三年かけてやっと付き合った彼女に浮気され、すべてを失った俺は図書館で君と出会う
棺あいこ
1 図書館と出会い
もしこの世で一番好きな自分の彼女が……、知らない男とラブホに行ったらどうする? それを自分の目で目撃したらどうする? そんなわけないだろ、とその状況を否定するか。あるいは、ずっと好きだった彼女と別れるか。選択肢は二つある……。でも、どっちを選べばいいのかすぐ決断を下せないのが恋だ。
俺の名前は
俺が彼女の浮気を目撃したのは、彼女の誕生日プレゼントを買った日だった。
あの日はニヤニヤして、彼女の笑顔ばかり想像していたのをいまだに覚えている。
彼女の名前は
三年間、長かった俺の片思いは「じゃあ、付き合おう」という澪の一言によって付き合うことになった。
なのに———。どうして知らない男と一緒に……、ラブホに入るのか分からなかった。それは見間違いなんかじゃない。自分の目で……はっきりそれを見てしまったからさ。あの男と腕を組んで、笑い合って、そのままラブホに入った。
そんなことできるのか?
先週まで澪の家で一緒に映画を観て……、俺たちはキスもしたのに。
なぜ、そうなる?
でも、俺はきっと誤解だと思って……、最後まで澪を信じようとしていた。
そして彼女は俺にこう話した。「愛の賞味期限が切れただけ、ごめんね」って。そうやって俺たちの一年半……、そして俺の四年半が消えてしまった。
あっという間に消えてしまったんだ。
澪は中学時代からずっと可愛いってみんなにそう言われたからさ、俺も知らないうちに澪を目で追っていた。クラスのみんなと仲良く過ごしているし、俺にも優しくしてくれるし、そして二年間同じクラスだったからさ。好きにならないのがおかしいほど、可愛くて明るい女の子だった。
そう。誰もが好きになるほど可愛い、それだけは否定できない。
そんな澪と付き合った時はそれ以上もう何もいらないと思ってしまうほどテンションが上がっていた。
でも、まさかこんな風に終わるとは思わなかった。
少なくとも……、納得できる他の理由があったら……。無理か。
そして澪のそばにいた人……、イケメンだったからさ。
俺はあの人に敵わない。
だから、奪われるのも当然かとそう思ってしまう。ただの敗北者じゃん……。
……
そして今は学校の図書館に来ている。
なぜ図書館なのか、特に理由はない。ここに来ると静かに勉強ができるから、そして俺以外にも勉強をする人がけっこういるからさ。一人で勉強するより周りに人がいてくれた方が落ち着く。俺はそうだった。
余計なことを思い出したくないからさ。
「…………」
そのまま教科書を開いて勉強を始めたけど、当たり前のように集中できない俺だった。すぐ帰る選択肢もあるのに、家に帰っても特にやることがないから仕方がなく本でも読むことにした。
そして珍しいけど、今日はあの人がいない。
まあ、毎日図書館に来るわけないし、たまには予定があるかもしれないから。
一応……知らない人だけど、いつも図書館で勉強していたから勝手に仲間だと思っていた。
「前に読んでいた本が……。あ、あっちか」
「あっ……」
少し高いところに差し込まれていた本。
そこに手を伸ばした時、俺と同じところに手を伸ばした人と手が触れてしまう。
どうしてここにいるんだろう、今日はいないと思っていたのに、あの人がすぐそばで俺を見ていた。彼女の名前は
「…………」
そして彼女と目が合った時、なぜか顔を逸らしてしまう俺だった。
その瞳に俺の姿が映っていたからか、恥ずっ。
やっぱり、クラスメイトたちが話した通り綺麗な人だな。
さらさらの黒髪ロング、そして透き通るように白くなめらかなその肌はまるで玉のように見えた。彼女の第一印象はクールな女の子。多分、そう思ったのは俺だけじゃないはず。クラスのみんなが「氷姫」と呼んでいたからさ。
そういえば……、柏木はめっちゃモテる人だけど、周りの人たちにけっこう嫌われているような気がする。
生意気とか、気持ち悪いとかさ。
なぜ、そんなことを言うのかよく分からない。
「すみません……」
「ううん……。私の方が悪い」
「…………あっ、はい……」
「今日も図書館来たね」
「は、はい……。勉強……しに来ました」
「そうなんだ……」
ちょっと話しただけだけど、柏木は物静かな人だった。
その後はすぐ席に戻ってきて本を読み始めたけど……、今日はやっぱり集中できない。それは柏木のせいじゃなかった。多分……、澪のせいだと思う。振られたからもうそんなことどうでもいいのに、俺はどうして……澪のことをすぐ忘れられないんだろう。
四年半はやっぱり長いよな……。
そして今更だけど……、一途な人はやっぱり魅力がないのかな。分からない。ずっと好きだったから、澪に俺の全部をあげたかっただけだ。片思いから付き合うまで長い時間を耐えてきたからさ。
「…………」
頭の中が複雑で仕方がなく図書館から出てきた。
そのままスマホをいじっていたけど、何もしたくない、何も考えたくない。
ぼーっとして空を眺めていた。
「はい、これ」
その時、後ろから冷たい何かが感じられてビクッとする。
「えっ? あ、ありがとうございます」
振り向いた時、柏木が自販機から買ってきたジュースを俺の首筋に当てていた。
どういう状況だろう。
あの氷姫が……、俺にイタズラを…………?
「か、柏木さん? ど、どうしましたか?」
「今日は……、なんか元気なさそうに見えてね」
「どうして……、それが分かるんですか?」
「顔を見ればすぐ分かるよ。そして何があったのかは聞かないから安心して、その代わりに勉強はちゃんとしてね」
「あっ、はい……」
そうか。柏木はずっと成績順位一位を維持していて、俺はずっと二位だったから。
それを意識していたのは俺だけじゃなかったんだ……。
一年半という時間はすごいな……。それになんか気遣われているような気がして不思議だった。
「…………」
一応……、柏木のそばでジュースを飲んでいるけど、なんか息苦しいな。
ずっと変なことばかり考えていたからか。
もし、この話ができる友達がいたらこうならなかったかもしれないな———。
友達かぁ…………。
ちらっと柏木の方を見ていた。
「あ、あの……。柏木さん」
「うん?」
「ちょっと……話を聞いてくれませんか? 話し相手が全然いなくて……。でも! 嫌だったら断ってもいいですよ」
「いいよ、私もちょうど暇だったから聞いてあげる」
そう言いながらにっこりと笑ってくれる柏木だった。
これが……勉強仲間の絆か。
ありがとうございます、柏木さん……。
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