異世界戦記~ここで俺は最強に至る~
かげ
第1話 死の味
20ⅩⅩ年、世界は破滅へと進んでいた。
約10年前世界はある問題を抱えていた。
それは、世界中での人口爆発による【超超】食料危機だった。この問題を解決するべく世界中の国で策が施行されてきた。
ある国では、自国民を減らすため、わざと国内を煽り、争わせ人の数を減らした。
ある国では、他国と協力関係を築き、自衛に徹した。
ある国では、他国に戦争を仕掛け領土を拡大させ国を豊かにした。
そして日本も、戦争を選んだ。
軍事力ではかなり上位の位置にある日本に周辺諸国は太刀打ちできる訳もなく、あっけなく滅ぼされた。
そして日本が戦争することを選択して7年、十分な力を手に入れた日本はとうとう手を出してしまった。
軍事力1位のアメリカ合衆国に。
今まで沈黙を貫いてきた合衆国もこれには黙っていられなかった。多大な力を手に入れた今の日本はたとえアメリカであっても無視できない問題であったからだ。
そしてとうとう日本軍がアメリカへの侵略を開始した。そこに、俺もいた・・・。
ザザーン・・・ザザーン・・・
この広大な青の世界で船が波を切る音だけが響いている。
俺たち日本軍はアメリカへと船を進めていた。こんな戦争、もう意味なんてないのに。
俺がまだ小さかった頃はまだ世界は平和と言っちゃ平和だった。今の現状に比べればな。
でも俺が9歳になった年、世界各地で戦争が勃発した。最初は日本は自衛に徹していたがとうとう日本でも食べるものがなくなって、だんだんと戦争に参加するようになっていた。最初は自衛隊や海軍だけが戦争に行っていたが人が減るにつれ、一般市民も戦争に行くことを強制されるようになった。その中に俺の両親もいた。最後に会ったのは俺が12歳のとき。もう7年も会ってない。そして多分もう死んでる。
悲しいとかの感情は無かった、残された俺たち子どもは将来戦争に参加させられるために軍に鍛えらる。そこで最初にされることが、感情制限だった。戦いで感情は不要。そう教えられた俺たち子どもは死をも恐れない兵士に育てられた。
こんな理不尽だらけの世界で誰が生きようと思うのか。いや思わない。
もう誰もこの世界で生きようとなんちゃ思ってない。食い物が無くなり、各地で戦争が起き、いろんな国が滅んで・・・世界は刻刻と破滅へと向かっているんだ。当然、こんな地獄で生き残りたいなんて思う奴はいない。もしいたとしたらそいつはバカだ。
「はぁ・・・」
ため息が止まらない。俺はいつも思ってる。早く自分は死なないかなって。いつこの地獄から解放されるかなって。そう考えてるいとため息が出るのも必然だ。
「どうしたんだよ~!京!今からアメリルカ潰しにいくんだろ~?ため息なんかしてたら死ぬぞ!」
そういえば居たな。こんな世界を楽しんでるバカ。
「『アメリカ』な。ルはどこからきたんだよ。」
「ははは!しらん!」
はぁ、なんでコイツはいつも元気でバカなんだ?
このバカの名前は『白井たかし』と言う。白井は俺と同じ軍事施設で育った。こいつは最初に学ぶ感情の制限がうまくできなかったし、学校にも行ってなく、学がないから軍では白い目で見られていたのだが、白井はただ強かった。馬鹿と天才は紙一重と言うが、本当にそうだ。
白井は戦闘に関しては凄まじい才能を発揮した。近接戦闘も、射撃訓練も戦闘機の操縦も何を取っても白井より上手い奴はいなかった。
俺はどうしてそんなに強いのか聞いてみたことがあった。でもその答えは単純でバカみたいな答えだった。「楽しむことが強くなる一番の近道だ!」らしい。『楽しむ』とは俺にはもう分からん感情だったが。
「そういえば白井、今回はどんな戦法を使うんだ?またこの間の『ボンバーマン』は無しだぜ。お前のせいで負けそうになったんだから。」
「今日は『肉団子』にするぜ!肉が食いたい気分だからな!」
白井は誰も考えつかないような面白い戦法で戦うのが楽しいらしい。その戦法はいつも上手くいっているが俺たちの軍に被害が及ぶ時もあるからこうして直前に『今日の戦法』を聞くのが今の俺の日課になっている。ちなみに『肉団子』は敵味方関係なく、その死体を身にまとって肉防弾チョッキを作って特攻する戦法らしい。はたして戦法と言えるのか・・・。
「おい、お前らもうすぐ着くぞ話してないで装備の点検しとけ。」
「「了解」」
俺は装備の点検を黙々と進める。周りの奴らも俺と同じく無表情で手を動かしている。
まるで人形のように―――
ザッザッ・・・ザッザッ・・・
数時間前にアメリカ本土に到着した俺たち小隊は先に到着している中隊の奴らと合流するため、この初めて見る大地を歩いていた。
「ふぅ・・・日本と全然違うな、雰囲気が。」
「何かワクワクするなー!冒険してるみたいだ!」
白井はまるで子どもが初めて遊園地に行ったときのように目を輝かせながら辺りをキョロキョロ見渡している。コイツはどこまでいっても楽しさが原動力のようだ。
ザッ
急に進行が止まった。どうしたんだ?
