第5話 帰省03

翌朝。

例によって楽な服装で部屋を出る。

そして、すれ違うメイドや執事たちに軽く挨拶をしながら食堂に入ると、

「ミーちゃん!」

という声がして、私の可愛い天使、アリアが私に思いっきり抱き着いてきた。

「あーちゃんただいま!」

と言ってアリアを抱えて抱きしめる。

そして思いっきり頬ずりをしてあげるとアリアは、きゃっきゃと心から嬉しそうに笑ってくれた。

「あのね、あーちゃんね、いっぱい待ったの!」

とずいぶん幼稚な言葉で甘えてくるアリアに、

「うん。いっぱい待たせてごめんね」

と微笑みつつ軽く謝る。

するとアリアは、

「うん。いいよ!」

と言って私に満面の笑みを見せてくれた。

そんな私たちに、

「あらあら。よかったわね、あーちゃん」

という声が掛けられる。

私はその声に、

「ミリーさん、ただいま」

と微笑みながら声を掛け返した。

そんな私にミリーさんこと、我が家の妖精、義母のミリエラさんは、

「うふふ。おかえりなさい」

とふんわりとした声で語り掛けてくる。

私はそのなんとも言えない不思議な包容力にどこか心をほっと落ち着かせながら、私の腕の中でまだきゃっきゃと嬉しそうに笑っているアリアに、

「さぁ。まずはご飯にしましょう。で、そのあとは作戦会議よ」

と声を掛けた。

「さくせんかいぎ?」

とアリアが不思議そうな顔をする。

そんなアリアに私は、

「ええ。今日、なにをして遊ぶかの作戦会議」

と笑顔でそう応じた。

その提案にアリアの顔が一気に華やぐ。

そして、アリアは、

「おままごと!あと、追いかけっこと、チャッピーのお世話と、おやつと、えっと……」

と悩ましげな顔と嬉しそうな顔を足して二で割ったような表情を浮かべて次々と遊びを提案してきた。

私はそんなアリアを心から愛おしく思いながら、

「うふふ。じゃぁ、全部やっちゃおっか?」

と言ってその柔らかい髪の毛を優しく撫でてやった。

「やったー!」

と無邪気に喜ぶアリアに、ミリーさんが、

「あらあら。まぁまぁ」

と言いながら微笑みかける。

そして、周りにいたメイドや執事もほんわかとした表情を浮かべてその様子を微笑ましく見ているのが伝わってきた。

そんな私たちに、

「ほらほら。せっかくの朝食が冷めてしまうよ」

という優しい父の声が掛かる。

その声に私たち三人は、

「「「はーい」」」

と少し子供っぽい返事をすると、

「うふふ」

と笑い合いながら食卓に着いた。


その日の朝食は和やかに進み、

「ぶどうパン、好き!」

というアリアの可愛い声にみんなが微笑み、私も、

(ああ、このコンソメスープ美味しいわ。それに、この卵の焼き加減も絶妙。さすがニールさんね。私好みの少し硬めの半熟を熟知してくれている。ああ、私はなんて幸せ者なのかしら……)

と幸せを噛みしめながらアリアに負けないくらいもりもりと朝食をいただく。

そんな私を見て父は少し安心したような笑みを浮かべ、

「今日も楽しい一日になるといいな」

と私とアリアに向かってそう声をかけてきた。

「うん!」

「ええ」

と私とアリアの返事が揃う。

私たちはそのことが少しおかしくて、

「えへへ」

「うふふ」

と笑い合い、それを見たミリーさんも、

「うふふ」

と微笑んで、和やかな朝食は優雅に進んでいった。


やがて食後のお茶を飲みながら、アリアとの作戦会議に移る。

「さぁ、今日は何をして遊びましょうか?」

という私の質問に、アリアは、

「えっとねぇ……」

と真剣に悩み始めた。

そんなアリアに、私は、

「じゃぁ、とりあえずお庭でチャッピーと遊びましょう。追いかけっこもおままごともできるわよ? で、その後はお庭でお昼を食べるの。その後は絵本を読んであげましょうか? それとも魔法を見る?」

と言ってどうするかを決めてという風な視線を送った。

そんな提案にアリアは目を輝かせて、

「まほう!」

と答えてくる。

私はその答えを聞き、

(うふふ。まるで小さい頃の私みたい)

と思って目を細めつつ、

「うふふ。じゃぁ、着替えたらさっそくお庭に集合よ!」

と言ってアリアに外遊びができるような服に着替えてくるよう促した。

「はーい!」

と元気に返事をしてアリアがミリーさんと一緒に食堂から出ていく。

私も父に一礼すると、食堂を出て自室に戻った。


「今日は一日お庭でアリアと遊ぶわ。お昼もお庭でいただくから準備よろしくね」

とユリアに伝える。

そんな指示にユリアは、

「かしこまりました」

と微笑んで、さっそく部屋を出て行った。

私も軽く髪を縛ってさっそく部屋を出る。

そして、家族専用の広い中庭に出ると、そこでアリアの到着を待った。

やがて動きやすい服に着替えたアリアが我が家の犬ことグレートファングのチャッピーに乗ってやってくる。

その後ろからは日傘を差したミリーさんもやってきた。

「ミーちゃん!」

と手を振りながらやってくるアリアに私も軽く手を振り返し、私の前で大人しく座ったチャッピーの背中からアリアを抱き上げてあげる。

そして、大人しくアリアを乗せてきてくれたチャッピーに、

「うふふ。チャッピーただいま」

と声を掛けてやりながらその人をはるかに上回る巨体を軽く撫でてあげた。

すると、チャッピーは嬉しそうに、

「わっふ」

と鳴いて尻尾を振る。

私はそんなチャッピーを見て、

(そういえば、チャッピーを連れて帰ってきてくれたのはお父様とお母様だったわね……)

