第17話 2007年 10月 パチモン店長物憂い日々

 水道橋「みとや」のジャグラーで1万5千円ほど負けたが、景気のよい大崎社長のおかげで飲食遊興費まるまる浮いた公休日の翌日からまたいつもの鬱な仕事の日々が始まり、ああ、そういえば銀英伝資料なにも得てなかった、しかしあれだ、そもそも「所有」する必要はないんだ、よくよく考えれば、ってことでレンタルでアニメのDVDを視て、ようやっと物語の冒頭部分はザっと把握した。


 視てすぐに思ったんだが、コスプレ衣装に「ヤンの上官」って名札つけちゃおうかなあ、みたいな。「無能」を体現しているお歴々的なやつ。制服ほぼ一緒だし。


 実際もうあれだもんな、このパチンコホール業界過当競争のさなかにあって、導入機種に何を選ぶか、集客のための策をどう練るか、ってところ、「指示待ち」になっており、「独自の戦略」とか自分が持ってるわけじゃないし、無難に、コンサルタント様の考えに素直に沿ってなんとか乗りきれればそれでいいや、っていうようなところあるし、そんなコンサルタント様に意見具申できるような「若くて優秀」そのものの店長、とか、店長候補、みたいな、それこそヤンのコスプレ似合いそうな「氷河期入社」の国公立早慶出身者、腹全然出っ張ってないし肌も酒ヤケ感皆無!な若者たくさんいるじゃないっすか、おれに着させなくてもいいじゃないっすか、って気分に包まれる。会議のときにあからさまにあくびなんぞしたのが悪いといわれりゃそれまでだが。


 ホール企業の正社員として持つべき競争力、というか、スペックというのか、店休あって草野球やってたころなんて、休まず遅れずきていただければもうそれで充分でございますよ、なにをおっしゃいます旦那様、みたいな流れで、自分は学生演劇界隈出身だから、就社の前から「ワープロ」には慣れ親しんでいて、QWERTY入力手早く出来るってだけで「神」扱い。なんかあれやこれやいろいろ頼まれてやりましたよ。89年ごろだとまだまだPCに切り替わるのだいぶ先って感じだったし。

 

 ってことで「新人」の頃からしばらくはもてはやされてばかりだったのが、今やもうブラインドタッチ超速なうえに携帯の親指入力も超速、でPC使わせたらCSSもHTMLもエクセルのマクロも余裕っすっていう宇宙人みたいな後発世代に気後れする一方で、さらにいうとこの人らは上にも下にも人に対して厳しいところありまくりなので、たんびに恐縮する一方な日々。


 経験と蓄積がものをいう「怪しいやつ」を見分ける力、くらいしか、対抗できるものがほとんどないわけで、まあ、なんというかそういうハイパーな若手からあまり目を付けられないようにしようしようと身を縮めるよう心掛けてはいるんだが、彼ら「コミュニケーション能力」も高いので、いろいろ話かけられてるうちに、嘉数さんブログやってるんすよね、ライブやってるんすよね、とか笑顔で訊かれ、ごまかしきれず教えたりなんかして、訊いてきた若手店長や社員のも教わったりなんかして、で、見にいったら当方のような既存のFC2とかアメーバとかはてなとかライブドアとかじゃなくて、ワードプレスで構築してまっせー的な洒落乙なのやってたりなんかして、ああ、しらばっくれておくべきだった、と後悔することしきり、みたいな。


 そうそう、そういうのもあってブログ書く時、なんだかこう「知的」な雰囲気を醸し出そうという方向に走りがちになってきたのだ。馬鹿にされないように、舐められないように。


 自分はまだそういう「文化的」側面みせてるから、そんなに「突き上げ」喰らってない方なんだが、そういう方面まったく不調法な「飲む打つ買うの3拍子だっ!こんにゃろめっ!」みたいな世代の近い「旧い感覚一辺倒」の者たちは、もういろいろとことあるごとに彼らの世代からターゲットにされてたりするので、ほんとちょっと後々のこと考えるといろいろ怖くて仕方がないのであった。