「小隊長、どうしました?」
「・・・と、到着だ。」
到着・・・?一体どこに到着したというのだ。こんな荒野のど真ん中で。
「到着とは・・・?一体どこですかここは」
「・・・ここが、中隊との合流地点だ。」
!?
ここが合流地点!?何もないぞ?不意打ちを喰らって全滅か?
しかし死体はもってのほか、血痕や野営跡が跡形も無いのはどういうことだ?
「地図の間違いでは!?もし全滅したとしても、死体や血痕が残るはずです!」
俺の後ろにいた隊員が言った。
そうだ、そうに違いない。地図の間違いのはずだ。しかし・・・今の日本軍がこんな初歩的なミスを犯すのか?何かが引っかかる。
「司令部のミスの可能性もある。連絡してみよう・・・ここで少し滞在する!警戒を怠らず、野営の準備をしろ!!」
「「「了解!!」」」
1時間後
「ダメだ・・・連絡が取れない。ここら一体に電波妨害が起きている。これでは俺たちは中隊とは合流できなくなった。」
電波妨害か・・・世界が崩壊した末路だな。
世界中が争いだしたことでデジタル機器はもうほとんど意味をなさなくなった。
またアナログの時代に戻ってきたと言う訳だ。
「小隊長、僕たちはどうすればいでしょう。中隊と合流できないのであれば一度日本に戻るしかないと思いますが。」
「うむ、そうだな、じき日が沈む。夜になったら一度船まで戻るぞ。あそこの設備なら本土と連絡が取れるやもしれん。」
「「「了解」」」
行動開始まで時間があるな、少し寝るか。
俺は自分のテントに戻ると、疲労からか死んだように眠った―――。
ドーーーーン!!!!
ドガガガガガガ!!!!!!
急な轟音と銃声で俺は寝床から飛び起きた。
「な、なんだ?銃声??」
状況を確かめるためにテントから出た。
そこで俺は仲間たちが殺されていくのを見た。状況からして奇襲にあったようだった。
俺は一度テントに戻り、装備を整える。整えている間にも銃声と悲鳴は止まず、仲間がどんどん殺されていっているのが分かった。
(まだ何人かは生き残っているハズだ。そいつらと合流して奴らを全員殺す。)
準備が終わった俺は辺りを警戒しながらテントから顔を出す。すぐ近くには敵兵はいないようだ。
轟音が鳴り響く中、生き残りを探すため周辺のテントを見て回る。
しかし付近のテントには死体しかなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・近くのテントは全滅か・・・。」
残るは敵兵が集まる中央テントのみ、あそこに集まってるってことは仲間が立てこもっている可能性が高い。あとはどうやってあのテントに近づくかだ・・・。
(どうするか・・・。)
「あのテントに行くんだろ?俺も連れてけ!!」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返るとそこには返り血まみれの白井が立っていた。
「よく生きてたな白井。そうだあのテントに生き残りがいるかもしれない。一緒に助けにいくぞ。」
「なら・・・俺の『肉団子』が役に立つな!」
そう言うと白井は辺りに転がっていた死体を自身の身体に括り付けだした。
「待てどういう作戦で行くかまだ言ってないぞ!」
「大体分かるさ!まず先決は中央テントに群がってる敵兵を全部殺せば良いんだろ?」
コイツ・・・それがどれだけ難しい作戦か分かって言ってんのか?そんな簡単そうに言いやがって・・・
「んじゃま、行ってくる!!!」
『肉団子』の準備が終わった白井が中央テントに向かって走り出す。白井の存在に気付いた敵兵が白井に向かって銃を乱射するが厚い肉の壁に守られたアイツには痛くも痒くもないハズだ。
放たれる銃弾には目もくれずどんどん突っ込み、敵兵は白井の肉の厚さで圧死していく。
瞬く間に中央テント付近が血の海と化した。
(そういえばアイツ戦いの天才だったな・・・。)
