覚して悟り 斯くして無垢の手は穢れ
改行が酷いことになっていたので修正
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【悲報】馬車で隣町まで移動中、強盗に襲われる。
御者は頭に矢が刺さって死亡、落車。
店長によって馬車停止。
止まった馬車の周りを強盗に取り囲まれてる。←イマココ
「……さて、一応聞くが要件はなんだい?」
他の乗客(と俺)が怯えて馬車内で震えて見ている中、店長が強盗たちに問いかけた。
肝座ってんなぁ店長。御者が殺られてんだぞ、大丈夫か?
ハラハラしながら除いていると、ヘラヘラと笑いながら強盗の一人が店長へ近づいてきた。
「いい度胸してんなぁオバさんよぉ」
「……」
「この状況見てどんな用事か想像もつかねぇのか? 金だよ金。金目のモン全部寄越しな。……それと、ちょーっとこの体使わせてくれたら帰してやるよ」
そう言いながら、店長の胸に手を回してきた。
……おい、待て、なにやってるお前。
「んーん、ちっと歳食ってるし贅肉付いてるが、なかなか悪くねぇツラしてんじゃん? 乳もケツもデカいし、せいぜい楽しませ ゴペァッ!!?」
胸を揉みしだき、下卑た笑いを浮かべながらそんな最低なことを言っている途中で、後ろに向かってぶっ飛んだ。
縦に何回も回りながら豆粒ほどの大きさになるまで遠くまで吹っ飛んでしまった。新体操選手も真っ青な後転だったな。
店長が右手の中指と人差し指を前に出して、なにかを発射したようなポーズをとっている……今のも魔法かな?
見たことない技だったが、あれどう見ても死んだだろ。容赦なしか。
「テメェに触れさせてやるほど安かねぇよ、ゴミクズが」
万引き犯相手に見せて以来の、すっごい冷たい視線。
怒りを通り越して無表情で、ただただ相手を軽蔑している目だ。
「こ、このババア! なにしやがった!?」
「……自分たちからちょっかいかけといてそんなことも分かんねぇボンクラだから、賊になんか身を落とすんだろうが」
「んだとぉ、このアマァ!!」
「ああ、それと一応先に言っとくが、アタシはこの先のマオルヴォル子爵に依頼されたもんを納品しに行く予定でね。万が一ここでアンタらがアタシを殺して注文した品が届かないとなれば、いずれ必ずアンタたちに追手が送られてくる。今すぐ投降するなら牢屋でしばらくクサい飯食うぐらいで済むが、どうする?」
「ほほーう、お貴族様御用達の品ってわけか! さぞや高級なもんなんだろうなぁ、ますます引ん剝くのが楽しみだぜ!」
「はぁ~……警告はしたぞ、クズども」
溜息を吐いて、懐からなにかを取り出した。
……なんだアレ? 筒、か?
「ふんっ」
筒を持ちながら腕を振ると、筒が伸びた。
収納型の三段ロッド……!? 先に紫色の宝石のようなものが付いてるが、もしかしてあれ魔法の杖ってやつか!
あれ? でもさっき普通に素手で魔法使ってたよな? なんのためにあんなもん取り出したんだ。カッコつけるためとか?
「いい機会だ。坊主、この際よく見ておきな。魔法使いの戦い方ってのを教えてやるよ」
アッハイ。
邪なことを思ったのがバレたのか、額に青筋を浮かべ苦笑いしながらこちらにそう言ってきた。ごめんて。
「魔法使いだぁ? 偉そうに得意になって言いやがって! 魔法なんざ俺たちでも使えるぜ!」
「くらえやぁ!!」
強盗の一人が掌から魔法を放った。
デカい……! バランスボールくらい巨大なサイズの火球が、店長に迫ってくる!
普段店長が見せている火球とは比較にならない威力だぞ!? どうすんだよ!
「では、実戦の講義を始めようか」
そう言いながら店長も掌の上にソフトボールくらいの火球を作り、相手の火球に向かって放った。
いやそんなもんで相殺できるわけねぇだろ!? 避けろ!
……え?
