第10話 ドライブ
最近は風が強い日が多くて、今日の天気が心配だったのだけれど無事に爽やかな青空が広がっている。風もなく、日差しが優しい秋特有の空だった。
この分だと、バーべキュー場で紅葉も楽しめるかもしれない。美味しいお肉と、綺麗な景色を思い浮かべて、とても楽しみでワクワクする。
いつもなら、誰かが私たち三人を駅で拾ってくれて現地に連れて行ってくれるのだが……。今日は、幸知がいたので私は別で行くことにした。
初めて車をレンタルして、幸知を弘明寺駅で拾って現地に向かう。
車を運転するのが久しぶりだからか、今日はなんだか自分でも浮かれている。幸知とばったり会ったあの日の夜に、湊さんに連絡して一人男の子を連れて行っても良いか許可をもらった。
私が誰かを連れて行くなんて初めてだったので、「ついに咲ちゃんにも彼氏できちゃったの?」とびっくりされた。
私は苦笑いを浮かべつつ、そんな関係ではなく将来について迷える若者だと説明した。湊さんは、「そうなんだー」と笑って快く参加を了承してくれた。
どちらかと言うと、七菜香と蘭に報告した方が大変だった。
七菜香なんて、変に興奮しちゃって「例の二十歳くんに会えるの?」とか言っていたし。蘭は、「よし。お姉さんがしっかり見てあげるから!」とやる気になっていた。
私は、そういう関係じゃないから本当に普通にしててと何度も説明する羽目に。将来のことで迷っていて、大人の話を聞くのもありだと思ったから連れて行くのだと言ったら渋々わかってくれた。
それでも最後に七菜香は、「咲が、良い男に育てるってのもアリだと思う」としつこく恋愛にもっていこうとしていたけれど……。
私は、もう無視することにした。流石に、私だって十歳も下の子をそんな目で見られない……。そもそも私は、どちらかというと年上の方が好きなのだ。頼れる人に靡いてしまう。今まで付き合った人も、年上か同級生しかいなかった。
だから尚更、自分が年下と付き合うなんてイメージが全く沸かない。
私は少し早めに家を出て、カーシェアリングができるコインパーキングに歩いて向かった。
レンタカーを調べてみると、歩いて行ける範囲にカーシェアリングができるコインパーキングを発見したのだ。
しかも、実家で乗っていた車種と同じ車が置いてあって運がいい。当日は、特に私たちは何も持って行く必要がなかったのでとても気楽。
いつも湊さんが全部采配してくれるので、今度、何かお礼をしたいよねって三人で話している。
今日借りた車は、特に違和感なく運転することができた。本当は、車を運転するのが好きなので自分で持っていたいくらいなのだが……。
やはり車は、駐車場代など維持費が結構かかってしまう。でも、簡単にカーシェアリングできるってことがわかったので、たまにこうやって借りるのもいいかもしれない。一人だと、わざわざレンタルして車に乗るなんて考えたことがなかったけれど……。今回、幸知のお陰で新しい発見があってそれだけでも得した気分だ。
弘明寺駅は、車が止まれる場所がないのでちょっと離れた場所に停めて幸知を待つ。スマホを確認すると、まだ待ち合わせ時間にはなっていなかったが、すでに着いて待っていますというメッセージが入っていた。
私は、スマホを取り出して幸知に電話をかける。待つことなく、すぐに幸知が電話に出た。
「はい」
「あっ、おはよー。私も着いたんだけど車止められるところがなくて、ちょっと離れた場所に停めたの。案内するから来てもらってもいい?」
「おはようございます。大丈夫です。どっちに向かえばいいですか?」
私は弘明寺駅の風景を思い出して、今いる場所に誘導するにはなんて説明すればわかりやすいか頭に思い浮かべた。
目印になる建物を探して、それを幸知に伝えた。一度、電話を切って幸知が来るのを待つ。あんな説明でわかっただろうかと、心配になるが待つしかない。