隠れながら敵を撃ち殺していた俺は安全を確認して白井と合流する。
「よくやった白井。これでテント内を確かめられる。」
「おうよ、京は隠れてばっかだったな!」
るせぇなお前が戦闘バカなだけなんだよ。と口には出さず心に閉まっておく。まずは生き残りの安否確認だ。
白井に外で警戒するようにと指示を出し、俺はテント内を確認しに行く。
中に入るとそこには既に肉塊となった小隊長とその直属の部下たちの死体が転がっていた。
「ダメか・・・。これでは作戦は実行不可能だ。一度日本へ帰還しなくては。」
中の状況を白井に報告するため俺はテントの外へ出ようとしたその時。
そとから眩い光が差し込んだと思ったら凄まじい轟音と爆発で俺ごとテントが吹っ飛ばされた。
そこで俺は気を失った―――。
・・・俺は死んだか?あの威力の爆発だ。生きてる訳がない。
ふぅー、やっと死ねたか。やっと・・・。
・・・なんだ?
・・・なんで?
何が悲しいんだ?俺は・・・。
やっと念願の死が訪れたのに何が悲しくてこんな思いにならなくちゃならない?
そうだ感情制御だ!こんな感情いらない。必要ない!・・・。
やっと・・・解放されたんだぞ・・・。
やっと・・・あの地獄から・・・。
嫌だ・・・。
死にたくない。死にたくない!死にたくない!!
まだ生きていたいんだ!!――――
「はっ!!」
「ここは・・・?俺は・・・。」
俺が目を覚ました時にはすでに夜は明け、太陽の光が大地を照らしていた。
「俺は生き残った・・・のか・・・?」
気を失っていた時に感じた様々な感情が俺の身体からこみ上げてくる。今まで制御して、抑え込んでいた恐怖や悲しみや怒りが。
俺は感情を取り戻せた。
「くっ・・・ふっ・・・良かった・・・生きてて良かった・・・。」
泣いた。もう二十歳を迎えるのだと言うのに子どもみたいに泣きまくった。
多分10分くらいは泣いてたと思う。
泣いて気持ちを整理した後は次は状況整理だ。俺が今立っているここは確かに俺たちがテントを立てた場所に違いない。しかし、野営跡や敵味方の死体がキレイさっぱり無くなっている。どういうことだ。
ここで俺が考え付いた答えが。
「核か・・・。」
そう核、爆弾だ。人間を部品も残さず跡形も無く消去するのはそれしか方法がない。そして多分中隊の奴らも同じ方法で殺されたと考えるのが妥当か・・・。
とりあえず残っている装備がないか探すか。ずっと上裸のままじゃ夜は凍えて死んでしまう。
俺は数時間辺りを探索した。中央テントがあった付近。そこで俺はあるものを発見してしまった。
「フー・・・フー・・・。」
「・・・白井。」
今にも死にそうな状態の白井がそこに横たわっていた。
「白井、聞こえるか?」
俺の言葉を聞いて白井の眼だけが動き出す。体はもう、動かせそうにないようだ。
「きょ・・・ゔ・・・か」
「そうだ、俺だ。」
掠れた声で俺の名を呼ぶ白井にはかつての元気さはもうない。もうすぐ死ぬ奴の声だ。
「おれは、う・・・死ぬ・・・っぽいな。」
「あぁ、お前はもうすぐ死ぬだろう、何か言い残すことは無いか?生きているなら、お前の家族に伝えよう。」
「なん、か・・・変わった・・・か?き・・・京。」
「あぁ、ちょっとな・・・お前のように、感情が戻ったんだ。」
「は、ははっ・・・そりゃ、よか、ったな。」
「ありがとう。もっと早く戻っていたなら、お前ともっと親しくなれたのかな・・・」
「・・・い、今のお前に・・・なら、俺の『夢』を、言ってみるのも・・・いいかもな。」
白井の夢か・・・そういえば聞いたことないな。あんな夢しか持ってなさそうな感じの奴だったのに。
「なんだ?言ってみてくれ。知りたい、お前の夢を。」
「俺の夢・・・それ、は誰にも負けない、『最強』の男になる、こと・・・なんだ。」
「・・・。」
「う・・・っ、クッソ・・・叶えたか、ったぜチクショー・・・」
