第2話 辺境の森に追放され、魔物相手に無双する

 一夜を牢屋で過ごしたあと、俺の身柄は憲兵たちの手で領地の外に輸送された。


 クルルカン王国の北東、魔王領域との国境線に当たる森の中で馬車から降ろされると、憲兵たちは俺をかえりみることもなく一目散に森から逃げ去っていった。

 俺は嘆息をもらしてから、自分の姿を見下ろした。


 身ぐるみをがされて灰色の囚人服に着替えさせられ、武器も与えられていない。

 当然、この森には魔物がうようよいるし、こんな装備で生き残れるわけもない。

 領地に戻ったところで、重犯罪者の俺は見つかれば即死罪だ。


「…………ま、要するに『死ね』ってことだよなぁ」


 だからと言って、大人しく死んでやる気など毛頭ないが。


 俺は改めて、『鑑定かんてい』スキルで自分のステータスを確認する。


  レベル:100

  スキル:鑑定(レベル75)、調合(レベル75)

  ユニークスキル:薬聖やくせい、薬の王

  HP :1325

  MP :545

  攻撃力:309

  防御力:233

  素早さ:421

  器用さ:587

  魔力 :565

  魔防 :448


「…………ふむ。アニメの情報だけじゃ、これが強いのか弱いのかさっぱりわからんな」


 俺の記憶が正しければ、ユキヤのやつはレベルが555で、スキルは全属性の魔法スキルと回復魔法、更に体術までレベル100のカンストに至っている。

 まぁやつのレベルは規格外すぎて参考にならんが、この世界の住民の中ではレベル100は高いほうだろう。

 ただ、俺は戦闘用のスキルを一つも持っておらず、能力が薬の調合にだいぶ特化しているようだ。

 この森で生き抜く上で、これはかなり不利な要素だろう。


「それにしても、まさかナザロがユニークスキルを二つも持ってるなんてな……」


 ユニークスキルとは、『ロスト・エルドラド』のゲーム内でたった一人のプレイヤーしか所有することのできない固有スキルだ。

 特定のイベントやアイテムを手にすることで得られるらしいが、ユニークスキルは『ロスト・エルドラド』に百個しか存在しないらしい。

 非常にレアで入手が難しい代わりに、絶大な威力を発揮するのがユニークスキルだ。


 確かユキヤのやつも持っていたはずだが、やつですらユニークスキルは一つしか持っていなかった。

 それを二つなんて……ナザロのやつ、NPCのくせにめちゃくちゃ優遇されてやがったのか?