と昔のことを思い出した。

たしか、あれは私が三歳の時のことだ。

大きな、それこそ子供が乗れるくらいの白くて大きな犬が出てくる絵本を見た私は思わず、

「うちにもこんな大きなワンちゃんがいたら楽しいかもなぁ……」

とつぶやいたらしい。

自分ではあまりよく覚えていないが、小さいころからわがままのひとつも言わない私が珍しく言った要望に両親は歓喜し、

「よし。お父様に任せておきなさい。とびっきり大きなワンちゃんを連れて帰って来るぞ!」

「あら。私も一緒に行くわ。一人だけいい恰好なんてさせないんだから!」

と言って即座に行動したのだそうだ。

私はその言葉の意味がよくわからなかったが、きっとどこかのお店から買ってきてくれるのだろうと思って、

「はい。ありがとうございます。楽しみです!」

と無邪気に答えてしまったらしい。

そしてしばらく経ったある日。

両親が犬とは思えないほど大きなイヌ科の魔獣を連れて帰って来たのが今、私の目の前にいるチャッピーだ。

チャッピーはグレートファングという大型の魔獣でかなり強い魔獣に分類されている。

まるでサーベルタイガーのように突き出た大きな牙が特徴で本来はかなり狂暴な魔獣らしい。

しかし、うちのチャッピーは我が家にやってきた時から非常に大人しく、しかも賢かった。

私は初めて見る魔獣に、

(え。これ絶対犬じゃないよね……)

と少し驚きつつも、両親のキラキラと期待に輝く目と自分自身の興味が勝って怖がることなく、

「よろしくね、ワンちゃん!」

と言っていきなりチャッピーの鼻筋を撫でたらしい。

それをみた両親がかなり満足そうな顔をしたのは今でもよく覚えている。

私がそんなチャッピーとの出会いを思い出していると、アリアが、

「ミーちゃん?」

と言って私の顔を覗き込んできた。

「え?ああ、ごめんなさい。つい昔のことを思い出してしまっていたわ」

と謝りつつ、笑顔でアリアの髪を撫でてやる。

するとアリアはくすぐったそうな顔をして、

「えへへ」

とはにかんだ。

そこからは楽しいおままごとが始まる。

アリアがお母さん役で私は子供役を演じた。

途中からはミリーさんも父親役で参加する。

そして、ついにはチャッピーも私の弟役で参加すると、おままごとは非常に盛り上がり、最終的には私とアリアが結婚するという訳のわからないエンディングを迎えた。

そこへユリアたちメイドがバスケットやティーセットを持ってやってくる。

「お昼をお持ちしました」

というユリアの明るい声に、アリアが一番に反応して、

「はーい!」

と元気な返事をした。

その声にみんなが微笑んで楽しい昼食が始まる。

その日の昼食は色とりどりのサンドイッチで、チャッピーには大きな塊のいわゆるマンガ肉が用意されていた。


そんな楽しいお昼が済んだ後。

午後は私が氷魔法で作ったシャーベットを美味しく食べたり、追いかけっこをして遊ぶ。

そして、アリアがチャッピーと一緒にお昼寝をしてしまうと、私はミリーさんと少しだけ大人の話をした。

「なんだか大変だったみたいねぇ」

といつものふんわりとした声で優雅に話しかけてくるミリーさんに、私は、

「ええ。呆れたり疲れたりで大変でしたわ」

と苦笑いを浮かべながら答える。

そんな私の苦笑いを見て、ミリーさんは、

「うふふ。でも楽しそう」

と、ちょっとだけいつもの不思議ちゃんセンスを発揮して意外な言葉を言ってきた。

しかし、私はその言葉がなんともしっくりきて、

「ええ。なんだかとっても楽しいです。……こう、気持ちが楽になったっていうか……」

と、また苦笑いで答える。

すると、ミリーさんは「うふふ」と柔らかく微笑んで、

「今のミーちゃんの方が可愛くって素敵よ」

と言ってくれた。

そんな真っすぐな言葉に若干照れる。

しかし、私は照れつつも、この可愛らしい人からのエールがなんとも嬉しくて、

「ありがとう」

と素直にお礼の言葉を述べ、微笑んだ。

春の庭に温かい空気が流れる。

そして、アリアが起きてくると、私たちはまた楽しく遊び、お腹を空かせて仲良く食堂へと向かった。

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