漂流の果て(4)
赤黒い山脈の上でトオヤ達はブラーゴ軍と交戦状態になった。
セルセとドレングが光弾を放っている中でゴレットが突撃してドレングの機体を叩き潰した。
「何も武器がないのか」
飛びながら殴る蹴るを繰り返しながらドレングを撃墜するゴレットを見てトオヤは呆れた。そう思っているとトオヤのセルセにドレングが背後から攻撃をしてきた。
「まずい。回り込まれたか」
トオヤは敵の光弾をかわしながらスピードを上げて地上ギリギリを飛んだ。
「くそっ振り切れない」トオヤは叫んで操縦桿を握った。
「かわせよ」
ヘイズの声がした。トオヤが「えっ」と言っている内にゴレットが両腕から光弾を撃った。
光弾がセルセの両脇を飛んだ。
「左右に揺れたら当たる。あいつを信じるしかない」
ゴレットの光弾がドレングに命中して爆発した。
「ありがとう」トオヤが無線で言うと、
「礼なら後で言いな。まだ来るぞ。うわあ!」
ヘイズの叫び声が響いた。ゴレットの背後からドレングの編隊が一斉に撃って背中の噴射口に命中した。ゴレットが失速しながらトオヤのセルセに覆いかぶさった。
「両方とも落ちるぞ」
トオヤが叫んだ。
「掴むぞ!」
ヘイズが叫ぶとゴレットがセルセを掴んで仰向けになって地面に滑るように落ちた。
「くそっ、動かない。ヘイズ聞こえるか」
トオヤが呼び掛けてもヘイズから応答はなかった。ドレングが数機飛んで来た。
「このままでは撃たれる。あの中へ逃げるか」
トオヤはセルセから降りた。
「ヘイズ、開けろ! 開けてくれ!」
トオヤがゴレットの腹を叩くとハッチが開いた。中でヘイズが気絶していた。
「今、仲間を呼ぶから。えっと無線は……」
トオヤが機器に触ると薄い膜がコックピットを包んだ。トオヤは「えっ」と驚いた。
いきなり内壁から小さな針が各所から伸びてトオヤの体を浅く刺した。
「うわああああ!」
痛みと共に痺れを感じた。
トオヤの脳裏にゾッロの言葉が浮かんだ。
「体液を全部吸われて死ぬのか」
トオヤは恐怖を感じた。確かに針に何かを吸われている感覚がした。
「もういいさ。どうせ死ぬんだから。百五十年先の今を他の星で一人で生きても意味はないからな。好きにすればいい」
トオヤは覚悟を決めて力を抜いた。
『認証完了。再稼働。作戦継続。乗員交代により適合度不明。自動操縦で基地へ帰還』
コックピットで響く機械的な声にトオヤは「えっ」と驚いた。針が引いた。服のあちこちが血だらけになったが気にする暇はなかった。
ヘイズをコックピット後部の隙間に移したトオヤはシートに座った。
左右のひじ掛けから伸びた球状の操縦桿を握った。
覆われた光の膜に記号や文字が表示された。
前面のハッチの部分が透けて外が見えた。
「わからなかったら訊くしかないか。立ち上がりたい。どうしたらいいんだ」
『ゴレット稼働開始』
ゴレットが腹に乗せたセルセを下ろして立ち上がった。ドレングが砲撃してきた。
「ドレングを撃墜してゾッロ隊に戻れ」
トオヤが言うと『了解』の声が響いた。
ゴレットの背中と足から白い噴射光が出ると勢いよくドレングに突入した。ゴレットの両手から光弾が発射された。ドレングが次々と爆散した。
「すごい。これがゴレットか。飛んでいる感覚が全然しない」
程なくして前方に細い光弾が見えた。
「ヘイズ、大丈夫か!」
無線からゾッロの声がした。
「トオヤだ。ヘイズは俺を助けて気絶した。こいつの操縦の仕方を知らない。自動操縦で動いている」
「お前、乗れるのか! わかった。余計な物を触るな。こっちは片付けるから」
ゾッロが言うとトオヤは「わかった」と答えて操縦桿を握った。
二機のドレングが攻撃してきた。
「くそっ知らないぞ。前のドレングを攻撃しろ」
『自身で操縦可能。攻撃しろ』
コックピットのモニター画面に次々と記号が表示された。
「おい。いきなり命令かよ。手荒いナビゲーターだな」
トオヤは驚いて左右の操縦桿を強く握った。掌にガクンと重い感覚がした。
ロックオンマークがドレングに重なった。
トオヤは操縦桿のボタンを押した。ゴレットが頭から光弾を連射した。ドレングに光弾に命中して煙を上げて爆散した。
「直進だけならセルセと同じやり方でいけるか」
トオヤは操縦して交戦状態の空域に入ってドレングを体当たりで撃墜した。
「手の動かし方を教えろ」
「操縦桿を強く押して動かすんだよ」
背後からヘイズの声がした。トオヤは一瞬ビクッとした。
「気づいたのか。死にそうだよ」
「まさか乗れるとはな。代わるぞ」
「頼む。交代するから自動操縦に変更」
トオヤが言うと『自動操縦に変更』とゴレットが答えた。トオヤは急いでヘイズに席を譲った。
ドレングからの攻撃をかわしながらゴレットは前後左右によけながら頭から光弾を発射して撃墜した。
「なんて軽く動くんだ。セルセより大きいのに」
「驚いたか。振り回されるなよ」
驚くトオヤにヘイズは笑いながら操縦桿を強く握った。
敵部隊を全滅してゾッロ達は基地に戻った。二人を乗せたゴレットは遅れて到着した。
ゴレットがひざまずいてハッチが開いた。
「ああ、着いた。ありがとう。助かったぜ」
ヘイズが礼を言って先に降りた。トオヤが降りようとすると、
『生体情報を照合。ヴァンジュに乗る事を提案』
コックピットで声がした。
「ヴァンジュ? わかった。後でゾッロに訊いてみるよ。ありがとうな」
トオヤは呟いてゴレットから降りた。
隊員達が驚いてトオヤを見た。
「大丈夫か。血だらけじゃないか」
ジェイスが駆け寄った。トオヤは何の事かわからずに自分の服を見た。服が血で真っ赤になっていた。
「これがアンカムの血か」「どうなっているんだ」
周りにいた兵達が驚いた
ジェイスは舌打ちしてトオヤを抱きかかえて叫んだ。
「おい、しっかりしろ!」
「あれに乗ったら針みたいのにあちこち刺されて……大丈夫、痛くないから……」
トオヤは急に力が抜けてその場に倒れた。
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