第2話

検査当日。微妙に体調が悪いのだが、その体調不良の原因を調べるために検査するのだからここで引き下がるわけにはいかなかった。一応微熱ではなかったので、そのまま病院へ。


まずは簡単な問診。話によると、HIVの検査結果はすぐ出るが梅毒の方は最長1週間ほどかかるらしい。風邪薬よろしく今日処方箋がもらえるものと期待していたのだが、いきなり予定が崩れてしまった。まあ、もらえないものはしょうがない。


次に、地下階に移動して採血を受けた。(この病院、地下があったのか)などとどうでもいいことを思いつつ血を抜かれ、あとは結果が出るまで待機となった。しかし、知りたい結果は今日は出ないと先ほど聞いたばかりである。正直、もう帰りたくなっていた。


待合室で平日朝のよく分からない番組を流すテレビを眺めていると、自分の番号が呼ばれた。診察室には、医師と看護師がそれぞれ1人。

俺が席に着くと、医師がおもむろに話し始めた。



「えーっとですね、まず、あなたは陽性です」



最初に思ったのは、何言ってんだこの人、だった。結果は今日出ないってさっき言ってたじゃん。陽性?陽性ってなんだ?


「……ようせい?」

「陽性。HIVで陽性が出てます。ほらこれ」


と言って差し出してきた書類、その一番上に置かれた検査結果には、確かにHIVの文字と共にようせいの符号が印刷されていた。


想定外すぎて反応できないでいる俺に、2人が少し慌てるそぶりを見せた。


「ああいや、まだそうと決まったわけじゃないから」

「また別で検査するから、そっちで陰性の可能性もあるからね!」


よほど俺がひどい顔をしていたのか、元気づけようとしてくれたようだった。が、一周回って冷静になった俺には、検査結果の下に置かれた2枚目の書類を確認する余裕があった。それによると、


「でもこの検査って、擬陽性の発生率は1%なんですよね?」


擬陽性とは、「陰性なのに陽性と判定してしまう」ことである。言い換えると、検査で陽性と判定されたら、100人中1人は実際には感染していないことになる。つまり、残りの99人はHIV感染者だ。


「……これからの話をしましょうか!」


そういうことになった。こちらも話を聞く姿勢を取り、波立つ内心を抑え込む。無意識に攻撃的になっていたかもしれない。とにかく今は冷静さが必要だった。


「今回の検査はスクリーニング検査というもので、まだ確定ではありません」という言葉から始まった今後の予定は、以下のようになるらしい。


・別の大きな病院で確認検査をする必要がある。近い病院を教えて欲しい。

・大病院側から後日に電話連絡が来るので対応すること。

・後で紹介状を書くので、受診日にそれを持って行って渡すこと。


一通り説明を受けた後、紹介状を書いてもらうのを待合室で待つことになった。診察室から出る時も、「まだ確定したわけじゃないからね?」と念を押されたのが印象的だった。まあほぼ確定なわけだが。


先ほど渡された資料を待合室で読んだり、HIVの現状についてスマホで必死に調べることしばらく。紹介状を受け取って、今日の診療は終了となった。まだ冷静さが残っていたので、「本日は以上となります」と言う看護師に対して「まだ支払いをやってないんですが」と申告する余裕があった。


支払額は、今朝考えていた金額より高くなってしまった。紹介状の発行手数料だそうだ。

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