第2話 異世界転生と魔法との出会い
次に目を覚ましたとき、俺は知らない天井を見ていた。
なんとか辺りを探ろうと体を反転させようとするが上手く動かすことができない。
(なんだ・・・動きが鈍いぞ、まさか斬首が失敗して脊髄損傷したとかか?!)
(全身麻痺なんて冗談じゃないぞ!!)
焦った俺は力いっぱい腕を上げてみようとした。鈍いながらも徐々に上がってくる俺の腕。
ようやく視界に入った俺の手は赤ん坊のように小さい手になっていた。
「あえ・・・?」
なんだ・・・?手めっちゃ小さくないか?幻覚か?
一旦、深呼吸しよう。これはただの幻覚。体が鈍いのも、きっと俺が何日も眠っていたからだ。そうにちがいない。
俺は目を閉じ、肺いっぱいに息を吸って静かに吐く。
「スー、フー。」
再度目を開けても現実は変わらなかった。俺は放心した。
そして、しばらく放心していた俺の下に誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
コツコツと足音を立て、俺の方へ歩いてくるのが分かる。
(医者か・・・?)
右前方からガチャっと音が聞こえた。どうやら扉が開けられたようだ。
さて・・・どんな診断を宣告されるのか・・・。
「!!、○!※□◇#△!!」
なんだ?どこの言語だ?
「○▼※△☆▲※◎★●!?」
聞き取れない言語と共に若いイタリア系の男女が俺の顔を覗き込んできた。
(誰だ?知り合いの医者でないし、日本人ですらない?ここは日本では無いのか?)
「▲☆=¥!>♂×&◎♯£」
(なんだなんだ?!)
いきなり男の方が俺を抱え上げた。
俺は19だぞ?こんなひ弱そうな男に持ち上げられるほど俺は痩せたのか?
ん?いや待てよ?なんだこの身体。
抱え上げられたことで頭が下を向き、ようやく俺は自分の身体を見ることができた。
しかし、これははたして俺の身体なのか?
俺は小さく赤ん坊のような小さな身体になっていた。今まで鍛えてきた腹筋も上腕二頭筋も全部ぶよぶよの肉と皮だけになっていた。
「あうぁあああああああ!!!」
(なんじゃこりゃあああ!!!)
半年後
今俺は若い女の乳を飲んでいる。
どうやら俺は日本で死んで、どこかの国の赤ん坊に転生してしまったらしい。まさか転生なんてものが本当にあるとは・・・ただの御伽噺だと思っていたが・・・。
しかし好都合!俺は日本じゃもう犯罪者だったからな!白井の夢を叶えるためには絶好の機会だ!!
まぁ、まだ乳を飲むしかできないただの赤ん坊なんだが・・・。
それから1年後
やっと乳から解放され、離乳食になった!!初めて食う米が美味すぎる!!
この国は日本より安定した暮らしができているらしかった。夫婦共に戦争へ行かずに豊かに暮らしているし、なんと言ってもこの米。戦争勃発ですぐに絶滅寸前になったはずの穀物を毎日食える。ここは一体どこの国なんだと考えるが子どもの身体だからか、考えるとすぐ眠くなってしまう。
ここがどこだか調べるのはもう少し先になりそうだ・・・。
転生してから2年半が経った。
足腰がしっかりしてきてフラつきながらも歩けるようになった。
そして少しづつだが両親の言ってることが分かるようになってきた。今までの会話と言語体系からやはりイタリアのどこかだろうと推測した。だがおかしい、イタリアは俺が16の時に日本軍が堕としたハズだ。なぜこんなに豊かな暮らしができているのかが分からない。辺境すぎて軍の誰も気づけなかったという線もあるが・・・。まぁそれは今は良い。2年間何事もなかったんだし、今更気にすることじゃない。
しかし、この家前々から思っていたがちょっと古風すぎやしないか?電気は通ってないし家の造りもなんだか200年くらいタイムスリップしたような造形をしている。窓の外を見るとうちと同じような家が数軒建っている。ここまで辺境の地なら外の情報が入らないのも納得か。
そして俺は歩けるようになってから日課ができた。それは・・・
「お母さん、ちょっと外に行っても良いですか?」
「あら今日も遊びに行くの?気を付けて行ってらっしゃい。魔物には気を付けて。」
いつも思うが「魔物に気を付けて」って、普通「怪我には気を付けて」じゃないか?
