第19話 2007年 11月 パチモン店長、降格への序曲
不定期なのだが、概ね2,3カ月に1度の割合で開かれていた「WEB対策チーム」会合が、銀英伝の稼働が低い方に落ち着いて、もうヤン・ウェンリーコスうんぬんとか誰も口にしなくなった11月の第2週木曜日に牛込柳町の本社社屋2階F会議室で行われ、男女比率ほぼ半々、平均年齢30台前半、という華やいだ雰囲気のなか、やに下がっていた、というか、いまから思えば実にこの嫌らしい感じのへりくだり方で、あれこれオブザーバー的意見、というか、綺麗な感じの言葉面だけど、よく聞くと中身がないような話を、間合いを図りながら、出しゃばり過ぎない感じで、つまりは「好感度」維持し続けるような感じで、繰り出しながら、とかやってるうちにシャンシャンと終わって、これまた「楽しみ」な「懇親会」という飲み会にいそいそと向かうのであった。
秀美部長は会合も懇親会も出たり出なかったりで、その日は姿を見せず、どちらかといえば欠席の割合の方が高かったのだが、飲食費用まるまる部長持ちというかまあ会社持ちなので自分らの財布に優しいし、秀美部長と比較しても「若年」な女性社員も多く出ているし、現場店舗ではない、本社IT部門などの専門職という普段接しない涼し気な雰囲気のひとたちと触れ合うのも、まったくもって新鮮で愉快なことこのうえなし、と。
で、何故年長の自分がこの場違いなチームのメンバーになっているのかというと、1999年に社内初の店舗「ホームページ」の発信担当し、記念すべき第一号投稿を実施したのが自分だったっていうそれだけのことであって、特に専門性は求められないし、年長「ユーザー」視点で改善点あれば指摘してください、っていうような、給与が発生している業務にしてはとにかく「楽」ちん過ぎるような仕事内容なのであった。新台釘調整で目をしょぼつかせている時間に比べて心にも身体にも負担がはるかに少ない。
さらにいつものよくある現場の者たちとの「飲み」の席に比べて、「知的」会話になる時間が圧倒的に多いのもまた快適なのであった。
そもそもパチンコ、パチスロの話にあまりならないのが助かる。ここのところプライベートではほんとうにジャグラー以外ほとんど何も打っておらず、きょうびのご時世、店舗責任者としてそういうことではかなりまずいことになるのである。
版権モノの対象コンテンツを深いところまで把握するのは店舗の営業に関わる以上誰しもやって当たり前!!という風潮になっているということは先述したわけだが、別途、「店舗スタッフたるもの、取り扱い商品を深く知る義務があるのは当たり前のことであって、ヒット機種はひととおり打っておくべし」みたいなかつてはなかった恐るべき暗黙の掟がいつのまにやら出来上がっていたのである。草野球やってた頃の主要女性メンバー全員、パチンコ、パチスロに興味なしってことだったが、いまの現場で少なくとも「社員」でそれはないだろう、っていう無茶苦茶さ。
かつての年長社員はむしろ若い者に向かって、ミイラ取りがミイラになってはいかんよ、と逆に「パチンコ、パチスロやり過ぎ」を諫めていたのであるが。
氷河期くぐり抜けの昨今の正社員たちは「パチンコ、パチスロ好きなのでこの業界にいる」ことが大前提になっていて、宴席がパチンコ、パチスロの話題で持ち切り、となる確率も非常に高く、そういう時に「で、店長、どうですかね最近のARTタイプは?」とか振られると実に困るわけだ。
そういう時の為に、パチンコ攻略雑誌をせっせと買ったり、スカパーの契約、プロ野球セットにプラスしてパチンコ番組よくやってるチャンネルにも加入し、録画貯めておいて、映像で確認するなどしていたのだ。「打ってないのに打ってるふりをする」のがごくごく普通の行為と化していた。まさに「嘘で固めた人生」というやつ。
その「嘘で固めた人生」に決定的な綻びが出たのが、「WEB対策チーム」の懇親会の場なのであった。
