2 図書館と出会い②
ずっと澪に集中していて、友達よりも澪の方を優先していたから、こんな話ができる人ほとんどいない。とはいえ、柏木に澪の浮気を言うのは無理だよな。早く相談して楽になりたいけど、どこから話せばいいのか俺にもよく分からない。
だから、その場でしばらく悩んでいた。
「あの……、友達関係なんですけどぉ。もし信頼していた人がある日絶対許されないことを犯したら……、どうすればいいんですか? 裏切りみたいな感じで……」
「友達関係……、それは難しいね。でも、私には友達がいないからその話にどう答えればいいのか分からないけど、もしもう終わった関係なら諦めた方がいいと思う。どうしても仲直りしたいなら仕方がないけどね」
やっぱり、冷たい。冷静だ。
そうだよな。普通……、あんなことをされたら柏木みたいに話すよな。
俺の方から話を聞いてくれませんかって言ったくせに、素直に話せない俺だった。そして俺は自分が何を聞きたいのか、それを話してどうしたいのか、いまだに迷っている。今日初めて話したから、そんな柏木に浮気の話を持ち出すのは———。
やっぱり、できない。
「青柳くん」
「はい?」
「私が知っている青柳くんは真面目で優しい人だから……、あんな人は忘れた方がいいと思う。そして許されないことを犯したあの人は青柳くんに謝ったの?」
「いいえ……」
「うん。なら、捨てよう。あの人を」
「そう……ですよね……」
「いい答えになったのか分からないけど……、私にできるのはこれくらいだよ。ごめんね」
「いいえ、ありがとうございます。やっぱり、柏木さんは……優しい人ですね」
「…………」
すると、俺の頭に手を乗せる柏木だった。
「えっ!? あっ! えっ!?」
「どうしたの? 青柳くん」
「い、いいえ……。なんでもないです」
あの氷姫が、俺に……なでなでしてくれるのか……?
いや、どういう状況なんだ。これは……。
俺たち今日初めて話したのに、話を聞いてくれるだけで十分なのに……、なぜか癒される。落ち着く……。澪もこんな風に……、俺に優しくしてほしかった。分からないよ、どうしてそんな風に俺を裏切ったのかいまだによく分からない。
本当に……、飽きたからか?
それが別れる理由なのか?
「そろそろ戻ろうかな? 青柳くん。そして私……今日は予定があるから」
「は、はい! あの! 柏木さん」
「うん?」
「あ、ありがとうございます! 俺……、友達いないからずっとストレスを溜め込んでいました。おかげで……、楽になりました! ありがとうございます!」
「…………」
そして俺の方を見る柏木に、しばらくその場じっとしていた。
もしかして、言いたいことでもあるのかな?
「ねえ、青柳くん」
「はい?」
「元カノのことは早く忘れた方がいいよ、あの人は最初からゴミだったからね」
「はい……」
あれ……? どうして、それを? 俺……、澪の話……してないよな?
なのに、どうして「元カノ」って言うんだろう。
いきなりすぎて、どう答えればいいのか分からなかった。そのまま柏木について行く。
でも、少し楽になった。
……
「あっ! 先輩!!!」
そして図書館に戻ってきた時……、大きい声で俺の名前を呼ぶ女の子が手を振っていた。彼女の名前は
「ずっと待ってましたよ!」
すると、図書委員にめっちゃ睨まれる七瀬。
「ここ図書館ですから、外で待ってください。七瀬さん」
「はい!」
「そして……、柏木さん。今日はありがとうございました」
「またね、そして……これ」
そう言いながら俺にメモを渡す柏木。
でも、図書委員にめっちゃ睨まれていてそれを見る暇はなかった。後で確認してもいいよな。
すぐカバンを持って七瀬のところに行った。
「あっ! 先輩! えへへっ」
明るい笑顔で俺に声をかけてくれる七瀬は、中学時代に俺と同じ部活をしていた。
ナチュラルボブの髪型がすごく似合う可愛い女の子で、その大きい瞳で上目遣いをすると誰でもすぐ恋に落ちる。それほど危険な女の子だ。中学生の頃、部活で少し話したことあるけど、男たちにめっちゃ人気あったからさ。
澪とは異なる魅力がある。でも、どうして俺のところに来たんだろう。
高校生になってから廊下でたまに挨拶をしたりするけど、直接俺のところに来るのは初めてだった。
「先輩先輩先輩! 今から予定ありますか?」
「特に予定はないんですけどぉ……」
「じゃあ、私と! デートしませんか!?」
「えっ? 今から……? デートですか?」
「どうせ、彼女いませんよね? 別れましたよね? あの先輩と!」
「…………」
いや、どうして七瀬までそれを知っているんだろう。
「ふふっ、見れば分かりますよ! 最近……、蒼山先輩とくっついていなかったから……」
「そうですか、そんなことで分かるなんてすごいですね」
「先輩は一途だから! 私、好きですよ? そんな先輩が! えへっ」
「はいはい……。で、どこに行くんですか? 今から」
「甘いもの! 食べたいです!」
「はい……」
てか、俺と甘いものを食べるために図書館で待っていたのか……。
そんなことなら友達と一緒に行ってもいいんじゃない?
そして七瀬には七瀬のこと好きって言ってくれる人多いはずだし……、どうして俺なんだろうと廊下を歩きながらそう思っていた。
「…………」
すると……、下駄箱の前であの男とくっついている澪に気づく。
その笑顔は……遠いところで見ても可愛かった。
「先輩! 元気出して! 私がいるんでしょ? この七瀬あかりが!」
「頼もしいですね。ありがとうございます」
「ひひっ」
まさか、浮気の相手も俺と同じ学校に通っていたとは…………。
さりげなくあの男の腕を抱きしめる澪は、俺と付き合っていた時より楽しそうな顔をしていた。それは気のせいじゃない。俺は澪のことをずっと見てきたからさ。
「先輩! 行きましょう!」
「はい……」
「むっ!!! テンション上げて!!!」
「は、はい……」
「こんなに可愛い女の子がそばにいるのに、何を考えてるの? 行こう!!!」
そう言いながら俺と手を繋ぐ七瀬だった。
「はいはい……。そんなに急がなくても……!」
「今、めっちゃ甘いものが食べたい気分だからね!」
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