二話 落ちこぼれ巫女、街へ行く
ガタゴトと揺れる箱。その片隅に少ない荷物を持ち、俯いて座る少女。ウェーブのかかった髪のその少女は紛れもなく鈴だった。
『自分を見つけるための修行』という大巫女の言葉は、1秒たりとも鈴が現実から逃避をすることを許してくれはしない。鈴は、なんだか自分が囚人にでもなったような気分であった。
大巫女は『街へ行け』と言い放ったあと、呆然とする鈴に目もくれずに、街までの馬車と街での預け先の家の手配を済ませていた。
鈴はあれよあれよと言う間に、荷物と共に集落を追い出された。
決して『永遠に居ろ』と言われた訳ではない。半年という期限付きではあった。だが、それは何もわからない鈴にとって永遠にも等しい期間。
馬車を引くのは一頭の馬と、巫女の集落の近くに住む、鈴の見慣れた初老の男だった。馬車は鈴でも幾度か見かけたことはあった。だが、実際に乗るのは初めてだ。
馬車は、数日をかけて街へと向かっていく。
窓の外は、巫女たちの住む家々や集落の集落、遠くに深い谷の見える山地、見渡す限り畑ばかりの平野と次々に移り変わってきた。
その度に、鈴の心情も移り変わり、涙を流したり、考え事をしたりを繰り返してついには終わりがなくなっていた。
(見たことないものばっかり。こんなところで本当に自分を探すことなんてできるのかなあ)
ふと、鈴はもう何度目なのかもわからないことを考える。
「……さん、鈴さん、街に着きましたよ」
突然の声にビクリとして、鈴が声のかかった方を向けば、馬車を引いていた初老の男が鈴に声をかけるところだった。
恐る恐る、鈴は馬車の外に出る。
木造で連なる家。颯爽と行き交う人々。店の呼び込みに、見知らぬ商品。全てが初めて見るものばかりだ。
「それでは、引き取り手の家に鈴さんを案内……」
聞き慣れぬ声が響く。
「やっほー、おじさん!その子が今日から家に来る子?」
快活な声が響く。
鈴が声をする方を向けば、同じ年ほどの少女がニッと笑った。
周りを行き交う人々がギョッとした顔で振り返っても、少女は意にも介さないようだ。
「商店のお嬢ちゃんかい?」
「そうそう、あたし、莉衣っての」
その後、初老の男と現れた少女は何やら会話を始めてしまう。
(これから、私この『莉衣さん』と暮らすの? 大丈夫なのかなあ)
見るもの全てが目新しい鈴は、すっかり疲れ切って、その場にへたり込んでしまった。
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