小粋な馬鹿の食レポ/イカたんぺん
陸へ上がると、最初に目に入ったのは、人間の少女の死体だった。
傷ひとつ見当たらない、綺麗な死体だった。
胸につけられたネームプレートには『小粋な馬鹿』と記されている。
海中生活で、魚や海藻、その他諸々の海の幸はあらかた堪能してきた私だが、まだ陸の生物はほとんど口にしたことがない。
見たところ、まだこの死体は、つい先程、息を引き取ったのだろうと言うほどに鮮度が高い。
まずは、足からいただくとしよう。
吸盤を使い服を剥ぎ取ると、足に触手を絡ませ、そのままぶちっぶちっと胴体から引き離し、口に放り込む。
もしゃもしゃ……。
美味い……!
決して海では味わえない、陸上で進化を遂げた弾力のある程よい肉付きの太もも。たまらない。
続いて、手を引きちぎり口に突っ込む。
むしゃむしゃ……。
足と比べて細身ながらも、引き締まった肉質に、陸上生物の中でも独自の進化をしたといえる五本指は、それぞれが長さも太さも違い、違った感触が味わえる。
夢中になって胴、脇腹、胸をちぎって食べていると、気付けば死体は頭だけになっていた。
頭部を触手の上に乗せ、押し込む形で口いっぱいに詰め込む。
ばりっばりっ……!
手足や胴体とはまた違う、珍しい食感。
人間の肉は、海の世界では珍味だと噂されていたが、非常に満足。
……最近、海の生物の味にも飽きていた頃だ。
くくく、こうなったら付近の人間たちも捕食して──
──ずぱっ!
ぼとりと何かが地面に落ちる。
細長くて無数の吸盤が付いたソレは、ぴくぴくと蠢いている。
自分の足を見ると、ぶっつりと切り落とされ綺麗な断面が目に入る。
「ふふ、大きな『獲物』じゃーん」
顔を上げると、そこには日本刀を構える女性?の姿があった。
ぺろりと舌を出し、赤のピンヒールをつかつか鳴らしながら好戦的な笑みを浮かべ、歩み寄ってくる。
そういえば、海の生活で聞いたことがある。
この『人間』とは非常に悪食で、なんだって食べるのだとか。昔は自分と同じ種族以外の人間は全て滅ぼした恐ろしい生物なのだとか。
海に戻ろうと背を向けた途端、私の視界は半分に切れる。
「ふふん、ボクから逃げられると思ってるの?」
その言葉を最後に、意識は永久に閉ざされることとなった──。
⭐︎
「ふっふーん。久しぶりに巨大なイカを捕まえたよ」
コヨリちゃんは先程捕まえたイカを抱えて家に帰る。
ささっと慣れた手つきでイカの胴体をまな板の上に乗せると、内臓を引っこ抜いて、あっという間に活き造りにしてしまう。
「大きくて新鮮なイカ!いただきま〜す♪」
大皿に置いて醤油を垂らし、まずは足から。
コリコリとした食感。
──そうそう、この弾力のある噛みごたえが、たまらないんだよね。
ぱくぱくと様々な部位を口に運び、舌鼓を打つコヨリちゃん。
──グリュッ
「……ん?」
不自然な食感が彼女の箸を止める。
おかしい。イカやタコのような頭足類には、こんなソーセージのような肉質の部位はないはず。
コヨリちゃんは歯に引っかかったソレを摘んで口から出して、眺める。
「……指?」
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