「こんな、狂った世界になっちまったけどよ・・・夢だけは・・・絶対に捨てるなって、母ちゃんが・・・。」
「俺には・・・その言葉が、唯一の救いだったんだ・・・。うっ・・・くふっ・・・。」
「・・・。」
「白井、その夢俺に託してくれないか?」
「京・・・?」
「俺はお前のおかげで感情を取り戻せたと思ってる!今までのお前の行動が俺を助けてくれたんだと思ってる!」
「・・・だから!俺に託してくれ!お前に少しでも恩を返したい!お前の心を!想いを!俺にも背負わせてくれないか!!」
「京・・・、やっぱり、変わった、な・・・。今の方が・・・絶対モテる、ぜ。」
「わかった・・・俺の夢、お前に託す・・・絶対に叶えてくれ、」
白井が俺に腕を伸ばす。俺は何を考えるまでもなくその腕を取った。
「分かった、絶対に叶えてやるからな。」
「そ・・・して、いつか・・・お、れに・・・。」
「・・・。」
白井が死んだ。俺に夢を託して――――。
白井の死体は絶対に日本に持ち帰る。コイツはこんなとこで孤独に死んでいい奴じゃない。絶対に白井の故郷で埋葬する。絶対に。
俺は白井の死体を担いでなんとか船を停泊してある場所まで行き、そのまま一人で日本へ帰還した。
無事に帰還できた俺は兵舎によらずそのまま白井の故郷だと言う北海道の函館市で白井を埋葬してやることにした。
「白井・・・お前の故郷、いいところだな。」
俺は白井が入った棺桶を撫でながら白井と過ごした今までの生活を思い出していた。
「今思うと結構お前に酷いことしてたよな・・・俺」
「ま、白井のことだから、覚えちゃいないんだろうけどっ・・・。」
お前の夢絶対に俺が叶えてやる。そして、いつか俺も死んでまたお前に出会えた時、お前を越える力つけて、言ってやるんだ。「お前の夢は叶ったぞ」って。
あれから半年後・・・。
「判決を言い渡す!主文、被告人、黒木京を敵前逃亡の罪で死刑に処す!!」
ガラガラガラ。
ギロチンの刃が巻き上げられ、俺の首がその下に無様に置かれる。今から俺は死ぬのだ。
白井が死んで半年、俺は敵前逃亡の罪で牢に拘留されていた。何度もアメリカにある核の存在を訴えたが聞き入ってもらえず、結局今から死刑になるって訳だ。白井の夢叶えるって決めたのに、せっかく生きたいって思えるようになったのに。こんな仕打ちアリかよ。
ま、いいか。最期に生を感じられるようになってよかった。
「黒木、最期に言い残すことはあるか?」
もうすぐ時間のようだ。俺は死ぬ、あのギロチンの刃を支えるロープが切られた瞬間、1秒もしない内に俺の命は途切れる。
「俺は・・・。」
よく生きたよ、20年も。あんなに死にたがってたのに、結局今日まで生き残ってよ、しかも生きたいなんて思えるようになったんだ。上出来だ。俺の人生。
「俺は・・・。」
いや・・・?何諦めてんだ?俺、白井と約束したじゃねえか。『最強』になるって。何勝手に白井の夢を諦めてんだ!
やっぱり・・・絶対に死なねぇ・・・。
生きてやる、もがいてやる、無様でもダサくても絶対に生き残ってやる。最後まで足掻いてやるぞ。
・・・そうだ俺が言う言葉は決まった。
「俺は!!絶対に死なねえ!!!!!!!!!!!!!!」
「切れェい!!」
ザンっとロープが切られギロチンの刃が俺のうなじ目掛けて落ちてくる。死ぬ間際ってのはスローモーションになるんだな~。
スルッと冷たい感覚が首を貫通したと思った時には、すでに俺の眼は青空を見ていた。
あぁ~これが、死の味か・・・白井もこんな感覚だったのかな。
悪い白井。約束守れなくて。もしあの世があるなら、そこで俺を殴ってくれ。お前の拳なら何度でも喰らうよ。
事なくして俺は死んだ―――
20XX年2月11日午前10時45分 黒木京ー死亡ー
―――かに思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます