第5話 人狼族を傘下に入れ、魔薬王への第一歩を踏み出す
数時間ほどの仮眠のあと、俺は布団の上で目が覚めた。
彼女の姿と自分の全裸姿を見て、俺は数時間前までの天国のような時間を思い出した。
昨夜の乱れに乱れたシュリの映像や、肌に触れる柔らかいシュリの肌の感触のせいで、下半身が臨戦態勢を取り出り始める――と、タイミングよくシュリが目を覚ました。
「うぅん……おはよぉ、ナザロ……」
「お、おう……」
なぜかどぎまぎしながら応えると、シュリは俺の顔を見上げてから急に頬を赤く染めた。
「な、なんか、ちょっと恥ずかしいね……? て、てかあたし、最中に変なこと言ってなかったっ?」
「あ〜……まぁお互い興奮してめちゃくちゃなこと言ってた気がするから、忘れることにしよう」
「そ、そうだよねっ! そのほうがいいよ、うんっ!」
シュリは微妙な空気を振り払うようにそう言ってから、おずおずとこちらの顔をのぞき込んできた。
「で、でも……『キミのものになる』って言ったのは、本当だからね……?」
「蒸し返すなよ……」
ヤッてる時の会話の内容なんて、思い出すもんじゃねえ……羞恥心で顔が熱くなるわ。
俺は布団から出ると、水桶の手ぬぐいで体を拭いてから、元の服に着替え直した。
着替え終わって振り返ると、シュリが体を毛布で隠しながらこちらをじっと見ていた。
「ねえナザロ、その手の甲の印ってなんなの?」
言われて、重犯罪者の
……人間種の村ならともかく、人狼族に対してまで隠すほどのことでもないか。
俺は手の甲をシュリに向けると、
説明を聞き終えると、シュリは目を三角にして怒り出した。
「なにそれ! そんなの、ナザロは全然悪くないじゃん! そんな理由で焼印を押されて、国外追放されるなんて……やっぱり人間ってひどいよ!」
「それについては同感だな」
俺自身、人間社会にはすっかりうんざりしていたが、同時に借りを返してやりたいという気持ちも湧いていた。
……それも含めて、今後のことについてちゃんと話しておいたほうがいいか。
「シュリ。悪いが、昼飯時にでも村の連中を集めてもらえないか? 今後のことについて、お前ら人狼族の協力を得たい」
「わかった! ……えへへっ」
俺に命令されて、シュリはなぜか嬉しそうに笑みをこぼした。
「俺が言うのもなんだが、今喜ぶ要素なんかあったか?」
「だって、ナザロがそういうことしてる時以外にも、ちゃんと名前で呼んでくれたんだもん」
「……………………だから、蒸し返すんじゃねえって」
◆
昼時になると、昨日負傷者の治療に使われていた集会所には村人たちであふれかえっていた。
俺とシュリが集会所に入ると、村の連中は一斉に顔を輝かせて騒ぎ始める。
「村の救世主、ナザロ様がいらしたぞ!」
「あんたが旦那の命を救ってくれた人かい!? あんたは人狼族全体の恩人だよ!」
「あなたのおかげで、人狼族全体が救われました! 本当にありがとうございます!」
…………なんだ、この異様な雰囲気は?
