漂流の果て(7)

 レシスの基地に着いてトオヤはヴァンジュに乗って船から出た。ヴァンジュの周りにはあっという間に人だかりが出た。

「先代の王が乗っていたから人気者なんだな。いや、お前が人気者か」

『ニンキモノ……解読不可能』

「わからないんだ。もしかして俺は普通に喋っているがメイセア人には通じない言葉があるのか。脳を手術して思った事はメイセアの言葉で話せている筈なのに」

 トオヤは腕を組んで考えた。

「トオヤ、誘導灯の方向へ進んでくれ。カイキスの場所はそいつが知っている」

「了解。帰ってから考えるか。右に曲がって前進」

 ヴァンジュは『了解』と答え指示通り進んだ。基地を出るとメイセアと同じ不思議な色の空の下で広がる草原に出た。ヴァンジュは紫の光を出して飛んだ。

「メイセアと違ってレシスは自然が豊かなんだな。戦いがなかったらメイセアもこんな景色だった筈なのに」

 森と草原が広がる大地──トオヤの目には地球の景色と被った。

 環境破壊が進んだ地球では人が住める地域が限られていた。トオヤが住んでいた地域には造成された森と草原があった。

『カイキスに到着。着陸』

 ヴァンジュの声で我に返ったトオヤは着陸の衝撃に備えた。

「ここで何をするんだ」

 トオヤが訊いてもヴァンジュは何も答えなかった。

「おい、何とか言えよ」

 トオヤが言うと『目標物発見』とヴァンジュが歩き始めた。

 ヴァンジュは四つん這いになって顔を大樹に向けた。

(あの木を見ているのか)

 トオヤは黙って様子を伺った。

「これは……」

 モニターにエルトが木に手を添えて立っている映像が映った。

『この木を見るのはこれで最後だろう』

「何だ!」

 コックピットに響く知らない男の声にトオヤは驚いた。

『城で休む前に来たかったんだ。本当はレナンと来たかったんだが仕方ないか。別にお前とだと不満じゃないけどな』

「この声はエルトなのか。お前、思い出しているのか」

 トオヤの問いかけにヴァンジュは黙ったままだった。

『誰かがヴァンジュに乗る時が来たらその者に伝えて欲しい。生きる為に戦えと』

 声が途切れた。

『これをレナンに渡せ』

 ヴァンジュが言うとモニターに木の横に立つエルトの画像が表示された。

 銀色の草木の模様の入った白い軍服を着た男の笑顔に憂いが滲んでいた。

 トオヤは「わかったよ」と手首の端末をモニターに合わせて画像を端末に記録した。

「用が済んだなら基地に戻るぜ。メイセアへ直接帰れないだろう」

『メイセアの本部基地へ帰還する』

「おい、大丈夫か」

 トオヤが驚いた。

『エルジューディ異常なし』

「無事に帰ってくれよ」

 ヴァンジュの背中と足から紫色の光が輝き急上昇した。

「凄い。こんなに早く飛んでいるのに体に何も感じない。セルセだとここまで飛べないな」

 メイセアに接近した。

『プリアスタの位置確認』

 ヴァンジュが頭からメイセアの大気圏に入った。

「室温は上がらない。本当にどうなっているんだ。この機体は……」

 トオヤは計器を見ながら呟いた。雲を抜けて地上が見えた。大きく黒焦げた場所があちこちで見えた。

「昔の戦争の跡がまだあんなに残っているのか」

 トオヤは呟いた。

 ヴァンジュがプリアスタの基地に着陸した。

「帰って来た。急に疲れた。またな」

 トオヤは機体から降りた。ダンル達が車に乗って来た。

「よお。お疲れ」

 ジェイスが声を掛けた。トオヤは「ああ、災難というか旅行というか変な気分だよ」と笑って答えた。

「大丈夫か」

 ダンルが話し掛けた。トオヤがダンルを見ると硬い表情に変わった。

「ヴァンジュからだ。これを女王に」

 自分の手首の端末をダンルに見せた。

 不審に思いながらダンルは「わかった」と自分の手首の端末を見せてトオヤからデータを受け取った。

 ダンルは「細かい内容はゾッロに報告してくれ」と言うと引き返した。

 ゾッロに詳細を報告したトオヤは基地の寮で休んだ。

 翌日、トオヤは基地に保管されている地球の宇宙船で薄型の端末を集めた。

「バッテリーが切れているな。ここの燃料で動かせないかな」

 宇宙船にある薄型端末を全部持ち出してゾッロに使える様にならないか相談した。

「技師に頼んでおく。何で必要なんだ。地球が恋しくなったのか」

「これをあいつに繋げて言葉をわからせないかなって。俺の言葉がよくわからないらしい」

「そうか。言葉が通じないと大変だな。シャルン儀官にも頼んでおく」

 ゾッロはそう言うと通信端末で技師を呼んだ。

「それじゃ。作業に戻るから」

 トオヤは部屋を出て格納庫に入った。

(俺は何をしているのだろう。遠い星で大きなロボットに乗って他の星の軍と戦って……死ぬのか)

 トオヤはヴァンジュを見上げて呟いた。白に近い銀色のヴァンジュは照明で輝いている様に見えた。

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