漂流の果て(3)
翌日から二人は基地で訓練を始めた。
戦闘機のセルセは自動操縦に近くジェイスはすぐに操縦を覚えた。
トオヤは兵器の整備の仕方を学んだがメイセアの技術についていけず渋々とパイロットの教育を受けた。
「何で俺が乗らないといけないんだよ」
口癖になった言葉を繰り返しながらトオヤは発進した。
地球で普通の生活を過ごしていたトオヤにとって戦闘機に乗るのは納得できなかった。
「機体が軽い。軽すぎる。こんなフワフワした物で戦えるのか」
「その感覚があれば大丈夫だ」
後ろを飛んでいるジェイスが無線で答えた。
「目標物が見えたぞ。撃て」
目前に五機の無人機が飛んでいた。
「あ、ああ」
トオヤは操縦桿のボタンを押した。白い光弾を発射して一機の無人機に命中した。
「よし次だ」「わかった」
ジェイスの指示にトオヤは機体を右に傾けて光弾を連射した。無人機を二機撃墜した。
「左からだ」「了解」
ジェイスの声に答えてトオヤは機体を旋回させて左側に回り込んで光弾を連射して二機を撃墜した。
「まあ合格ってところじゃないか。帰るぞ」
ジェイスの声にトオヤは「了解」と答えてため息をついた。
基地に戻りセルセを降りると隊長のゾッロが待っていた。
「まあ合格だ。機体の旋回に癖があるから気をつけろ」
ゾッロはトオヤに飛行記録が入った端末を渡した。
「わかりました」
トオヤは端末を受け取った。
「それと悪い知らせだ。ブラーゴ軍がメイセアに攻撃を仕掛ける。大使を通して連絡が来た。休んでいろ」
「いきなり実戦か」
「そうだ」
トオヤのため口を気にせずにゾッロは答えた。
「どうせ地球に帰れないからここで死んでも構わないけどな」
ジェイスは投げやりな口調で言った。
「そうふて腐るな。お前なら死なずに帰れるさ。多分な」
ゾッロが言うとジェイスは「気休めでもありがたいぜ」と車に乗って近くの施設に向かった。
奇妙な金属音が聞こえた。トオヤは滑走路を見た。
「あれがゴレットか」
紺と灰色のゴレットが滑走路に降下して歩いて来た。
トオヤは初めて人型兵器のゾレスレーテを見て驚いた。
「こんなのどうやって動かすんだ。映画でしか見た事ないぞ」
トオヤが見上げていると、
「生体兵器で簡単に言えば頭は生き物、体は機械」
ゾッロが背後で答えた。
「あれは生き物なのか。ますますわからないな。言われてみたら機械っぽくないけど」
ゴレットのどこか樹脂状の装甲や剥き出しの部分を見てトオヤは少し納得した。
「言っておくが興味本位で絶対に乗るなよ。機体に拒絶されたら全身の体液を吸われて体がペラペラになるから」
「ゲッ、何だよそれ。怖いぞ」
トオヤは不快な表情で言った。
「適合しないと乗れないからな」
ゾッロは笑って言うと歩いて行った。
ゴレットがしゃがんで腹から男が降りて来た。
「よお、お前がアンカムのトオヤか。ヘイズだ。よろしくな」
ヘイズが声をかけるとトオヤは「よろしく」と答えて背後のゴレットを見た。
「あれに興味があるのか」
「いや、ゾッロが乗ったら体がペラペラになるって言われたから何で乗れるのかなって」
トオヤが言うとヘイズは大声で笑った。
「全くゾッロは悪い冗談を言うな」
「そうだよな。そんなもんに乗ったらみんな死ぬよな」
トオヤが軽く笑って答えた。
「いや、体が消えるから」
笑って言うヘイズにトオヤは真顔になった。
「俺もどうして乗れるのかわからないんだ。体を調べて儀官(ぎかん)に呼ばれて乗れって言われてさ」
「儀官? 儀式でもするのか」
「王族の式典から政治の補佐、兵器の研究までやる何でも屋ってとこかな」
「変わった職業だな。それがメイセアの特徴か」
「ゴレットの仕組みを聞いたが全くわからなかった。よく動いていると思うよ」
「そうか。俺には無理だな。じゃあ」
トオヤは右手を挙げてセルセの近くで待機した。
警報の甲高いサイレンが鳴った。
ゾッロとジェイスがセルセに乗った。
「ゾッロ隊、発進!」
兵達はセルセに乗り込んだ。ヘイズは既にゴレットに乗っていた。
トオヤはセルセを発進させた。
「もうこれで死ぬな。ジェイスじゃないがそれでも構わないか」
操縦しながらトオヤは呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます