3 図書館と出会い③
一応……七瀬と近所のカフェに来たけど、急に天気が悪くなってきて雨でも降りそうな感じだった。てか、女の子と一緒にカフェだなんて……。注文している七瀬の後ろ姿を見つめながら、これからどうすればいいのか一人で考えていた。
そんなことより……、七瀬テンション高いな。
それにカフェの店員さんも……、さっきからずっと七瀬の方を見ているし。
「先輩、何にします?」
「コーヒーでお願いします。あっ、俺の分は……」
「いいよ! 私が奢るから!」
「いいえ、ここは俺が……」
「いいの! 失恋して落ち込んでいる先輩に奢らせるのはさすがにあれだから、席で待ってて!」
やっぱり、気遣われている。
とはいえ、そこまでしなくてもいいのに、別に落ち込んでいるとか…………。
なぜか否定できない俺だった。
だとしても、後輩にコーヒーを奢らせるなんて……。
俺の方が年上なのにぃ……。そしてこっちもちゃんとバイトをしているのに……、いろんな意味でつらかった。
「先輩〜。食べましょう!」
「は、はい!」
そしてもぐもぐとケーキを食べる七瀬を見つめながら、俺もコーヒーを飲む。
この苦いコーヒーの味はまるですべてを失った俺の人生みたいで、少し悲しいな。
やっぱり、カフェラテの方がよかったかもしれない。
「先輩! 何か話してよ! コーヒーばかり飲むとつまんないよ〜! むっ!」
「そうですね。でも、俺……元カノ以外の女の子とこんな風にカフェに来たことないんで、どうすればいいのか……。あははっ……」
「そういえば、先輩はどうして私に敬語で話すの?」
「女子は年に関係なく苦手なんで、敬語で話した方が楽です」
「ため口で話してもいいよ? 私は気にしないから」
「が、頑張ってみます……」
そういえば、いつの間にかため口で話しているな……。七瀬。
まあ、俺はそんなことあまり気にしないからさ。
でも、面白くない俺と一緒にカフェに来て楽しいのかな? よく分からない。俺はコーヒーを飲むだけだし、面白そうな話も全然できないからさ。
そしてこの空気も苦手だ。
「じゃあ、私! 先輩のこと下の名前で呼んでもいい?」
「えっ? 下の名前ですか?」
「うん、ダメ?」
「いいえ、構いません」
「じゃあ、薫〜! うぅ———っ! 恥ずかしい! 下の名前で呼ぶだけなのに! どうしてこんなに恥ずかしいの?!」
「そ、それを俺に聞いても……」
「薫!」
「はい……」
「ふふふっ、ふふふっ、うふふふっ」
七瀬……、すごく嬉しそうに見えるけどぉ。
そういえば、澪と初めてカフェに行った時もこんな感じだったよな。
あの時の俺はめっちゃテンションが上がっていて、いろいろたくさん話していたような気がする。すごく楽しかった。付き合ったばかりの頃は———。
「そうだ! 薫、さっき柏木先輩と一緒だったよね? あの先輩と仲いいの?」
「柏木さんとは……、今日初めて話しました。一応、同じクラスです」
「そうなんだ……。うん? 同じクラスなのに今日初めて話したの? どうして?」
「そうですね、俺にもよく分かりません。クラスの女子たちとあまり話さないんで、あははっ……」
「そうなんだ……。じゃあ、私が薫の友達になってあげるから、スマホ出して!」
「はい?」
「連絡先交換しよう!」
その場で俺たちは連絡先を交換した。
なんか不思議、澪以外の女の子の連絡先が……今俺のスマホの中に———。
そして今更だけど、俺……親と親戚の連絡先以外友達の連絡先全然持ってないな。今までどうやって生きてきたんだろうと思ってしまうほど、澪ばかり考えていたことに気づく。
「今日! 楽しかったよ! 薫〜」
「はいはい……」
「あっ、雨降りそうだ……」
「そうですね、雨が降る前に急ぎましょう。駅まで送ってあげますから……」
「あっ! そうだ。薫、一人暮らししてるの?」
「はい。そうです」
「家、ここから遠いの?」
「いいえ、歩いて十分くらいです……」
なぜか、不安を感じる俺だった。
うちに来たりしないよな……?
「じゃあ、私薫の家に行ってみたい! なんか楽しそう!」
「それはダメです」
「なんで!? もう彼女いないでしょ!? ダメなの? これ! これが薫の家に行きたいって言ってるのに、ダメなの?」
「…………」
人差し指で自分の顔を指す七瀬が、何気なくその話を口にした。
ちゃんと自分が可愛いってことを知っているんだ……。
まあ、七瀬が可愛いってことは否定できないけど……、だとしてもうちに連れて行くのはできない。部屋を片付けてないのもあるけど、まだ捨ててないからさ。澪にもらったプレゼント———。
「また今度にしましょう……。駅まで送ってあげます」
「はい……」
「そんな顔しないでください。また……、今日みたいに……。えっと……、カフェ行きましょう」
「うん!」
……
駅まで送ってあげた後、すぐうちに帰ってきた。
そして七瀬からラインがたくさん来ているけど……、しばらくベッドで目を閉じていた。今日は疲れたからさ。
「…………」
そのままぼーっとして天井を見つめていた時、柏木にもらったメモを思い出す。
うっかりしていた……。
そしてポケットの中からそのメモを取り出した時、そこには誰かの電話番号が書かれていた。もしかして、柏木の電話番号かな? じっとメモを見るだけじゃ分からないからすぐその電話番号に電話をかけてみた。
「はい。柏木愛菜です」
すると、本当に柏木の声が聞こえてきてビクッとする。
てか、なんで俺に電話番号を渡したんだ……?
「えっと……、か、柏木さん?」
「あっ、うん。電話……待っていたよ?」
「そ、そうですか。すみません……。今家に帰ってきたばかりなんで」
「そう?」
「はい。えっと……、どうして俺に連絡先を?」
「そろそろ……テストの時期だから、一緒に勉強しないって聞きたかったけど、今日は約束があってね。だから、メモだけ渡しておいたの。それに青柳くんにも予定ありそうに見えたから」
「あっ、は、はい……」
あの柏木と一緒に勉強するなんて、それは光栄だけど……。どうして俺なんだ?
そこがよく分からなくて、そのままじっとしていた。
「青柳くん?」
「は、はい!」
「どうしたの?」
「いいえ……。ど、どうして俺なんかに一緒に勉強したいって言うのか……ちょっと考えていました」
「……自分の価値を下げるような言葉は言わないで、そして私は一年以上図書館で青柳くんを見てきたから分かる。青柳くんはすごい人だよ、私はそう思っている」
「そ、そうですか。あ、ありがとうございます」
まさか、あの柏木にそんなことまで言われるとは……。
その一言に勇気を得た。
「じゃあ、私の話考えてみて。電話切るね、青柳くん」
「はい……」
「また明日……」
「はい……」
うわぁ……、俺……今柏木と電話をしたのか。
そして……、一緒に勉強かぁ。いろんな意味ですごかった。
……
電話を切った後、じっと外の夜景を見つめる愛菜だった。
「愛菜……、誰?」
「知り合い」
「そう? 男?」
「女」
「……そうか。柏木さんが待っているから早く行こう」
「分かった……」
さりげなく手を差し伸べる男、そして彼の手にそっと自分の手を乗せる愛菜が笑みを浮かべる。
「愛菜は……、俺に嘘をつかないから。俺は信じているよ、愛菜のことを」
「ありがとう」
そう言いながら高級レストランの個室に入る二人だった。
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