フロントガラス越しに、駅方面から歩いてくる人はいないか目を凝らしてずっと見ていた。
すると、幸知らしき人物が当たりをきょろきょろ見回しながら歩いているのを見つける。私は、車から出て声をかけた。
「幸知君、こっちー」
私の声が聞こえたのか、まっすぐに幸知はこちらに走って来る。
「おはようございます」
今日も爽やかな笑顔を振りまく幸知にちょっと臆する。本日の幸知は、ジーパンにTシャツというカジュアルなコーデだ。
やっぱり普通に格好いい。絶対、七菜香がまた煩いよ……。
「すぐに見つけてくれて良かった。さっそく乗ってー」
私は、運転席のドアを開けてすぐに乗り込む。幸知も、助手席側に歩いて行くと躊躇うことなくすぐに乗り込んで来た。
助手席に誰かを乗せるのは初めてではないが……。もしかしたら、男性を乗っけたのは初めてかもしれない。なんかちょっと緊張する。
「車出してもらってすみません。本当なら、俺が格好よく迎えに行きたかったんですが……」
「幸知君も運転できるの?」
「はい。免許は一応持ってます。でも車は持ってないんで……」
「学生だもん、しょうがないよ。私も今日はレンタルなんだー。久しぶりに車運転するからワクワクしてる。では、出発しまーす」
私は、パーキングからドライブにギアを入れ、サイドブレーキを下ろすとアクセルを踏んだ。
本日の目的地は、公園の中にあるバーベキュー場。綺麗な施設で、予約して頼むと食材もコンロも全部用意してくれる。
頼むと火もおこしてくれて、後始末も全部やってくれる有難い場所。今日は好きな物を食べたいから、食材だけは湊さんたちが買って持って来てくれる手はずになっている。
弘明寺駅から、車で一時間ぐらいの場所にある。ドライブだと思えばちょうどいい場所だった。
「いきなりだったけど、今日大丈夫だった? 後で、強引過ぎたかなって心配したんだけど」
私は、隣に座る幸知を伺いながら質問をした。
「全然大丈夫です。家にいてもすることないですし。就職活動は、土日は合同説明会とかだけなので」
幸知が進行方向を見ながら答えてくれた。その後に、何かをゴソゴソと出している。
「これ、買って来たので飲んで下さいね」
幸知が、コンビニの袋からチルドカップに入ったカフェオレを出してくれた。
「わぁーありがとう。嬉しい」
幸知は、ご丁寧にカップに付いていたストローを取って透明の袋から出すと蓋の上から刺してくれた。それを、助手席と運転席の真ん中にあるドリンクホルダーに置いてくれる。
「お菓子も買って来たので、食べたかったら言って下さい」
幸知が、袋から出して私に見せてくれる。ポテトチップスやじゃがりこを買って来てくれたみたいだ。
「ふふふ。なんか旅行に行くみたいだね」
私は楽しくなって笑ってしまう。いつも、助手席側の立場だったのでこんな風にしてもらったのは初めてでちょっとくすぐったい。
「まさか、車で連れて行ってくれるなんて思わなかったのでびっくりでした。こういうの初めてなので新鮮です」
幸知は、ニコニコしていて楽しそうだ。
「そっか、初めてか……。ってか、そもそもなんだけど彼女とか大丈夫?」
私は、根本的なことが抜けていたと自分でもびっくりする。初めて会ったときに、いきなり自分の部屋に連れていってしまったので何となく彼女はいない体で考えていた。
でも、よく考えたらこんなに格好良くていないわけがないような……。
「彼女は、今はいないんで大丈夫です。いたらさすがに、遠慮しますよ」
さらっとそう返事されたけど、今って言った。ってことは、いたのだね……最近までは……。
「そっかそっか。一応言っとくと、私もいないので……。それはわかるか……」
自分で言ってて恥ずかしくなってくる。これでいたら、それはそれで問題だ。
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