日本とは常識が違うのか、大型の獣をそう呼んでいるのか。
俺は家を出てから少し歩いたところにある森の中に開けた場所を見つけ、最近はそこを「鍛錬場」として使用していた。
やることは至って単純、少しの筋トレと剣に見立てた木の棒をただ素振りするだけ。まだ2歳だからな。そこまでハードなトレーニングはできない。地道にコツコツと積み上げる。それが長続きのコツだ。
転生してから6年が経った。
6年も暮らしていけばもう言語はほぼ完ぺきに覚えられた。どうやら今の俺はカイル・ブラックウッドという名前らしい。どんな因果か、俺は黒木・・・いやブラックウッドという家名を授かった。
ここ最近で近所の子どもとも仲良くなったし、トレーニングも毎日続けているおかげか、まだ小1とは思えない強さを手に入れているハズだ。そして今日は、今までの成果を試す日だ。
最近俺の鍛錬場の近くに住み着いた真っ黒い毛に身を包んだオオカミを狩る。前世の知識と今の逃げ足の速いこの小さな身体なら逃げながらでも殺すことができるだろう。多分。
これも最強になるための道だ。
俺は昼飯を食うと黒オオカミの住むところへと足を運んだ。俺が日々鍛錬している場所のすぐ近くにある川の付近に、そいつは住み着いている。なんでもこのオオカミ、村の家畜を食い荒らすからかなり嫌われているらしい、だから死んでも問題ないよな。
オオカミの住処に着くと奴は俺が来るのが分かっていたかのようにすでに戦闘態勢に入っていた。
グルグルと喉を鳴らし俺との間合いを図っている。
俺は自分で木の棒を研いで作ったの木刀を構える。これでどちらも戦闘準備OKだ。
「フっ・・・よく考えればオオカミなんて初めてみたぜ。話でしか聞いたことなかったしな。
やっぱり、聞いてた通り美しく凛々しい生物だ。」
俺は今からコイツと殺り合う。重心を下げ姿勢を低くし、木刀を横に構える。
オオカミも俺と同じように低姿勢を維持し後ろ足で土を払う仕草をしている。
今、俺の最強への道の第一歩が踏まれる。
足で地面をダンッと踏み上げる。俺の身体が凄まじい速さでオオカミの腹の下へと入り込もうとする。
それを阻止するかのように奴は身を翻す。
(奴の爪はデカく鋭い。今の俺じゃ一度でも攻撃を受けたらすぐに死ぬ!まずは奴が爪を使えない腹の下に潜り込む!!)
宙に舞ったオオカミは両前足の爪を入れに突き向ける。俺はサイドステップで爪を避け、再度奴の腹下目掛け駆け抜ける。しかし攻撃を避けられたオオカミは後方へとジャンプし俺と距離を取る。
(コイツ・・・!俺の弱点であるリーチの短さを即座に理解して距離を開けてきやがった!)
「ふうっ・・・!ふうっ・・・!」
距離を取り自分が優位と分かったのか、オオカミはニヤッと口角を上げ舌なめずりを始めた。
俺を食うつもりだな・・・?させるかよ!
俺は木刀を捨て右ポケットから自作パチンコを取り出し、左ポケットからは黒く先端が鋭利な弾を取り出す。
「距離を取られるのは対策済だ!!バカめ!!」
パチンコのゴムに弾をセットしオオカミに向け発射する。
シュッという音と共に奴の頬が切れ、血が垂れる。
撃つと同時に俺は茂みの中に逃げ込み移動する。
「ぐぅぅ・・・ガぁあああああああああああああああああああああ!!!!」
傷を負ったオオカミは耳を塞ぎたくなるほどの雄たけびを上げ眼が充血しだした。
俺はそこで信じられないものを見た。みるみるうちに奴の筋肉が膨れ上がり、爪が異常成長し、黒毛の身体には胸から太ももにかけて赤い紋様が浮かび上がった。魔物だ。
「ば、バケモノ・・・?!」
(母がいつも言ってた魔物とはコイツの事か!!存在したのか!!こんな奴が!)
