第4話 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな
帰りたい!帰りたーーーーーーい!
先ほど、試合前の作戦会議が行われた。とはいえ、そんな大層なものではなく、「みんな頑張ろう!」と声を合わせて士気を高めた後、軽くポジションを決めただけの簡単な打ち合わせだった。
その結果、僕は半ば強引にゴールキーパーを任されることになる。「動かなくていいのは不幸中の幸いか」と遠い目をしつつ、これから試合をする相手チームに目を向けた。
相手チームの少年たちは、こちらよりひと回り大きな体格をしており、その威圧感に圧倒される。実際には10センチも差はないと思うのだが、子供目線だとその差って結構でかいんだなと、どこか懐かしさを感じる。
そのまま彼らの足元に目を向けると、わざわざ靴を履き替えたり、すねを守るための道具を装着したりしているのが目に入った。
「えぇ……ガチガチな装備やん」
少なくとも、公園で遊ぶときに持ってくるようなものではない。
靴を見ると、裏側にはとげとげした滑り止めが付いており、これがまた非常に痛そうだ。それに比べて僕の靴はどうだ。滑り止めは申し訳程度の凹凸しかなく、マジックテープ付きの安物。
例えるなら、水鉄砲と機関銃くらいの差がある。
「そんな装備で大丈夫か?」だって?無理です。今すぐ一番いいのを持ってきてください!じゃないと、足を踏まれた瞬間、即病院送りです。
彼らには倫理観とか常識とか、そういうものが欠けているのでしょうか?せめて女の子と接触するときくらいは安全なプレイを心がけてもらいたい。
そもそもの話、ライの勢いに押されるままあれよあれよと試合をすることになってしまったけれど……。あいつら、一体誰なんだ?
「あの人たちね、近くのサッカーチームに所属している6年生たちだよ」
僕が困惑しているのを察したのか、花凛ちゃん(さっき作戦会議中に名前聞いた)が申し訳なさそうに教えてくれた。
6年生!? こっちは全員5年生だって話だから、向こうは全員年上で経験者ってことかよ。
装備、体格、経験――考えられるすべてのステータスで負けているのを実感して、やる気がさらに消し飛ぶ。
別に勝ちたいとは思わないけど、100%負ける戦いをしたいかって聞かれたら正直したくない。
ああ、やっぱり帰りたいよー。
「そんな心配そうな顔するなって、永司!こっちには天才エースストライカーのライがいるんや!あいつがいれば百人力やで!」
「いやいや、いくら天才エースストライカー(笑)がいても、さすがにこれは――むぐぅ!」
言い終わる前に、いつの間にか横にいたライにわき腹を突かれた。
「文句があるなら聞くけど、なんか言ったか、永司?」
「……なんでもないです。」
物事を全部物理技で解決するの、ほんとよくないと思います。いつか、物理耐久特化のバトモンに毒状態にされて、痛い目見ればいいのに。
(バトモンとは、大人気の対戦型育成RPG『バトルモンスター』の略)
こんなにも無茶苦茶なやつだと将来が気になるな。暴君にでもなってるんじゃないか?専用奴隷とかがいても不思議じゃない。
もし現代に戻れるなら、真っ先にライのことを確認してやろう。でも、どうせモテモテで彼女の1人や2人いるんだろうな。顔が良くて、運動できて、強引な性格――女子にモテる要素しかないじゃん。
はいはい、高スペック、高スペック。
さすが600族さん、すごいですねー。
「花凛ちゃんも安心して。俺があいつらをかっこよく成敗してやるからさ!」
「せやせや、二人とも安心せい!西谷小学校最強のピッチャーであるワイがいるから大丈夫や!永司達はドーンとゴールを守っとけ!」
ライと駿介が花凛ちゃんを優しく励ますが、彼女の表情は依然として暗く、未だに申し訳なさそうな顔をしていた。
?
何か不安になるようなことがあったのだろうか?いや、まぁ初心者がこれからガチ装備の経験者と試合するという時点で、不安な要素しかないのは確かだが。
それにしたって、異様な雰囲気だ。めんどくさい展開になりそうだがらあえて触れないけど。
てか、野球の上手さとサッカーの上手さに関係性はないだろ。いやでも、この中では駿介が一番体格がいいから頑張り次第では何とかなるのか?
「いやいや、ここは『野球とサッカー関係ないやろ!』ってツッコんで場を和ませてもらわんと。全く、永司はお笑いがわかっとらんな~」
「え?なに、僕が悪いの?」
言いたいことは山ほどあったが、向こうチームの準備が整ったようなので、試合に備えて自陣ゴールへと向かう。
「よーし、ではそろそろ試合を始めるぞ。ルールは、先に10点取った方が勝ち。キーパーは交代OKだが、必ず相手チームに伝えること。さあ、試合開始の宣言をしろ!」
「試合開始ぃ!!!」
相手が試合開始の宣言をした瞬間、ライはボールを前に蹴り出し全速力でドリブルを始めた。
「はやっ……」
小学生とは思えないスピードに、思わず声が出る。
すると、相手はすかさずライの前に立ちふさがり、これ以上進ませないように足を広げてブロックする。
…が、それを見たライはスピードを一切緩めることなく、相手の足と足の間にボールを通して突破する。
足の間を通された相手選手は、何が起こったのか理解できず、タジタジだ。
それを見て焦ったもう一人が、ボールを奪うべくライに詰め寄る。
ライは相手と接近したタイミングで、ボールをつま先で軽く蹴り、ボールを浮かせた。
そのまま浮いたボールを胸で前に押し出し、ボールがバウンドしながらもその動きに無駄がなく、相手ディフェンダーを簡単にかわしていった。
柔らかいコントロールと素早い反応で、まるでボールがライの手のひらのように動く。
試合開始まもなく、ライと相手キーパーの1対1の状況が訪れる。
この場面で、相手キーパーには選択肢が2つある。
1つ目は、ゴール前に陣取り、ライが打ってきた”シュートを止める”ことに専念する方法。
2つ目は、ボールに近づいて、ライが”シュートを打つ”のを防ぐ方法だ。
相手キーパーは迷うことなくライに向かって走り出す。どうやら後者を選んだようだ。確かに、バウンドして不安定なボールに対しては、この選択肢が有効だろう。
だが、ライはそんなことを気にすることなく、右足を引き全力で振り抜いた。
ボールはキーパーの顔スレスレを横切り、ネットを激しく揺らす。その一撃はまさに完璧なタイミングと精度で、格の違いを見せつけていた。
(何今のかっこよ!僕が女だったら絶対惚れてたわ。危ない危ない)
それにしても、凄すぎないか?君、ほんとに小学生?もしかして僕と同じように大人だったりしない?
これなら、ドーンと構えてるだけで勝っちゃうかもしれないな。よし、ヒーローインタビューを今のうちに考えておくか。
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