した。
ゴレットが光弾で反撃したが光の膜で防いだ。ボルザットは反転して足から光線を発射した。
ゴレットは光の膜を張ったが光線がゴレットの体を貫いた。動きが止まった。
「今だ」
ボルザットは突進しゴレットの腹にマシンガンの銃口を当て連射して素早く離れた。
ゴレットは爆散した。
「お前……いや何でもない。よくやった」
シャイザの驚いた声がコックピットで響いた。
「左手が動かない。帰艦する」
「わかった。帰るよ」
シャイザが安堵して答えると部隊は帰艦した。
着艦したザッズはボルザットを降りた。整備士が駆け付けた。ザッズはしゃがんで息を荒くした。
「悪い。体が動かないんだ。後を頼む」
ザッズはそう言うと気を失った。
援軍の攻撃もありメイセア軍は撤退した。
ゲナンドラは宙域に浮かぶ補給基地に入った。ザッズは基地の医務室に運ばれた。
「頭が痛い……」
ザッズはベッドで起き上がり頭を押さえた。
「大丈夫かい」
シャイザが部屋に入って来た。
「ああ、何とか生きているよ」
「あんまり無茶するなよ。あんたの血はまだ調べているんだ。怪我した時に私達の血が使えるかわからないからね」
シャイザが言うとザッズは「ああ、気をつけるよ」と答えた。
「お前、もしかして自分の星で戦っていたんじゃないのか」
「何となくだがそんな気がする。操縦する時の感覚を体が知っている。ボルザットは初めてだがドレングはな」
「余計な詮索はしないけど私の命令には従ってくれ。じゃあな」
シャイザはそう言って部屋を出た。
「あいつの目。俺を恐れている。その目も知っている。俺は今まで何をやっていたんだ」
知らない自分への不安を感じながらザッズはベッドで横になった。
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