第5話 わからせてやる
ライの活躍により楽勝に見えたこの試合だったが、仮にも相手は年上かつ経験者の集団。そう簡単には勝たせてくれないらしい。
――というか、負けそう。
というのも、試合開始直後はライが圧倒的なプレーで次々と点を決め、完全にこちらのペースだった。しかし、時間が経つにつれて相手も対応してきて、徐々に追い詰められていった結果、
現在のスコアは4-8。
大差をつけられており、正直言ってかなり厳しい状況だ。
僕もキーパーとして頑張ろうとしてはいるのだが……。いつもより手足が短いせいかうまく体が動かせない!そのせいで、相手のシュートが面白いくらいにバンバン入る。
あれ、これピンチなの、もしかして僕のせい?
ぐぬぬ……。やる気はあまりないけど、自分のせいで負けるのはさすがに嫌だ。
また、ここまで苦戦している要因は、キーパーがクソ雑魚という点だけではない。相手の戦略で、ライを徹底的に対策しているのも大きい。
相手が攻める際は、2人が前線で攻撃を仕掛け、残りの2人が徹底してライをマークする。守るときには、1人がボールを追い、3人がかりでライを封じ込めるという徹底ぶり。
これは、自ら人数不利を作るという、少人数のサッカーではまずやらない、なんともふざけた戦法だ。
だが、ライ以外が未経験のこちらとしては、そのふざけた戦法を突破できていない以上、この場に限っては正しい戦法といえる。
たまに駿介が活躍しているので、それを警戒して作戦を変えてくれたりしないだろうか……と淡い期待を抱いてしまうが、まだ相手の意識が変わるほどのヘイトは稼げていないようだ。
ライ自身も、どうにか打開しようと必死に動いている。だが、これほど徹底的にマークされていては、さすがのライでも多勢に無勢だ。
さらに、序盤から動き続けていることで疲労の色が濃くなり明らかにパフォーマンスが落ち始めている。そのせいか、動きにキレがなくなり、以前なら振り切れた相手の守備にも阻まれる場面が増えてきた。
(こりゃ無理だな)
ライ以外の子どもたちも、勝てないことは薄々理解していたのか、1人が「やっぱり……」とつぶやいた。明らかに諦めムードが漂っている。
そもそも、なんでこんな格上相手に勝負をすることになったのか。いまさら考えたところでどうしようもないが、ここまで戦力差があるとついつい考えてしまう。
まぁ、今回のように「無理なものは無理」と挫折を知るのも、子どもの成長には必要だろう。特に、生意気なライにとってはいい薬になったんじゃないか?
別に、負けること自体は悪いことでもなんでもない。公園が使えなくなる点はちょっとあれだけど。「大切なのは、負けから何を学ぶかだ」……って、この前読んだ漫画に書いてあったし。
つまり、この敗北は必要悪!彼らの成長に、不可欠なのです!
そう、自分が戦犯気味なことへの言い訳を考えていると、駿介がうずくまっているのが目に入った。
どうやら、相手選手と接触した際に足を痛めてしまったらしい。一旦ボールがコートの外に出て、試合が中断される。
「駿介大丈夫か?」
「大丈夫や!ちょっと足を痛めただけやけど、この程度、問題あらへん!さあ、こっから逆転するでー!」
ライが駿介の元に駆け寄り、靴を脱がして足を確認する。遠くてよく見えないが、腫れていたり変色している様子はなさそうで、一安心していると。
「みんな、もういいよ……。お母さんに言えば、また同じの作ってくれると思うから。」
唯一の紅一点である花凛ちゃんが、今にも泣きそうになりながらも、無理に笑顔を作って言ってくる。
どうしたんだろう、何かあったのだろうか?
「何言ってんだよ!あれは10歳の誕生日に親からもらった宝物だって言ってたじゃねーか!まだ諦めるには早い!みんなもそう思うだろ!」
「せやで!こんな足の痛みなんて屁でもないわ!わははは、イッ!……」
「駿介くん無理しないで、大丈夫だよ。頑張ってくれたのは十分伝わってるから……。それにこれ以上やったら、みんなも同じように怪我しちゃうよ」
「そんなこと...」
ライがまるでこの世の終わりのような顔をしている。「ただごとじゃないな」と感じた俺は、急いでライたちの元へ向かう。
「なに?トラブル発生?」
「ああ、いや、トラブルってほどじゃないけど……ちょっとな。どうせなら、お前にも話しておくか。」
そう言って、ライは今回の試合をすることになった経緯を手短に教えてくれた。
どうやら以前、ここでサッカーをしていたとき、運悪く相手少年グループのボールが花凛ちゃんの荷物に当たり、カバンに付けていたブローチが壊れてしまった。
壊れたブローチは、花凛ちゃんのお母さんが10歳の誕生日に手作りしてくれた、大事なものだったそうだ。故意ではないにしろ、そんな大切なものを壊したとなったら、普通は土下座でもして謝るのが普通だ。
しかし、少年たちは謝罪の言葉もなく、あろうことか「そんな場所に荷物を置く方が悪い」とか「女の癖にサッカーするな」とか言い出したらしい。
それにブチギレたライが食って掛かり、売り言葉に買い言葉で今回のサッカー勝負をすることになったそうだ。
やっぱりあいつらは倫理観を幼稚園に置いてきたらしい。
「永司くんもこんなことで巻き込んじゃって、ごめんなさい」
「大丈夫、大丈夫!ちょうど暇だったから。むしろ、いい運動になってラッキー!って感じだよ」
これ以上空気が重くならないように、明るい声で話す。
なるほどな。
そりゃライも人を殺すような目をするし、無茶しないで欲しいと花凛ちゃんが申し訳なさそうな顔をするわけだ。
ずっと疑問だった試合前の異様な雰囲気に納得がいった。
それにしても、聞いただけでもムカつく話だ。途端に、少年たちの顔を見るだけでイライラが込み上げてくる。
正直言って、この試合がどうなろうとどうでもいい。勝っても負けても僕に全く影響ないし、こっちはタイムスリップのことで手一杯だからな。今すぐ帰りたいという気持ちに変わりはない。
だが、こんな話を聞いて「そうなんだ、頑張ってね」とはならない。目の前で泣きそうになっている少女をどうにか笑顔にしたいと思うのが、男という生き物だ。
それに、あいつらの「つまらん、一方的に勝つに決まっている」みたいな表情が気に食わない。勝負ってのは、勝つか負けるかわからない、あのヒリつく空気があるからこそ面白いというのに。
仕方がない、そのことを年長者の僕がしっかりと教えてやらないとな。
「なあ、みんな。あのクソガキどものプライドをへし折るいい考えがあるんだが、どうする?」
そう言って、先ほど思いついた、成功するかどうかもわからない大博打をみんなに伝える。
いいぜ。オスガキども、大人の戦い方ってのをわからせてやるよ。
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