第5話 死亡届け

 日曜日の昼下がりと言えば、暇で有名な時間帯である。特にすることもなければ、何かを始めるにはちょっと遅い。今から、出かけるにも、帰ってくる頃には夜なのだと考えると、やっぱり何をする気にもならない。

 仕方がないので、娯楽を求めてテレビをつけてみる。キャスターがスポーツニュースを報道している。また、大谷がホームランを打ったのだと声を高くして、隣の元野球選手に話を振る。当たり障りのない発言に、少しの専門用語を交えて話す。再び、キャスターにカメラが向くと、今度はうってかわって少し低い落ち着いた声音で報道を続ける。画面に映し出された名前をみて、ぼやけていた頭が冴えた。

 ニュースの内容は近所の住宅街で殺人事件が起きたと言うもので、被害者の名前が昔の同級生と同姓同名で顔写真まで出ていた。その子は”東海林しょうじ りょう”という代わった名字で、”とうかいりん”と誤読する人がおおく、いつからか”かいりん”と呼ばれていた。かいりんは恰幅がよく、先生からのすすめで柔道部に入っているのだと言った。本当は、吹奏楽に入ろうと考えていたけれど、両立は難しいから諦めたのだとも言っていた。断れない性格なのが顔に出ていた。

 かいりんは仲のいいグループのひとりだったが、あまり話した覚えはない。彼は無口で聞き役な事が多く、積極的に会話に参加する方ではなかったし、放課後は部活に行く事が殆どだったので、印象は薄かった。でも、私はひどく衝撃を受けたし、優しくて物わかりのいい人間が殺人にあったと聞いて、背中に嫌な汗をかいた。

 ニュースキャスターは続けて、犯人が逮捕された事を報道した。灰色のパーカ―を着ていて、短く刈り上げられた金髪と鼻ピアスが印象的だった。単なる好奇心で行った、刃物を使用した通り魔的犯行である事が明かされた。番組は被害者が柔道界で期待されていたことや、その死を悼む遺族の声を報道した。母親は女手一つで育てた息子を失った悲しみを嘆き、死ぬ直前まで母親の誕生日に購入したマッサージを抱えていたのだと涙声で語った。

 私は少し違和感に思った。もう一度、画面いっぱいに犯人の顔が表示されるとようやく違和感に気がついた。容姿がすっかり変わっていたため気がつかなかったが、この人は確かに同じ教室にいた。一番端の席で、名前も分らない。けれど、確かにあの教室には加害者と被害者が同時に存在していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

多種多様な人間の生活模様を書き記す。 Lie街 @keionrenmaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画