「ぐぅがあああああああああああぁああ!!!!」
変身が完了したオオカミはもうオオカミとは呼べる代物では無くなっていた。4メートルは超えていると思える程デカく、異常に成長した爪は俺の身体3つ分はある。
でもバレるハズがない。俺は前世では隠密が得意だったんだ!そう簡単に見つかってたまるもんか!
すると突然、魔物オオカミは鼻を鳴らし始めた。まるで何かを探るように。
「まさか・・・!」
気づいた時にはもう遅かった。茂みの中に隠れている俺に向かって、魔物オオカミは走り出していた。
「クッソ!こうなったらやるしかない!」
急いでパチンコに弾をセットし次々と撃ち続ける。しかし俊敏力も向上したのか全てが無駄に終わった。もう弾はない。もう撃てないと気付いたのか、奴はまたこっちに向かって走ってくる。
せめて木刀あればな~!!なんで捨てちまった!!こうなったら逃げる!逃げまくる!逃げるが勝ちだ!!
そう決めた俺は村とは反対の方向へ駆け出した。
(村の奴らでもコイツを殺すのは多分無理だ!だから今まで放置してたんだ!)
幸いにも2歳のときから走り込みはしてきたから逃げ切る体力は十分あるハズだ。このまま木々に紛れて巻いてやる。
数時間俺は走り続けた。森の中をずっと、日が暮れても。
(もうすぐ俺の体力も限界が近い。早く・・・巻かないと!)
しかしとうとう俺の体力は限界を迎えてしまった。
「はぁ・・・っはぁ・・・っ!!」
後ろを振り返るとあのオオカミが俺を見下ろしていた。もう逃げ切る体力はない。ここで終わりか。
「しつこ・・・すぎるぞ!はぁ・・・!クソ!」
涎を垂らし、今すぐにでも俺を食いたそうなオオカミは喉をグルグル鳴らしている。
こんなめんどい奴に手を出したのが間違いだった。また死ぬのかよ・・・俺は。
ま、元から失った命だ。今更惜しくはないか。
「さぁ食え!バケモノ!」
オオカミは口を大きく開き、俺の頭上から脇腹まで口の中に入れた。口が閉ざされようとしたそのとき、奴の口内が光を放ち燃え出した。
「ちゃんと全部食えやばーか!!!!!」
俺は逃げ続ける中で森の恵みを頂いていた。森にたくさん生えていたススキのような植物の穂を集めまくり、パチンコに使った弾(鋼鉄片)と拾った鋭い石で火花を起こし着火した。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
炎が口内をプスプスと音をたてながら焼いていく。これで終わりか。
突然オオカミが自分の口を切り裂き、血で炎を消火した。
「なっ・・・?!」
突然の出来事に一瞬身体が硬直してしまった。
オオカミが身体を回転させ、尻尾が俺の腹部を直撃した。
木にめり込む程の強さの回し尻尾を喰らった俺は意識を保つのに精一杯だった。
「くフぅ~、しくじった・・・。」
咄嗟に受け身取らなかったら死んでたな・・・。しかし、ここからどうする・・・。
オオカミは俺の方を睨みギリギリと歯を鳴らしている。怒りが爆発寸前って感じだ。
この身体じゃもう何もできない。万事休すか・・・。
クワっと俺に覆いかぶさるようにオオカミが飛んできた。俺は目を瞑り「その時」を待つ。
「・・・。」
・・・?奴が襲ってこない?どうしたんだ?