店長の火球が相手の火球と衝突する直前に、地面に向かって軌道を変えた。
ドォンッ! と地面と接触して爆発すると、爆風が吹いて相手の火球を上方へ吹き上げた。
結果、山賊の放った火球は明後日の方向へ飛んでいってしまって不発。
「な……!?」
「まず一つ。火力がデカいだけの魔法を考えなしに真正面からぶっ放すな。威力は大したもんだが当たらなきゃ魔力の無駄だ。牽制に使うにしても消費が激しすぎるから効率が悪い」
「あんな小さい魔法で……!? なにしやがった!?」
「魔法が進行方向へ進む力は外部からの影響を受ける。外から強い干渉を受ければ進路はズレる。火球の爆風なんか至近距離で受ければそりゃああなるさ」
「な、なに余裕面で講釈垂れてやがんだコラァッ!!」
他の山賊が狼狽えながらも怒号を飛ばし、剣を構えて突進してきた。
魔法での勝負じゃ分が悪いと見たのか、近接戦闘に持ち込もうとしているようだ。
痩せた体の割に動きが速い。多分、身体能力を強化させる魔法を使っているなありゃ。
「二つ。魔法使い相手に接近戦を挑むなら近付く際に充分警戒しろ。遠距離で勝ち目がないからって安易に近付くと―――」
「死ねやぁぁあ!! っ!? ぎゃぁぁああっ!!?」
強盗があと一歩で店長を捉えるほど接近したところで、地面から岩石でできた槍が突き出してきた。
瞬きほどの間もなく串刺しにされる強盗。滝のように血を吐いた後、動かなくなった。
……てか、やっぱふつーに人殺すんだな店長。こわ。
「こんなふうに魔法による罠の餌食になると思え。また、近付くのに成功したとしても……」
「捉えたぜっ!!」
後ろから別の強盗が店長に接近していて、剣を店長に向かって振り回してきた。
速い、間に合わない……と一瞬思ったが、凄まじい速さで三段ロッドを振り剣を受け止めた。
まるで相手の剣に杖が吸い寄せられているかのように、的確に防いだ。
「くっ!? 今のを防ぐだと!?」
「相手の得物には気を付けな」
「えっ えがぎゃがぎゃぐあぎゃぎゃぎゃっ!!?」
鍔迫り合いのような状況になったと思ったら、急に強盗が変な悲鳴を上げながら全身を痙攣させた。
あの三段ロッド、もしかして接触してる相手に電撃を浴びせる効果でも付いてたりする? スタンガンみたいに。
「あ、がが、が、ぁ……」
「くっさ。これだから近くで焼くのは嫌なんだよ、焦げ臭くてたまらないねまったく」
……いや、プスプスと煙上げながら焼け焦げてる!?
スタンガンどころの威力じゃない! ほぼほぼ電気椅子じゃねーか! 怖すぎる!
そのまま地面に倒れて何度か痙攣した後、店長が頭に火球を放ってトドメを刺した。容赦なし。
「3つ。一度命のやりとりになったのなら殺すことを躊躇うな。相手が死ななきゃこっちが死ぬぞ。……ほれほれ、なにボサッとしてんだ。かかってくるなら早くしな」
「~~~っ!!」
クイクイと手招きしながら挑発しているが、強盗たちは顔を赤くして憤りながらも動けないでいる。
しゃーない。近付こうとすれば今みたいに黒焦げになるか串刺しにされるかの二択だし、迂闊に手出しできないことくらいは分かったはずだ。
「ば、馬車だ! 馬車の中の連中を人質にしろ!!」
「そのアマに近付くな! 全員で馬車を狙―――」
「4つ。相手の弱点を狙う時はさらに強く警戒しろ。それを黙って見ているような間抜けなんかいるわけがないからな」
「なっ……!? あ、れ……ぁ?」
残った強盗たちが一斉に馬車を襲おうと駆け寄ってきたが、馬車に触れる前に全員が輪切りになって地面に崩れ落ちた。
……なにが起こった……!?
よく見ると、馬車の周りを舞う土ぼこりが不自然な舞い方をしているのが分かるが、馬車の周りを見えないなにかが駆けまわってるのか?
「風の魔法で作った見えない刃さ。馬車から降りた時にあらかじめ周囲に設置しておいたんだよ。『出たら死ぬぞ』って言ってただろ?」
これも店長の魔法かよ! 戦いながらずっとこんなもん維持してたってのか!?
てか、『出たら死ぬ』って強盗に殺されるとかじゃなくて店長の魔法でかよ。
もうやってることがすごすぎてワケ分からん……。
「以上、講義は終わりだ。ったく、メンドーなことさせやがって……」
そう言いながら、店長が馬車のほうへ戻ってくる。
結局一人で皆殺しにしちまいやがった。強すぎるやろ店長。全く参考にならん。
あー、おっかなかった。……いや店長がじゃなくて強盗の話だよ? ホントホント―――
「ヒャッハハハハハアッ!!」
「なっ……!?」
「にぃ!?」
何者かの甲高く下品な笑い声が響いた。
外にいた強盗たちの声じゃない。
馬車の中、いや馬車の床下を突き破って下から誰かが入ってきやがったんだ!
「うわぁぁあああ!!?」
「な、なんだこいつはぁああ?!」
「う、う、うごくんじゃねぇぞぉおおはははは!!!」
侵入してきたのは、大柄で筋骨隆々とした異常な目つきの男だった。
4白眼の目を見開いて、涎を垂らしながら口の端を裂けそうなほど吊り上げて笑っている。
男の腕が、片手でヘッドロックする形で俺の首を掴んで拘束した。
「ぐぅっ!?」
「! 坊主っ!」
「ひひひっ、ひでぇなネェちゃん、よぉ。お、オレの手下どもを、み、皆殺しにしてくれちゃって、さぁ?」
……おかしい。
こいつはさっきまで馬車の外のどこにもいなかった。
風魔法の刃を潜り抜けてきたとしても、見逃すはずがないのに……!?