 だが、ナザロの記憶をたどってみた感じだと、元からユニークスキルを持っていたわけではなさそうだ。

 おそらく、俺が転生したことがきっかけで付与されたものなのだろう。


 ……まぁそんなことはどうでもいい。

 今はとにかく、この危機的状況を乗り切るすべを見出すことのほうが大事だ。


 俺は『鑑定かんてい』スキルを使って、ユニークスキルの詳細を確認する。


 ユニークスキル『薬聖やくせい』は、薬を製造するための独自レシピを無制限に開発できるスキルだ。

 このスキルを持っていると、通常の調合スキルでは作れない効果の薬まで作り出すことが可能で、素材の組み合わせによってはとんでもない効果の薬も作れそうだ。

 更にユニークスキル『薬の王』は、調合した薬の効果を最大五倍まで引き上げることが可能なようだ。


 もともと高い『調合』のスキルレベルに加え、この二つのユニークスキルがあれば、薬の調合において俺の右に出るものはこの世界にまず存在しないだろう。


 加えて……


 俺は周囲に鬱蒼うっそうと広がる森を見渡した。

 冒険者や魔物によって踏みならされた道を除けば、森のほとんどは木々や草花で埋め尽くされている。

 つまり――この森なら、薬の素材が大量に採取できるってことだ。

 スキルをうまく使いこなせば、俺みたいなザコでもこの危険な森で生き残れるかもしれない。


 俺は早速『鑑定』スキルを駆使し、調合に使えそうな草花や木の実をかき集めた。

 素材を両手のひらで包み込み、魔力を込めて素材を押しつぶす。

 手のひらの間から魔力の光が漏れ、光が止んだ頃には手のひらの上に薬が出来上がっていた。


 手のひらに広がる緑色の液体を『鑑定』し、薬効――五分の間、風魔法スキルLv50を付与――を確認してから口に含む。

 俺は発現した薬の効果を試すべく、右手を手近な木に向けた。


「ハリケーン・スラッシュ」


 声とともに、俺の手のひらから放たれた魔力が風のうずとなって大気を揺らし、狙った木に向かって放たれる。

 風の渦は無数の鋭い斬撃を繰り返し、俺の胴よりも太い木を、まるで野菜かのようにきれいな輪切りにしていた。


「…………すごい威力、なんだよな? たぶん」


『ロスト・エルドラド』はあくまで架空のオンラインゲームなので、実際にプレイしたことがないからすごいかどうかの判断が難しい。

 とはいえ、これで戦闘スキルがないことをなんとかおぎなえそうだな。


 にやりと笑ってから、俺は周囲を再度見渡した。

 先ほど木を切り倒した音で注目を集めてしまったらしく、俺の周囲には灰色の毛並みをした狼――グレイハウンドが群れをなして集まってきていた。

『鑑定』スキルで見たところ、相手のレベルは50程度。

 レベルだけなら俺の半分程度だが、数は十体ほど集まってきており、普通に考えればかなり危険な状況だ。


 だが、俺はおくさずにグレイハウンドどもをにらみつける。


「犬どもめ。俺はこんなところで死ぬ気はねえんだよ。大人しく引っ込んでるならよし、さもなくば……」


 俺のおどし文句に反応したわけではないだろうが、群れの中でもひときわ大きなグレイハウンドが俺に向かって駆け出してくる。

 それに連動するように他の狼も駆け出し、俺は三六〇度全方位から同時攻撃をしかけられる。


 が。


「トルネード・サラウンド」


 俺は一瞬で魔力を練り上げると、今使える最大級の魔法を解き放つ。

 俺を中心に生み出された激しい竜巻は、俺に襲いかかる狼どもを一匹残らず竜巻の中に巻き込むと、ボロ切れのように連中の体を引き裂いた。

 竜巻が止んだあとに残されたのは、無惨むざんに切り刻まれた狼どもの死骸しがいだけだった。


 俺は狼の死骸に近寄ると、牙や爪、目玉や体毛を吟味する。


「……ふむ。これならなんとか素材にできそうかな」


 俺はひとしきり素材を採取してから、次なる薬を試すことにした。


   ◆


 色んな薬を調合しては試し、魔物と出くわしては蹴散らしてを繰り返していると、気づけば日が沈みつつあった。


 夕焼けが差し込む森の中にたたずみながら、俺は自分のステータスを改めて確認する。


  レベル:120

  スキル:鑑定(レベル82)、調合(レベル82)

  ユニークスキル:薬聖、薬の王

  付与状態:風魔法(レベル50)、攻撃力+1000、防御力+500、素早さ+500、獲得経験値+100%

  HP :1506

  MP :647

  攻撃力:358

  防御力:261

  素早さ:484

  器用さ:663

  魔力 :642

  魔防 :503


 …………うん。ユニークスキル、思っていた以上にチートだなこれ。


 本来一分間だけステータスを少し高めるだけの薬が、ユニークスキル『薬の王』によって効果時間も伸び、ステータス上昇も五倍になっている。

 この森の魔物は並の冒険者パーティーでもそこそこ苦戦を強いられる相手だというのに、まさか戦闘スキルをひとつも持たない俺がたった一人で無双できてしまうとは……


「もしかして、最初からこのユニークスキルを持ってたら、国外追放なんてされずに逃げられたんじゃないか?」


 そう考えるとものすごくもったいない気持ちになるが、過ぎたことをくよくよ考えても仕方がない。


 ――そうだ。せっかくこんなチート能力があるのだから、これから前向きに活かしていくことを考えよう!


 まずは、なんとかして人里に降りたい。

 いつまでもこんな魔物だらけの森をうろつきたくもないし、できれば屋根のあるところで安眠したい。

 俺の両手にきざまれた烙印らくいんのせいで、大きな街に入ることはできないが……検問のない小さな村になら、なんとかまぎれ込めるはずだ。


 それに……俺のユニークスキルと大量の調合素材があれば、この強力な呪印じゅいんすら跡形あとかたもなく消し去れるかもしれない。

 いずれにせよ、まずはなんとかして人里にまぎれることを最優先とすべきだろう。


 俺が決意を新たにしたところで――

 甲高い悲鳴が、森の奥から響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る