同じ屋根の下、二人きり
第2話 口が裂けても言えない秘密
私と同じ、高校一年生。
けれども、私とまるで違うのは、彼がまばゆく輝く光属性の超イケメン優等生だってこと。
「キャー、獅子戸くーん!」
獅子戸くんがひとたび教室に姿を見せれば、たちどころに女の子たちの視線を独占してしまう。
そして、彼が教室を去った後も、色めき立った女の子たちの興奮は冷めず、今も教室は彼の話題で持ちきりだ。
「見た? 獅子戸くん、今日もかっこよかったねー」
「かっこいいというより、私的にはかわいいって感じかな。どちらにせよ眼福だよねー」
「うん。彼の笑顔は万病に効くって評判だから」
「分かるー。その上性格もよくて、勉強も運動もできるんでしょう? すごいよね」
「ねえ、聞いた? 獅子戸くんって大企業の社長の一人息子らしいよ。相当なお金持ちなんだって」
「はぁー。お近づきになりたいけど、住む世界が違いすぎるー」
女の子たちのそんな会話が、教室で一人本を読んでいた私の耳にも届いてきた。
容姿端麗でスペックが高く、クラスの女の子たちをすっかり夢中にさせている獅子戸くん。
『天は二物を与えず』なんて、まるで嘘。
美貌、富、才能、名声――獅子戸くんに限っては、天から与えられていない物はないんじゃないかってくらい、すべてにおいて恵まれている。
「でもさ、獅子戸くんって、ああ見えてわりと一人でいることが多いらしいよ」
「へえー、意外。一匹狼タイプなんだ」
「人当たりはいいけど、案外踏みこんでこないっていうか。誰に対しても一定の距離を保っているんだって。彼女も作らない主義みたい」
「えー、もったいない。どうしてだろ?」
「さあ。御曹司だといろいろ大変なんじゃない。よくも悪くも人が集まってきそうだから」
知らなかった。
こんなにモテるんだもの。
彼女くらいいるに決まっているって、勝手に想像していた。
それが、まさか彼女を作らない主義だったなんて。
「でもさ、そんな彼が唯一ご執心なのが、あの子なんだよね」
「ああ、羊川さん?」
ドキッ。
クラスの女の子たちの話題の中心が獅子戸くんから私へと移りはじめたのを敏感に察知して、ひそかに警戒心を募らせる。
「獅子戸くんがうちの教室に来るのだって、あの子が目的なんでしょう?」
「今朝も真っ先にあの子の元に向かって行ったしね」
「どうしてあんな地味な子がいいんだろうね? 獅子戸くんなら、女の子なんて選び放題でしょうに。もしかして、ああいう丸い眼鏡をかけた大人しそうな子が好みなのかな?」
「羊川さんこそ一人でいることが多いよね。いつも教室の隅で本を読んでいてさ。周りがどんなににぎやかでも我関せずって感じで」
「『私に話しかけるな』オーラがすごいよね。友達がいないどころか、誰かとしゃべっているところでさえ、ほとんど見たことがないもの」
黙って聞き耳を立てていれば、この言われよう。
彼女たちの遠慮のない言葉が胸にチクチク刺さる。
けれども、地味なのも友達がいないのも事実なのだから、反論のしようもない。
私だって、なにも好んで独りぼっちでいるわけじゃないのに。
私だって、他の女の子たちみたいに共通の話題で盛り上がったり、にぎやかにはしゃいだりしてみたいのに。
けれども、それは叶わぬ夢……。
私は普段からできるだけ声を発しないように心がけている。
なぜなら、私の声には呪いがかかっているから……。
――【異能力】
どうやら私の声には、他の誰もが持ちえない、ある特殊な能力があるらしくて。
この声のために、私は周囲の会話には加わらず、どうしても話をしなければならない時はなるべく短い言葉を選んで答えるようにしているのだった。
けれども、この呪いのような声が私の運命を大きく変えることになるだなんて、夢にも思わなかった。
他の女の子たちには絶対に口が裂けても言えないけれど。
私、羊川愛は、獅子戸遥希くんとひそかに同居している。
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