シュリに先導されながら集会所の奥まで歩いていく過程で、村人から口々に称賛と感謝の言葉を浴びせられる。
負傷者を治した時も、『取引さえ
まさかとは思うが、この雰囲気で俺を気持ちよくさせておいて、取引の件をうまくはぐらかそうっていう
俺が
「みんな、静かに! あたしたちはみんな、ナザロに恩があるよね? だから、どんなに無茶な要求をされたとしても、腹を据えて彼への恩義に応えなくちゃいけない。それが、誇り高き人狼族の戦士としてあるべき姿だから」
シュリの言葉に、村人たちは不満をもらすことなく賛同の声で応えた。
その反応に満足げにうなずいてから、シュリは俺に視線を向けてきた。
「ナザロ、教えて。あたしたちはどうやって、キミに恩を返したらいい?」
話題を振られ、俺は思わず感心してしまった。
最初にシュリが族長だと聞いた時、村一番の戦士とはいえ、さすがに統率力が足りないんじゃないかと思っていたが……どうやら、俺はシュリという少女を見くびっていていたようだ。
村人たちの顔を見ると、すでに命すら捨てる覚悟を決めた顔をして、じっと俺の言葉を待っている。
この状況でなら、俺が多少無茶なことを言っても許されそうだ。
俺はもったいぶって
「お前ら人狼族が人間に対して、不満や怒りを感じているのは知っている。実を言うと……詳細は省くが、俺も人間どもに恨みを持っている」
村人たちの間に驚きの声が広がるのを待ってから、俺は続ける。
「バカな人間どもへの恨みを晴らすために、お前らには俺の協力をして欲しい。まずは、この村に長期間滞在する必要があるので、その期間中の寝床と食事が欲しい」
そのくらいは当然だと思っていたのか、村人たちの多くはうなずきながら続く言葉を待っていた。
「次に……昨日見てわかったと思うが、俺は
「ひとつ聞いてもいい?」
隣のシュリが挙手してくるので、俺はあごで彼女の質問をうながした。
「具体的に、どんな素材を集めればいいの? あたしたちだけじゃ、薬の素材になるかどうかの判断がつかないと思うんだけど」
「それについては、なにも考えなくていい。森で拾った草花だろうが、きのこや木の実、石や木材だろうが、魔物の部位だろうが……とにかくかき集めてくれりゃ、こっちで勝手に薬に調合する」
「つまり……なんでもいいから、手当たり次第に集めてくればオッケーってこと?」
「そういうことだ。特定の素材を集めて欲しい時は、改めて指示を出させてもらう」
俺の説明にシュリは納得したようにうなずいた。
それを確認してから、俺は続ける。
「最後に、俺は作った薬を人間の街に売り出していきたい。分け前についてはあとで決めるが、販路を確保するために人間の街で商人と交渉する必要がある。それをお前らに任せたい」
そこまで言うと、村人たちは気まずそうに俺から視線をそむけ出した。
不思議に思ってシュリに視線を向けると、彼女は苦笑いを浮かべて言った。
「実はあたしたち、人間と商売をしたことが全然ないんだよね。ほら、人間ってあたしたちみたいな獣人族も嫌ってるし」
「マジか……金がないのに、今までどうやって生きてきたんだ?」
「水も食べ物も森で調達できるし、家を建てるための木材も取れるから、特に取引をしなくても問題なかったんだよね。武器は冒険者や兵士が落としたものを拾ってなんとかなってるし、塩も岩塩が取れる洞窟が近くにあるから」
…………なるほど。どうりで装備も家の建て方もいい加減なわけだ。
人狼族の連中が人間との交渉経験がないのなら、連中に人間との取引を任せるのは危険だな。
商人どもは
「……仕方ない。なら、人間との取引は俺がまとめてこよう」
正直、重犯罪者の
この人狼族の村を強固な拠点にするにも、人間どもに
最初の取引だけは俺がまとめて、少しずつ誰かに交渉仕事を
俺は村人たちを一望してから言った。
「誰か、俺について人間の街に行きたいってやつはいないか?」
当然というか、人狼族の村人たちは俺と視線を合わせず、誰もが他の誰かが手を挙げてくれることを期待しているようだった。
そんな中、たった一人だけ一ミリのためらいもなく手を挙げたやつがいた。
それは――やはりというか、シュリだった。
彼女はじっと俺を見つめたまま、無言で手を挙げ続けていた。
俺は他の誰も手を挙げないのを確認してから、シュリに視線をやった。
「お前な……族長がそんな簡単に村を離れていいのか? お前、仮にもこの村の最高戦力だろうが」
遠回しに「この村が魔物に潰されたら俺も困る」と伝えたつもりだったのだが、シュリのやつはとんでもないことを口走りやがった。
「なに言ってるの。キミはこの村の恩人なんだから、族長としてほっとけるわけないでしょ。それに……キ、キミの女としてもほっとけないし」
シュリの口走った一言で、村人たちが一斉にざわつき出した。
「シュリのやつ、まさかもうナザロ様と……っ!?」
「まさかあのお
「村の救世主を連れてくるだけではなく、救世主と男女の仲になるとは……族長として頼もしくなったなぁ」
「うぅ……っ! 僕は十年前からシュリのことが好きだったのに……っ!」
…………なんか血の涙を流してそうなやつの声も聞こえた気がするが、お互いのためにも聞かなかったことにしよう。
とにかく、他に立候補者がいないんじゃ、シュリを連れて行くしかなさそうだな。
俺はざわついた集会所を
「それじゃ、俺は二日後にシュリと人間の街に行くことにする。それまで薬の素材集めを任せたぞ」
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