 どう考えても自分にも「旧い感覚」凄まじく残っているんだが、それが表に出ないように出ないように「保身」に走り、無論ところどころ穴があって、そんなのとっくにバレバレですよー、って思われてるのもわかったうえで、《いやもうほんとコンプライアンス大事っすよね、ハラスメントけしからんですよね》などとニコニコしながらシレっと言い続ける日々。


 そういった矛盾を抱えているがゆえの人間関係のトラブルもそりゃいくつかあるわけで、現にいま進行中なのが、「旧い感覚」仲間の社歴も年齢も近いテキサス鴨宮店の店長山田進の件。山田2名のうちの進の方。もう1名は薫。この二人は特に縁戚関係あるわけではなく、たまたま山田姓の店長が社内に二人、と。


 同族企業にありがちだと思われるが経営中枢の代替わりで「社名変更」があって、

1989年「幾千万株式会社」だったものが、いま現在2007年は「秀光株式会社」であり、いずれも漢字ばかりな字面なのは、変な横文字並ぶよりはよっぽどマシだと思う「旧感覚」もあるし、特にいいとも悪いとも感想はなく、故人となった「会長」の後を継ぐべき兄弟の一文字ずつをとっての「秀光」ってことのようで、アナクロニズム満開な印象は拭えないものの、いまさらそういうところに青筋たてて文句をいう年頃でも立場でもないので、そこは淡々と受け流した。自分が「中枢」付近に登っていくこともなかろう、って自覚も十分あったし。ある意味他人事。

 

《まあまあまあなんだかこう戦国武将っぽくていいじゃないですか。業界はいつでも戦国時代ですからね、いまなんか特に天下分け目ですもんね》なんぞと軽口たたいてたくらいだし。


 山田進は「幾千万」時代からいる古株で、社歴は自分より2年長く、「高卒」のたたきあげなので年齢は自分がひとつ上。主任→副店長→店長、の昇進レースでいうと、途中まで山田のほうがスーッと早く登って、副店長で自分が追いついて、店長には自分が先に昇進し、2年遅れでようやく山田も店長になって、その当時はサシ飲みで昇進祝いするくらいな親密な間柄だった。


 1989年頃、新卒で、いってみれば「世間知らず」の若手社員だった自分は、浜井さんというメンター的な存在を頼りにしてたところがあり、そのおかげで中途で辞めたりせずここまできたような、ある意味ちょっと「甘えん坊」的な育ち方だったわけだが、山田は全く違って「一匹狼」的な存在であり、特定の誰かを崇拝する敬愛するといった傾向は絶無の者で、まさにど根性のたたき上げであって、性格似ても似つかず考え方も合わず、同じ現場にいるとそこそこ衝突することもあったくらいなんだが、お互い社歴長く過ごしているうちに、徐々に「労苦をなめ合う」感じになってきた、ってところか。


 その山田に昨今、ハラスメント問題がもちあがって、部下数名からの突き上げも激しく四面楚歌の孤立無援状態になっているのだった。

その影響か、店長会議で顔合わせてもほぼ常時不機嫌な表情を隠すことなく自ら口を開こうとはせず、会議中は部課長、コンサル、時には社長直々のあらゆる角度からの批判を浴び続けることがほぼ半年つづいているのだった。


 山田本人が頑なに閉じた状態になっているので、こちらから助け舟を出しようもなく、他の店長連中や、幅広く社内の顔見知り各方面からコツコツ集めた情報を総合すると、今般の「ハラスメント問題」は「セクハラ」「パワハラ」両面、他もろもろ管理面の不備もひとつやふたつでない、ということで、何らかの「処分」くだされるのも時間の問題であろう、という専らの噂だった。












 











 










 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る