第18話 赤外套の強敵と再会する
「それじゃ、ナザロの旦那はその赤
昨夜の領主邸襲撃の
襲撃が終わったあと、俺たちは奴隷を連れながらペドロの拠点に帰還した。
奴隷たちはペドロがうまいこと街の外に運ぶ算段になっているので、全員ペドロの部下に預けてから、俺たちはいつも通りペドロの常駐している店の地下室で朝を迎えた。
赤外套の敵について情報を得ようと思って話したのだが、ペドロのやつはむしろどこか楽しそうな笑みを浮かべてやがった。
俺が小バカにされたと感じたのか、俺の両隣に座ったシュリとエルがむっとした顔をしている。
俺も不機嫌を隠そうともせず、ペドロの問いに答えた。
「……結果的にそういう形になったな」
「いやあ。ナイジェルを殺した
「言っておくが、本気で戦ってたら俺が勝ってたからな? ただ、あの状況で騒ぎを起こしたくなかったから、赤外套の提案に乗っただけだ」
「ははは、ナザロの旦那なら本当にやっちまいそうだから怖いですなあ」
いや、本当だっつーの。
俺の両手の
それらを使えば、昨日の赤外套も倒せたはずなんだが……行動に移す前に、敵に距離を取られちまったんだよな。
相当戦闘慣れした感じだったし、こっちの手の内を本能的に察知したのかもしれない。
いずれにしろ、次に会った時には絶対に遅れを取るつもりなかった。
俺は聞えよがしに舌打ちしてから、ペドロに問うた。
「それで、その赤
「そうですなあ……一人だけ、心当たりのあるやつはいやすがね」
「誰だ、そいつは」
俺の問いに、ペドロは半信半疑といった顔で答えてくる。
「通称グレンという冒険者なんですがね。本名不明、出自も不明でありながら、Sランク冒険者として長年活動している人物でさあ。常に全身を赤
「Sランク冒険者だと?」
戦った時に上位の冒険者だと予想は立てていたが、Sランクというのは予想外だった。
冒険者のランクはFランクから始まり、Aランクに近づけば近づくほど実力が高いとされている。
Sランクは世界にたった数人しかいない天災級の存在であり、一般人には実在すら疑われるような
だが、俺はすでに別のSランク冒険者に散々な目にあわされたため、その存在を疑うことはなかった。
――そう。Sランク冒険者ユキヤ・ハルミネのおかげで、本当に散々な目にあわされたもんだ。
今となってはこうなってよかったとさえ思っているが、やつに味わわされた屈辱は一生忘れることはあるまい。
しかしまさか、あいつ以外にも俺の目の前にSランク冒険者が現れるとはな……
「……ちょっと待て。今、長年Sランク冒険者として活躍してる、って言ったか?」
「ええ。そう言いやしたが」
「俺が
「あっしの聞いた話じゃ、そのグレンという冒険者は五十年前から冒険者として活動を始めて、わずか数年でSランクに上がったそうですぜ」
「五十年前からだと!? じゃあ、今最低でも六十歳以上ってことか!?」
「そうなりやすが……各地を転々としてひとつの国に長くとどまらず、冒険者パーティーを組むこともなかったので誰も素顔を知らず、今活動しているグレンが五十年前のグレンと同一人物かどうかは誰もわかってないって噂です。実は、知らない間に代替わりしてるんじゃないかってね」
「にわかには信じがたいが……」
俺は言いかけてから、隣に座ったエルに視線をやった。
エルフのような
そう考えると、素顔を隠して各地を転々としながら単独行動を続けていた理由も納得できる。
亜人種だと知られれば、いくらSランク冒険者といえど、いつ兵を差し向けられて奴隷にされるかわからないからな。
それに……相手が亜人種なら、エルが俺に奴隷として使役されてるわけではないことを見て、俺たちを逃がした理由にも察しがつく。
謎なのは……もし赤外套が亜人種なら、なぜ人間社会で冒険者をしているのか、ということだ。
亜人種族は総じて人間から迫害を受けているはずなので、わざわざ人間を助けるメリットなどなさそうだが、なにか事情でもあるのだろうか。
……まぁ俺にとっちゃ知ったことじゃないな。
どんな事情があろうと、この俺に「敵を前にして逃げ出した」なんていう屈辱的な行動を取らせたことには変わりはない。
次に会った時は、絶対に格付けをし直してやる。
俺が邪悪な笑みを浮かべていると、ペドロは苦笑を浮かべた。
「ナザロの旦那、また物騒なことを考えてやすね? あっしとしちゃあ、こっちまで飛び火しなきゃあ別にいいんですが」
「お前に憲兵が差し向けられるようになっちゃあ、俺のビジネスもご破算だ。そんなへまはしねえよ。それより、そのグレンってやつの目撃情報が入ったら俺に教えてくれ」
「ちなみに、情報料はいただけるんで?」
「当然だ」