ゆっくりと目を開くと、目の前には金色の装飾が施されてある黒いローブを身にまとった男が立っていた。その黒装束の男は、何か不思議な力でオオカミを宙で掴んでいるようだった。
「あ、あなたは・・・」
「子どもがこんな魔物の巣窟で何をしている。」
ドスの聞いた声だが本気で俺を心配しているのが分かる声色だった。しかし一体誰なんだ?村では見たことがない男だ。
そう考えている内に男がローブの中から小さな杖を取り出していた。
「見ていろ、少年。これが『力』だ。」
男はそう言うとオオカミに杖を向け続けてこう言った。
「フレイム。」
その言葉を聞いた瞬間、オオカミの全身が炎に包まれあっという間に灰と化し、死んだ。
俺は声が出なかった。なんなんだ今のは。どういう原理なんだ。なんて強い力なんだ。と色々な思考が俺の脳を巡った。
「今のを見てどう思った?」
男の呼びかけでようやく俺は我に返った。
「え?」
「今の『力』を見てお前はどう感じた?」
『力』とはさっきの炎をのことか。凄まじい力だった。あれこそ、白井が望んだ力なのではないかと俺は直感的に思った。
「す、凄かったです!あんな火力の炎!見たことないです!あれは何なんですか!!?」
「あれは・・・ん?」
あれ・・・なんか意識が、そうだった俺死にそうだったじゃん。ヤバい、気を失ってし・・・。
目覚めた俺はまた知らない天井を見ていた。
(また死んだか?あの重症だったからな、死んでもおかしくない。)
「起きたか。」
「あれ!生きてる!??」
声がした方を見るとさっきの黒装束の男が座って俺を見ていた。
どうやら助かったらしい。
「ど、どうも、助けて頂きありがとうございます。」
「なんだ、いやに礼儀正しい子どもだな。まぁ、目を覚まして良かった。」
そりゃまぁ、中身の年齢は25歳ですからね!
「それで、どうして俺は助かったんですか?誰が見ても助からないくらい深い傷だったハズですけど・・・。」
「それは『治癒魔法』だ。まだ親から教わってないようだな。まぁその年では当然か。」
治癒『魔法』・・・?魔法?魔法ってあのマジックってやつ?いやマジックで傷は治らないよな、多分。
「魔法ってなんですか?教えてほしいです!」
「・・・魔法とは、大きく火、水、風、土の四大元素に別けられる、この世界では必ず無くてはならない『絶対存在』のことだ。」
『絶対存在』?マジックではない・・・よな?ならあの不思議な力はなんだ?治るハズのない傷が治り、どこからともなく炎が現れた。これってまさか・・・待てよ、いやまさか・・・。
でもそんなことって・・・。でもあり得るかもしれない・・・。探ってみるか。
「あの・・・質問なのですが、日本って知ってます?」
「二ホン?いや知らないな。なんなんだそれは?」
「いえ・・・それじゃあイタリアは?」
「悪いがそれも知らないな。一体なんだ?それは」
やっぱり・・・でもまだ決まった訳じゃない。最後の希望だ。
「あの、この国ってなんて名前ですか?」
「ここか?ここは、ノワラ国と言うが・・・。」
俺はノワラ国なんて知らないし聞いたこともない。決まりだ。ここは俺の知ってる世界じゃない、ここは一体、何処なんだ・・・。
「一体、どうしたのだ急に。」
「いえ・・・。」
急に激ヤバな情報を摂取しすぎたからか・・・気分が悪い・・・。
考えてみれば分かることだったろ・・・。村の連中の会話から頑なに知ってる国や街の名前が出てこなかったんだ。不自然に思う機会はいくらでもあったハズだ・・・。
この注意力の低さも、まだ子どもだからだと言うのか。
「ふむ・・・。」
「少年、良いものを見せてやろう。」
落ち込んだ俺の様子を読み取ったのか。男はローブから杖を取り出し俺に話をしてくれた。
「先程、魔法には大きく分けて4種の元素があると言ったが、実は他にも種類が色々ある。それを特殊元素と言って、特殊元素を利用する魔法は一般的に特殊魔法と言われている。」
「その中にある一部を見せてやろう。」
そう言うと男は杖から7色の光を出し空に絵を描いて見せた。まるで小さな子どもをあやすような・・・いや今の俺は小さな子どもか。
俺は不思議とその絵を見て安心感を覚えた。言葉にはとても言い表せないが、とにかく今までの邪念が全部吹っ飛んだような、そんな暖かい感じがした。
俺はこの日、『魔法』と出会った。
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