11月会合後の懇親会、小じゃれた「快適」な店舗空間に、美味な食材、高級な酒類、そして知的な会話と美女たち、という状況でどんどんタガが外れ、店舗現場の宴席でとりつくろってたいろいろなものが不意にとっぱらわれちゃって、気づくと本音のパチンコ、パチスロ批判モードになっていて、というかIT担当の木佐貫さんという東京理科大卒27歳女性に、あたしあんまりパチンコ、パチスロのことよくわからなくて、実際最近はどんなのがあるんですか?って訊かれたところから何か変なスイッチが入ったようで、なんだかんだいろいろ自説をとうとうと述べたあと、最終結論「ジャグラー以外に価値ある機種なし!!!」宣言まであっという間の流れだったような記憶がうっすらある。うっすらなので「多分」なのだが、必死に隠していた「ジャグラーしか打たん!!」も公言しただろうと思われる。
そして「360度人事考課システム」が導入されようとしている時世でもあり、この「ジャグラーしか打たん!!」宣言は、瞬く間に社内広域に伝播しパチンコ部門ほぼ全員に、という勢いで、《業界人失格のパチンコ、パチスロ嫌いの人間が店長やってるんだってさ。実にけしからんことであるよなあ》という悪い評判が広まることになった。
こうなったらなったで、同じ旧世代の強気な山田のように、あれこれ理屈を並べ立てて反転攻勢に出てみるかな、くらいなことを多少なりとも考えないでもない気力は薄っすら残ってはいた。
だがしかし、コンテンツ全把握しろ!も、パチンコ、パチスロ主要機種は積極的に打つべし!も、何度も言うように「暗黙の掟」であって、明白に定められたルールでないがゆえ、
《業界人失格のパチンコ、パチスロ嫌いの人間が店長やってるんだってさ。実にけしからんことであるよなあ》っていうのも表立って面と向かって言われる事柄ではなく、暗黙のうちに皆の共通認識になっている、という流れなので、「反転攻勢」の機会など事実上ないのであった。
ああ、みんなして、よそよそしくなってきたなあ、
っていうのを、おそらく山田と同じように、感じるようになり、
こんなことなら山田に優しくしておくべきだった、と思ったところで
「あとのまつり」であって、山田はとりわけ自分に対し冷淡な印象あるし、
ああ、なんだか「居場所」ないぞ、これは、ってなるのに
6,7日くらいなスピード感だった。
そして、もともと気合入らない状態で業務遂行していたものが、さらに無気力になり、集中力を欠き、という悪循環のなか、報連相業務のひとつである日々の営業日報メールにて重大な「報告漏れ」があった、という件で「呼び出し」受ける事態に。
人モノ金にまつわる日々の出来事は細大漏らさず記入報告すべし、の日報に、
その日起こった些細なような些細でないようななんとも微妙な一件を、うっかり書き漏らしたのだ。その他に、データ上の誤差やらなにやらいろいろあって、そっちの方に気を取られた、というのが「言い訳」の材料で、実際ほんとうにそうだったのだ。
データ上の誤差うんぬんに比べると実に単純明快な出来事で、スロットの棚に置き忘れ放置されていた財布をコース担当の従業員が気づいて確保し、規定通りに事務所に届け保管していたのを、探しにきた当該客に、規定通りの対応で返却したのだが、感謝感激雨あられ状態のその初老男性客が、まあこれでひとつ皆様でお茶菓子の類でも、と現金わしづかみの諭吉10枚ほどを手渡そうとするのを副店長有馬が、まあまあまあお気持ちだけでも、となんとか、おしとどめ、ではせめて社長様の連絡先でも、というのもおしとどめ、本社総務の電話番号を教えてなんとか帰ってもらった、ってのを書き忘れた。
本社総務に爺さん電話した。本社では出来事把握した。しかし日々の日報に記載なし。嘉数め!何事かこれは!!!????
ということで「呼び出し」くらうことになったのだ。
業界最大手「マルハン」のCMにありがちな、
「大事な結婚指輪を失くしてしまった時に店員さんが親身になって探してくれて」とかなんとか、大げさにやってる、あの類のものを、常日頃から、
《けっ!そもそもそんな大事なものホールで失くすんじゃねえ!!》
なんぞと悪意のツッコミをTVの前でいれまくってたツケがここで現れた格好になった。
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