「なら、喜んで引き受けさせていただきやす」
俺が即答すると、ペドロが満足そうな顔で言った。
……にしても、このタイミングでSランク冒険者と出くわすとはな。
俺の両手の
原作通りなら、ユキヤはこのクルルカン王国を拠点にしつつ、各地を巡っているはずだ。
やつがどれだけ遠方に遠征しても、待っていればいずれこの国に帰ってくる。
帰還のタイミングを読むのは難しいが、だからこそいつでもユキヤの野郎を叩きのめせる準備をしておきたい。
それにしても、高ランク冒険者の亜人種か……
原作の内容的に心当たりがなくはないのだが、原作に出てきたあいつとは名前も格好も違うし、原作のほうは冒険者ランクも明かされてなかったんだよな。
まぁ赤
俺は一人で納得すると、ペドロと情報料の交渉を済ませてから、街を出るための手配をペドロに依頼した。
◆
セルロアの街を出て人狼族の村に戻る森の道中、シュリがぽつりとつぶやいた。
「ねえ。あのグレンって人と、本当に戦うつもりなの?」
立ち止まってシュリのほうを振り返ると、シュリは純粋に不思議そうに首を傾げていた。
「グレンって人、亜人なのかもしれないんでしょ? だったら、味方につけたほうがよくない?」
「味方につけられるなら、そうしたいのは確かだな」
「じゃあ……」
「悪いが、戦わないわけにはいかねえんだよ」
言って、俺はエルのほうを見た。
エルも俺と同じ意見のようで、神妙な顔で俺にうなずいてみせた。
「裏稼業にとって、メンツは命と同じくらい大事です。これはプライドなどというくだらないもののためではなく、非常に合理的な意味で重要だという意味です」
「どういうこと?」
「グレンと
「えっと……ナザロやあたしたちがバカにされて、見くびられる?」
「そうです。くだらないことに思えるかもしれませんが、これはとても重大なことです。我々が無力だという誤解が広まれば、取引先から見限られる危険性もありますし、我々の組織から脱走者や、報奨金目当ての裏切り者が出る恐れもあります。そうなると、どうなりますか?」
「…………あたしたちがピンチになる?」
シュリが必死に頭を悩ませてから答えをひねり出すと、エルは深々とうなずいた。
「そういうことです。裏稼業をする以上、メンツを保つのは絶対に大事ですし、だからこそメンツを保つための武力も必要なのです」
「はあ……つまり『グレンに見逃された』って噂を上書きするために、『グレンを倒した』って事実を作る必要があるのね」
「ま、そういうこった。倒したあとなら、味方につけるのも悪くないがな」
俺が言うと、シュリは納得したようにうなずいてから、眉間にシワを寄せた。
「う〜ん…………納得はできるんだけど、裏稼業も色々堅苦しいんだね」
シュリの素直な意見に、俺とエルは顔を見合わせて苦笑した。
俺とエルが小難しい理屈や計算で動く分、シュリみたいに直感で思ったことを口に出せるやつは貴重だ。
こと人情の方面に関しては、俺もエルも当てにならん自覚があるからな……
会話に切れ目ができたタイミングで、俺は森を進む足を止めた。
「こっちの事情はそんなところだが――そろそろお前も盗み聞きをやめて、姿を現したらどうだ?」
俺が背後を振り返って言うと、シュリとエルが目を丸くして警戒態勢を取る。
数秒ほどの間を置いて、樹上から赤
赤外套は俺たちを見回してから、どこか楽しげな口調で言った。
「まさか、拙者の尾行が気づかれるとは……この外套の認識阻害効果は、Sランク冒険者でも見破れなかったでござるが……」
「ずいぶんと見くびられたもんだな」
厳密に言えば、認識阻害能力を見破っているわけではない。
赤外套の存在そのものは感知できなくとも、動いた瞬間に発する大気の揺らぎは感知できる。
風に合わせてうまいこと揺らぎを最小限にしていたようだが、薬で強化された俺の知覚なら判別は容易だった。
「それで、グレン……お前はいったい、俺たちに何の用なんだ?」
「それについては、そちらの用件を済ませてから話させていただくでござるよ」
カマをかけたのだが、赤外套は自分がSランク冒険者のグレンであることを否定しなかった。
俺は腰から長剣を抜くと、シュリとエルに言う。
「お前らは下がってろ」
「なに言ってんの、ナザロ! あたしたちも一緒に戦うよ!」
「そうです。このような相手に一騎打ちをしかけるのは不用意かと」
「アホ。お前らが太刀打ちできる相手じゃねえ」
俺はばっさりと切り捨ててから、革袋から丸薬をいくつか取り出して口に含む。
全身に力がみなぎるのを感じながら、俺はグレンに言った。
「さあ、
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