第5章 ~行かないで~
シェリー・メアリーが去り、日々が過ぎると、青空教室では、新緑と共に僅かな新入生を迎える季節がまた訪れた。
小さな噴水の広場では今日もリュディとシェリーの音楽仲間がそれぞれの楽器を手に心地良い音色を奏でる。
学校生活に慣れた新入生はもう、一人で、あるいは数人で手を繋いだりしながら下校時間の道を帰ってゆく。少し立ち止まりはしても相変わらず子どもたちは演奏の前を通り過ぎる。
音楽仲間の音色は静かに子どもたちの日々の時間と共に刻まれる。
演奏が終わると、少し離れたベンチからパチパチと小さな拍手が聞こえてきた。
見れば二人の女性が居て、一人はまだ十代半ばの女の子だ。
もう一人は――
大人の女性で
弦楽器を手に持って――
「シェリー…… メアリー!?!?!?」
音楽仲間は未来に旅立ったはずの彼女が目の前に居るので口を開け放って驚く。 そのうち、彼らには有り得ない不協和音の大合唱が始まった。
「なぜ居るんだ?」「どうしたんだ?」「やっぱり怖かったのか?」「君の子か?」
シェリー・メアリーは傍に居る女の子に「ちょっと待ってて」とジェスチャーで伝え、持っていた弦楽器を静かに演奏ポジションにすえて、弦を弾き、音を奏で始めた。アイコンタクトを送りながら、彼らの輪の中に入ってゆくその曲は〝リュディの歌〟だ。
仲間たちは戸惑いながらも、シェリー・メアリーの意図を汲み、演奏し始めた。
人が紡ぎだす、その見事な音の時の流れを、シェリーと一緒に居た、まだ十代半ばの女の子が目をキラキラさせて見つめている。
今はまだリュディの歌い方にそっくりなシェリー。でも音楽仲間はリュディと共に居た時間の続きの様で心地良い。その心地良さが彼らの演奏をさらに素敵な音色へと昇華させる。
シェリーの歌声に、女の子は祈りの握り手で聞き入っている。
演奏が終わり、女の子が歓喜の拍手を高らかに送った。
「さて、いろいろ説明してもらおうか?」
仲間たちの歓迎の言葉に、シェリー・メアリーはニコニコしながら申し訳なさそうに頷いている。
***
― 44歳のシェリー・メアリーの声 ―
「仲間にお別れした後、長期冷凍睡眠待機の申請準備をしていると、管理区から連絡があったの」
『就職先を冷凍睡眠夢研究にしたいという、来年卒業する生徒が現れました』
シェリーは旅立つ事も忘れ、兎に角、当人に会いに行くと――、
女性教諭に付き添われた女生徒が居た。
「私は、嘗ての自分が居た様な気がした」
女生徒の名はヒルデガルト・ランスレット。来年卒業する15歳だ。栗色の癖っ毛ロングヘアを束ね、毛先を結び、左肩から前に垂らした、可愛らしい女の子だ。
自分で裁縫したのか、レースの飾りを肩周りに縫い込んだ、頭から被るような〝ごわぶわ〟とした白のトップスを、厚手の黒のユニタードの様なスーツの上に着こなし、カワカッコ良い印象だが、その表情は暗く厳しかった。
「なぜこの職業を目指すの?」 とシェリーが聞くと
『夢を研究するのって、とっても素敵だから!』と言う。
「なぜ素敵だと思うの?」 と聞くと
『だって素敵じゃない。イーブンソングさんもそうなんでしょ?』
と返してきたので、シェリー・メアリーは質問を工夫して「夢に何か特別な思い入れがあるの?」 と聞くと
『夢は全部特別だわ』と言う(汗)。
もっと踏み込んで「何か不思議な夢を見るの?」 と聞くと
『夢は全部不思議よ』と来た(汗)。
これは自分の時の動機とは随分と違うと、シェリーは意を決して、「冷凍睡眠夢の現象はどう思う?」 と聞くと
『私も是非見てみたいの』と言う。
「この答えは私もそうだったそうだった(汗)」
そこでシェリーは「冷凍睡眠夢の原因は何だと思う?」と聞くと、
『それを見つける研究なんでしょ?』と返された(汗)。
「…我ながらドジな質問をしてしまった(大汗)」
「彼女の適性が良く分からなかった。と言うか、大体、私が十代の子の適性を見抜く力があるの? 私の時、ウッドはどう見抜いたんだろう? いや待てよ、見抜いたんじゃなくてあの時は渋々引き受けてもらったんだった! (大汗)」
ウッドを起こそうか迷うシェリーだったが、もう少し自分なりにこの生徒を観察してみる事にした。
***
担任の先生と同伴で、ヒルデガルト・ランスレットが、いつかのシェリー・メアリーと同じ様に研究室へ訪れ、あの時と同じ様に、二人で来客用のソファに座っていた。
一方シェリー・メアリーと言えば、あの時のウッドと同じ様に、ウッド専用のソファに深々と腰を沈めていた。
シ「ウッドに怒られちゃうかな? みんな、内緒にしといてね(汗)」
シェリー・メアリーは端末や机や椅子たちに独り言を言う。
44歳のシェリー・メアリーは早速、この研究職の負の部分を二人に伝え始めた。
冷凍睡眠夢の研究成果は2年もあれば習得できる事。 研究は今、頓挫している事。 現在は量子脳理論を探求し、データーを拾う為に1000年
等々を淡々と語った。
シェリー・メアリーは少し説明を止めてヒルデガルト・ランスレットに質問してみた。
「ヒルダ、壊滅前の人類の歴史は好き?」
「大っ嫌い!」
「私と一緒ね」
シェリー・メアリーはヒルダの答えに安心して説明を続けた。
