第3話 依頼書
ギルド内は今日も活気に満ち溢れていた。
掲示板の前で依頼を吟味する冒険者たちの声が飛び交い、受付カウンターには行列ができている。
そんな中、エルナンは悠然とカウンターへ向かい、選んだ依頼書を受付嬢に差し出した。
「この依頼書を受けたいんだが……」
「はい!!」
受付嬢は元気よく答えた後、確認のためにエルナンを見つめる。
「では、冒険者ライセンスの方を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
エルナンはポケットから手慣れた様子で冒険者ライセンスを取り出した。
それを受け取った受付嬢は目を通しながら頷く。
冒険者ライセンス。
それは、冒険者として活動するための証明書であり、迷宮への入場や依頼の受注に必要な身分証明だ。
十五歳以上が冒険者試験を受けて合格することで手に入るもので、階級や実績が刻まれている。
「はい、エルナン=ドゥーンさんですね……階級はC……えっ!?」
受付嬢の目が一瞬大きく見開かれる。
(この子、一年でC級冒険者!?)
冒険者には、H級から始まり、最高位であるS級までの階級が存在する。
このランクは冒険者の実力や信頼を示し、指定された階級以上でなければ受けられない依頼も多い。
C級は中堅クラスとはいえ、通常は数年の経験と実績が必要なランクだ。
受付嬢は驚愕していた。
(魔力もほとんど感じない……それなのにどうしてここまで……?)
エルナンは気にも留めず、淡々と告げる。
「早くしてくれ」
「あ、はい!! 確認が取れました。この依頼はC級から受けることができますので、大丈夫です!! お返しします!!」
「ああ」
『なあ、あの受付嬢の乳見たか? めちゃくちゃデカいな』
(うるせえ……)
エルナンはライセンスを受け取ると軽く頷き、依頼書を受け取ってカウンターを離れた。
(はあ、それにしてもあの子、ずっと胸を見てたなあ……)
ギルドを出ると、エルナンは依頼書を手にしながら街のメインストリートを歩き始めた。
目的地である『ジャジャ洞窟』は徒歩で一時間ほどの距離にある。
しかし、その途中で足を止めたのは人気のない路地裏だった。
エルナンは辺りを見回し、人影がないことを確認すると、低く呟いた。
「よし、人がいねえし……行くぞ、ザグラ──ッ!!」
『待ってたぜ、エル!! 見せてやろうぜ、俺たちの力をな!!』
その瞬間、エルナンの背中から黒い翼が生えた。
闇のように漆黒のその翼は、エルナンの背中から広がり、柔らかく空気を切り裂く音を立てる。
エルナンは地面を蹴った。
その一瞬で周囲の空気が一変し、身体が音速に近い勢いで宙に飛び上がる。
街の屋根を越え、高空からクルセラタウンの全景を見下ろすエルナン。
背中の翼を巧みに操り、目的地であるジャジャ洞窟へと一直線に向かう。
『やっぱり空を飛ぶってのは最高だな、エル!』
「そうかよ」
地上の森や川を一瞬で越え、遠くに洞窟の入り口が見えてきた。
『着くの早ええな!! けど……おい、エル、気をつけろ。あの洞窟から、ただならぬ気配がするぜ』
「……わかってる。けど、これが俺たちの仕事だろ?」
エルナンは地上近くまで高度を下げ、洞窟の前に着地した。
翼が背中へと吸い込まれるように消えると、再び人間の姿へと戻る。
「さて……まずは挨拶代わりに一発、暴れてみるか」
ジャジャ洞窟の入り口に立つエルナンの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
洞窟の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。
遠くからは水滴が地面に落ちる音が響き、不気味な雰囲気を醸し出している。
『おい、エル……この洞窟、ただの盗賊団がいるだけじゃなさそうだぜ』
「どういう意味だ?」
『奥から強ええ魔獣の気配がする。俺ですら寒気がするぐらいだ』
「……お前がか? 面白くなってきたじゃねえか」
エルナンは静かに拳を握りしめ、洞窟の奥へと一歩を踏み出した。
その先に待ち受けるのは、盗賊団だけではなく、彼らを従える魔獣の存在だった――。
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