第2話 冒険者カレー

 アルケオンの遺跡──


 薄暗い遺跡の奥、砕けた柱や苔むした壁に囲まれた広間。

 そこに立つのは、茶色の帽子を被り、金髪の長髪をなびかせる一人の男だった。

 右頬には深い縦傷が刻まれている。

 その姿を、目の前の魔獣がじっと睨みつけている。


 魔獣はカンガルーのような体型だが、目には知性の光が宿り、全身に鋭い筋肉が張り詰めていた。

 その後ろ足で地面を強く踏みつけ、攻撃の準備をしている。


「ほう、お前もなかなかの強者のようだな」


 男――ベルゼ=パグはゆっくりと腰を落とし、地面に両手を触れた。


「そこをどかねえって言うなら……手加減はしねえぜ?」


 地面が突然波打ち、先の尖った地面の槍が魔獣に向かって飛び出す。

 鋭利な地の槍を、魔獣は素早いジャンプで軽々とかわした。


「やるじゃねえか」


 ベルゼの口元に笑みが浮かぶ。

 しかし、カンガルーの魔獣が着地する直前、背後から男の声が響いた。


「けどな……そっちは本命じゃねえんだよ」


 その瞬間、ベルゼの拳が魔獣の背後から襲いかかる。

 魔獣の身体に拳が突き刺さると同時に爆発音が響き、肉片が飛び散った。


「悪いな、カンガルー。邪魔者は手加減なくぶちのめすのが俺のモットーでねえ」


 血の雨の中、微塵も汚れを気にしない様子で帽子を被り直し、ベルゼは悠然と立ち去っていった。


「さて……次はどんなお宝が待っているかな」


 彼こそ、世界一の探検家、ベルゼ=パグである!!



 ベルゼの目撃情報を聞いたエルナンは、自室でザグラと向き合っていた。


(まさかこんなに早く手がかりが掴めるとはな……)


『フハハ、これは運がいいな!! ……それはそうとお腹すいた』


「はいはい、わかったよ」


 ザグラの催促にため息をつきながら、エルナンは街の食堂へと向かった。


 ハイバラ食堂は冒険者たちが集う活気ある店だ。

 大皿に盛られた料理が次々と運ばれ、空腹の冒険者たちが大声で笑い合っている。


 メニュー表を手にしたエルナンは、財布の中身を確認する。


「持ち金は1500ゴールドしかねえんだ、そんないいもんは食えねえからな」


『ステーキ!! 俺はステーキが食べたいッ!!』


 ザグラの声が響くが、エルナンは即座に却下する。


「……無理だな。ステーキは3000ゴールドからだ」


『くそお。じゃあ1500ゴールドで食べられる一番高いやつがいい!!』


 仕方なく、エルナンはメニューを睨みながら『冒険者カレー』を注文することにした。

 それは、カツがカレーを隠すほど盛り付けられた豪華な一品らしい。


「じゃあ、それください」


 店員にメニューを伝え、空腹を満たす準備を整えるエルナンだったが、頭の片隅にはまだベルゼ=パグのことが残っていた。



 冒険者カレーを食べ終え、満足げなザグラの声が響く。


『うまかったなあ、エル。けど、一文無しになっちまったじゃねえか』


「それはお互い様だろ。まあ、稼ぎに行くさ。遺跡に行く前にちょっと金を稼ぐ必要があるな」


『フハハ、いいぜ。どうせこの先、長丁場だろうしな』


 エルナンは立ち上がり、店を後にした。


(ベルゼ……待っていろよ。オムニストーンを手に入れるためなら、どんな危険だって乗り越えてやる)


 彼の心の中には、復讐への執念と、遠い目標への確固たる意志が宿っていた。


 エルナンはクルセラタウンの冒険者ギルドに足を運び、掲示板を見渡した。

 そこには広場に比べてたくさんの大小さまざまな依頼が並んでいる。


「1500ゴールドか……少し稼げば十分だな」


 掲示板をじっと見つめる中、ある依頼が目に留まった。


「近くの洞窟に現れる盗賊団の討伐……報酬2000ゴールドか」


『盗賊団なんてちょろいぜ。行こうぜ、エル!』


「はいはい、調子に乗るなよ」


 エルナンは掲示板から依頼書を剥がし、新たな冒険へと向かう準備を始めた。


 エルナンの復讐とベルゼとの対峙の運命が、やがて遺跡で交錯する。

 果たして彼はオムニストーンを手に入れられるのか──冒険はまだ始まったばかりだった。

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