第11話 バーベキュー①

「咲さんもいないんですね。実はちょっと大丈夫なのかな? って心配してたので良かったです」


 幸知は、ホッとしたように笑顔でそう答えた。


「今日の集まりはどんな関係なんですか?」


 幸知が、疑問を口にする。そう言えば、詳しい説明はしていなかった……。私は、湊さんたちのことをどう説明するべきか迷う。 

 素直に、合コンで知り合った人だよって言ったら引かれるだろうか……。


「あれ? 聞いちゃいけなかったやつですか?」


 私が返答に困っているのを見て幸知が焦っている。


「んーん。別にそんなことないんだけど……。正直に話して引かれないかちょっと心配してた。まっ、いっか。あのね、元々は去年の今頃に合コンで知り合った人なの。付き合うとかはなかったんだけど、仲良くしてくれてイベントによく呼んでくれるの。男性は三人で、私よりも年上の人たちだよ」


 反応がちょっと気になるけれど、運転中なので返答を待った。


「咲さんも合コンとか行くんですね」

「あっ、そこ気になっちゃうか」


 私は、あははと苦笑いだ。さらーっと流してくれて良かったのだけど……。


「そりゃー彼氏欲しいですから。結婚願望もあるし。幸知くんは、合コンとかする? する必要なさそうだけど……」


 最後の方は、もはや独り言みたいになってしまう。


「そうですね……呼ばれることはありますけど。実際に参加したことはないですね。合コンで出会って付き合うって、実際あるんですか?」


 素直に合コンで出会ったなんて言わなければ良かったと後悔してくる。だけど、まあこういうのも聞く機会ないならしょうがないか……。


「無いこともないけど、少ないかもね」

「そうなんだ。やる意味あるんですか?」

「しょうがないでしょ。この年になると、待っているだけじゃ出会わないの。きっかけ作りをしてるようなもん!」


 私は、ちょっと言葉が強くなってしまった。だってあまりにも、酷いことを言うから。イケメンに、出会いがない辛さはわからないはずだ。


「なんか、すみません……」

「わかったならよろしい。で、女の子の方はあと二人なんだけど、私の大学時代からの友人で七菜香と蘭ね。明るくて煩いのが七菜香で、大人っぽくてクールなのが蘭だから。多分、みたらすぐに分かると思う」


 その後も、今日来るメンバーの説明と向かっているバーベキュー場の説明をした。運転中もずっとしゃべっていたので、あっという間の一時間だった。

 幸知と会ったのは三回目なのだが、お互いだいぶ慣れたのか遠慮なく話せるようになっている。

 年下の男の子と、プライベートで仲良くなるなんて初めてだからとても新鮮だ。お姉さんぶれるのもちょっと楽しい。


 バーベキュー場に到着すると、すでに湊さんや七菜香たちは着いていて準備を始めていた。きちんと椅子やテーブルが常設されていて、雨が降ってきても大丈夫なように屋根もきちんと付いている。

 グループごとに使うテーブルが10個あって、真ん中には水道施設があり使い勝手がいい配置になっている。七菜香たちは、テーブルに食材などを出していた。


「こんにちはー。遅くなっちゃってごめんなさい」


 私の声を聞いたみんなが、顔をこちらに一斉に向けた。


「咲ちゃん久しぶりだねー。こっちも今来たばかりだらか大丈夫だよー」


 湊さんが、代表して返事をくれた。七菜香や蘭は、早く話したそうにうずうずしているのがわかる。


「えっと、こちらが初参加の政本幸知くんです。皆さんよろしくお願いします」


 私が幸知をみんなに紹介する。すると幸知も「政本幸知です」とぺこりとお辞儀をした。


「えー、何ーめっちゃイケメンじゃーん。七菜香って言いますよろしくねー」

「こら、いきなりそんなことを言わない! 幸知くん、気にしなくて大丈夫だからね。蘭って言いますよろしくね」


 蘭が、七菜香を窘めている。幸知の顔をみるとちょっと引いている。怖がらなくて大丈夫だからねーと心の中でつぶやく。


「なんかそれって、いつもイケメンがいないみたいなんだけど。酷くない七菜香ちゃん」


 湊さんが、七菜香にツッコミを入れる。


「あははー。年齢層高めなだけでそんなことないですよー」

「あっ、またディスってるし」


 七菜香と湊さんが、いつものように楽しそうに言い合っている。この二人は、いつもこんな感じでお互い遠慮がない。これはこれで、仲がいいのだ。


「この二人は放っておいて大丈夫だから、どんどん準備始めよう。ほら咲、野菜切って。焼きそばやるんだって」


 蘭が、いつもの感じで場を仕切ってくれる。私は、さっそく手を洗ってから湊さんたちが買って来てくれた野菜たちを切り始めた。


 男性たちは、大きな青いクーラーボックスから飲み物を取り出して飲み始めている。運転手以外の人は飲めるので、お酒もたくさん買って来たみたいだ。

 コンロにはすでに火が入っていて、湊さんがお肉を焼き始めた。


 私は、キャベツ、にんじん、しいたけ、玉ねぎを切る。幸知を見ると七菜香に捕まっていた。余計なことを言っていないか心配だったけれど、楽しそうに会話をしているので大丈夫そうだ。

 七菜香は、騒がしい子だけれどちゃんとした大人なのでそこはわきまえている。人見知りなどは一切しないので、幸知が浮かないように上手にみんなに溶け込ませている。

 そういうのは、私なんかよりも七菜香の方が上手なのでお任せした。


 私は、私ができることをしようと黙々と野菜を切り焼きそばを作る。


「はい、咲ちゃん。どれがいい?」


 湊さんが、クーラーボックスから飲み物を持ってきて私に差し出してくれた。オレンジジュースと炭酸飲料とお茶。ちゃんと選ばせてくれるのが、湊さんらしい。


「ありがとうございます。では、お茶をいただきますね」


 私は、湊さんからお茶のペットボトルを受け取った。火元にいるからちょっと暑くて、顔が火照っていたのだ。ペットボトルを顔につけると、ひんやりして気持ちがいい。


「ここ暑いよね。あんまり暑いようなら、誰かと交換すればいいから」

「はい。ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」


 私は、湊さんに笑顔で答える。今日は、湊さん以外にも佐々木さんと倉田さんがいる。二人とも、器用になんでも熟すので言えば変わってくれるだろうが、今は幸知と仲良くなって欲しい。


「ねえ、咲ちゃん。若いって言ってたけど、彼いくつなの? 思ってたより若くてびっくりしたよ」


 湊さんが、私に顔を寄せてこそっと訪ねてくる。そんな彼のしぐさに、ちょっとドキッとしてしまう私……。


「あはは。ですよねー。幸知くんは、二十歳です。キラキラしてません?」


 私も、ちょっとだけ顔を寄せてこそっと湊さんに答える。すると、湊さんは眉を上げて驚いたリアクションをした。


「二十歳の男の子と、咲ちゃんがどんな出会いをしたのかおじさん気になっちゃうなー」


 湊さんが、にやりと冗談交じりに笑った。

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