六話 薬師、日常になじむ

 数ヶ月が経つ頃には鈴の腕前は、これまでしまい込まれていた薬屋の時代の商品がまた売り出せるほどになっていた。

 鈴は薬品を作る許可を取り、大巫女に教えられた知識と本、そして莉衣たち商店の家族や街の人たちの協力に鈴は支えられていた。

 鈴に当てがわれた部屋は育てた薬草や、調合の道具、図鑑やらですっかり埋め尽くされている。


「おはよう、鈴。今日の進捗はどう?」

「おはようございます、莉衣さん。今日はいつも通り並べられそうですよ」

 鈴は黒いつた——今朝取り寄せられたばかりの黒影藤という植物——をすり鉢ですりつぶしながら答えた。

 近くの鍋では飴らしき物が煮詰められ、窓際では紅映草が干されている。

 これがこの頃の鈴の日常だった。


 莉衣がすり鉢を指さして問いかける。

「その黒なんとか、早速すりつぶしてどうするのさ」

「これは粉にして乾燥させて、使うときまで保管できるようにするんです」

 続けて鈴は、この飴は疲労回復、この薬は熱冷ましに毒消し、と次から次に説明していく。

「……本当に、おばあちゃんが生きていた頃みたいだね」

 感慨深そうに莉衣はぽつりと呟いた。


「鈴ちゃん、そろそろ店開けるよー」

 商店の奥さんが声をかける。主人は商品を並べるのに忙しそうだ。

「今、行きます」


 通りが騒がしくなったのはその時だった。慌てて鈴が外に出てみれば、商店の2軒右隣の辺りに人だかりができている。

 時折人だかりから「誰か早く医者を!」やら

「間に合わない」やらと声が聞こえてくる。思い返せば、町医者は今朝、遠くの患者の診察に出かけたのであった。

 鈴がそっと人だかりを覗き込む。莉衣が後ろから声をかけた。

「どうしたの?」

「少女がいます。腕にかなりの腫れがあります」

 人だかりの中には蒼白の顔の少女が1人、うずくまっていた。腕の傷は深く、赤黒く腫れ上がっていた。

 周りに話を聞けば、その傷はどうやら爪に毒を持つ動物によって引っ掻かれたことによるものであるようだった。すぐさま何か処置を施さなければならないことは明白だ。

「彼女をこの商店に預けさせてください」

 鈴はそう言って少女を商店の一角に寝かせて、傷を消毒し包帯を巻きつけた。

「毒消しを調合してきます」

 少女を商店の主人に預け、莉衣と共に商店の奥へと駆けていく。

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2024年12月13日 20:04
2024年12月14日 20:04

薬師巫女〜落ちこぼれ巫女、薬師になる〜 及川稜夏 @ryk-kkym

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