「……どっから入りやがったテメェ」
「おおっと、う、動くなよぉ? 腕も下げろぉ、少しでも、へ、変な素振りを見せたら、こ、このガキの首ィ、へ、へへ、へし折っちゃうぜぇえへへへぇッ!」
「ちっ……手下っつったか? ならテメェがこのゴミどものボスってわけかい」
「あぁそうさぁ。ひ、ひでぇよ、なぁ? せ、せっかく命からがらレオポルドから、に、逃げてこれたってのにぃ、オレ以外みぃんな、く、くたばっちまいやんの」
レオポルドから、逃げた? こいつら、元はレオポルド領にいたやつらなのか?
賊の討伐隊が取り逃がした奴らってことかな。しっかり仕事しろよクソ親父どもが。
「じ、地面を掘る土魔法がなけりゃ、い、い、生きてここまで、こ、これなかった、だろうさ! お、オレは運がよくて、アタマもいいんだ!」
「……なるほど、死角から土魔法で地面を掘り進んで馬車の下から出てきたってわけか。無い頭で考えたにしちゃ上出来だ」
「だ、だろ? ひひひっ、それに気付かなかった、お、お前は、大バカってこった!」
「それで、そっからどうする気だい?」
「ひひひっ、かっ、金目のものさえ差し出せば、楽に殺してやろうと、お、お、思ってた、が、き、気が変わった。お、お前ら、みんな、手足もいで、め、め、目玉抉っていたぶりながら、こ、こ、殺す!」
薬物でもやっているのか、異常な目つきと吃音交じりの声でそう宣言した。
こりゃ脅しじゃないな。多分、こいつはこれまで何人も殺してる。
「やらせると思うか? その前に―――」
「動くなぁっ!!! う、う、動けばこのガキからま、真っ先に、殺すぞぉ!!」
「う゛ぁああ゛っ……!!」
一層強く首を絞める力が強くなってきた。
首の骨がミシミシと軋んでいるのが分かる。
激痛と窒息感で目が回る。
息ができない。
前世の、病院で死ぬ直前に意識が遠のいていった感覚が頭をよぎる。
死ぬ。
また、死ぬ……!
「やめなっ! そいつを殺せば他の客を無視してでもお前を殺す!!」
「ひひひっ! な、なら大人しくしてろよぉ! じゃあ、ま、まずはお前、から、し、し、死ねっ!!」
俺を締め上げている右腕がほんの少し緩み、息を吸った。
それと同時に、強盗のボスの左腕にボウガンのようなものが付いていることに気付いた。
その矢尻の先が、店長に向けられている。
殺される。
このままじゃ、店長が殺される……!!
……なら、テメェが死ねっ!!
魔力を『加速』属性化
『出力調整回路1番・2倍』×『出力調整回路2番・5倍』=加速倍率『10倍速』
対象『俺に接触している強盗のボスの全身、心臓の鼓動や血流を含む』
マニュアルで使用するため維持時間は省略
『発動』
「う ゴヴォエェエッ!!?」
加速魔法を強盗のボスに10倍速で発動した直後、その顔中の穴という穴から血が噴き出した。
顔からだけじゃない。全身の血管がブチ切れたようで、皮膚を突き破り勢いよく出血して、体中がみるみる血に染まっていく。
「あぁぁぁあ゛あっぁあ゛あっあぁぁぁあ゛ぁぁぁあああっ!!!」
「ひ、ひいいぃいいいっ!!?」
ボスの猛り声と、その惨状を見た乗客の悲鳴が馬車の中に響く。
それに構わず、加速の魔法を維持し続けた。
いきなり10倍の勢いで加速された血流に耐え切れず、体中の血管がパンクしたんだ。
肉体の外側ですらこの有様だ。内側は脳や内臓までくまなく内出血していて、もはや助からないだろう。
「な、なに、が、あ……ぁい……やだ……死に……た……く……ぅ……」
地面に倒れ込み、うわ言を漏らしながら血の涙を流して泣いている。
最期に大きく痙攣し馬車の床一面を赤く染めて、ついに動かなくなった。
……死んだ。
俺が、殺したんだ。
「……あ、ぁ……お、オエェェエッ……!!」
吐いた。
限界までランニングした時とは比べ物にならないほどの嘔吐感、そして罪悪感に嫌悪感。
その全てを、腹の底から汚物とともに吐き出した。
「ラインッ!!」
店長が俺を呼ぶ声がする。
よかった、間に合ったのか……。
なにもかも吐き出した後、最後に安心感だけを覚え、意識を手放した。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
https://kakuyomu.jp/users/2868416645152/news/16818093090053411529
↑こんな具合にラインハルト本来の『高速化用魔法回路』に横から転生者の『加速用魔法回路』が寄生するように接続されています。
今回強盗のボス相手に使用したのは『加速』魔法用の出力調整回路に加え、『高速化』魔法の出力調整回路が掛け算で出力されるバグみたいな挙動を利用したモノです。
高速化は5倍速が限界ですが、加速はさらにその5倍がMAX。
ただしそこまで高出力だと消費魔力も半端ないのでそんなにポンポン使えません。
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