結婚するのであれば常日生活での研究となるため、研究成果の望めない職業になる可能性がある事。 むしろ、その可能性しかない事。 シェリーやウッドは何千年も先に旅立つので、結婚した場合は事実上この研究職から置いてけぼりとなる事。 在職中に有効な研究成果があれば、ウッドとシェリーが目覚め、一緒に仕事が出来る事。 それから、シェリーは結婚出来なかったので、子育てと常日研究の両立のコツが分からない事。 結婚出来ない、あるいはしないのであれば、いずれ大切な人たちと別れて1000年のジャンプを選ぶ可能性が高い事。 ……等々の説明を、割と連射速度を抑えて終了したシェリー・メアリーだった(ふうっ)。
付き添いの先生も、ヒルデガルト・ランスレットも、真剣な顔でシェリー・メアリーを凝視していた。
「流石、女性は同性の連射トークにきちんと付いて来る♪」
「まてよ、私が初めてここに来た時に、ウッドが連射トークで説明したとしても必死になって聞くわよね……」
ウッドの早送りの様な口元を想像して、ちょっと可笑しくなったシェリー・メアリーは慌ててその妄想を振り払う。
「ヒルダ、それでも冷凍睡眠夢研究者になる覚悟はある?」
「分からない…… 分かる訳ないじゃない!」
ヒルデガルト・ランスレットはシェリー・メアリーに面と向かって文句を言ったが、それは彼女の戸惑いであると、シェリーは分かっている。
先生を見ると「この娘の事を許して」と目が語っていた。
シェリー・メアリーは笑みで返し、
「ヒルダのその他の適性職業は?」 と聞くのだが、先生は今度は視線と一緒に首を左右にゆっくりと振った。
当のヒルデガルト・ランスレットは「知らない!」と言った風にブスリとさせた顔を明後日の方に向けている。
シェリー・メアリーは笑顔を一時停止させたまま、「やれやれ」
と心で溜息をついた。
「今日は適正面談に来て下さってどうもありがとう」
シェリー・メアリーは二人を帰すと、さてどうしたものかと悩ましい。するとその日の夕方、イーブンソング家に先生が訪ねてきた。
「あの
ヒルデガルトに適性職業を見い出せなかった先生方が、あの職業一覧ファイルの末端にあった冷凍睡眠夢研究を終に見せて『ヒルダ、冷凍睡眠夢研究と言うのがあるわ』 という事実があった事を、先生はシェリーに打ち明けた。
― 44歳のシェリー・メアリーの声 ―
「先生の顔色が、あの
「もし私がヒルデガルト・ランスレットの立場なら、シェルターと言う、この自ら捉えられた空間で生き延びている者達にとって、必要でない職業なんか無い筈なのに(あるとすれば私のこの…… )
全ての職業に適正能力が無いと十代半ばの自分がそう言われてしまったら……」
「リュディに初めて会った時、私は当事者の痛みの分からない対応をしてしまった。でも痛みが分かるからと言ってお情けでその職を与えられても…… 」
などと言う、合理的で論理的な思考も、生徒の先行きを心底心配する先生を目の前にすると、屁理屈など、どこかに吹き飛んだ!
「先生!ヒルデガルト・ランスレットは私に任せてください!」
シェリー・メアリーは大見得を切ってしまった。
先生は何度も何度も、感謝しいしい、涙をハンカチで押さえながら帰って行った。
シェリーは思い出していた。自分も15歳の頃、親身になって付き添ってくれた先生の事を。
さあ、こうなってしまっては何が何でもあの
シェリーは腹をくくる。(しかない(汗))
次の日、
研究室のスライドドアが、音も無く静かに、開いた。
そこには、 殺気を帯びた形相のヒルデガルトが、シェリー・メアリーを睨み付けて立っていた。
「乱暴される!?」
就業中だったシェリーは、ヒルダの徒ならぬ気配に全身が硬直する!
虚ろなヒルダがゆっくりとにじり寄る。 幼い頃に見た悪夢の様に、身体が言う事を聞かない!
15歳の少女はその身をゆるりとシェリーに押し付けると――
ぎゅうっと、しがみつき! 顔を
ぐずぐずと泣き出してしまった!!
「私を受け入れてくれてありがとう……」
***
「――ああ、この感触は何だろう?
私が誰かにしがみ付いているのではない。私よりも弱くて幼い誰かが、私にしがみ付いているこの感覚は…… 」
それこそが 母性―― と思考する前に、シェリー・メアリーは全身でそれを
『私は何処にも誰にも必要とされてない』
ヒルデガルト・ランスレットもずっと感じていた。
否定的な態度や攻撃的な表情はその現れだった。
「私がんばる。私、がんばります」
ヒルダはシェリーに顔を
「頑張るのは私の方。あなたはただ、この場所と、この研究の事を好きになってほしいわ。その為に私が頑張るから」
シェリー・メアリーが返すと、ヒルデガルトは「ありがとう」の代わりに、しがみ付いているシェリー・メアリーの身体をもう
― 44歳のシェリー・メアリーの声 ―
「さて、私の人生の軌道がまた少し違うものになってしまった」(結婚を申し込んでくれた時のヒューの受け売りだけど)
「ウッドには
ウッドが最初にシェリー・メアリーを指導した時間は、年に一週間…ではなく、一日~三日程度だったが、シェリーはヒルダにたっぷり時間を使った。事細かく教えるのではなく、楽しくて好きになる様に。
「だから私は、音楽仲間が演奏している時に、ヒルダを連れてゆく事にしたの」
***
日も暮れかかる時間。仕事を終えた人々が集まる養生区のテーブルを、音楽仲間とシェリー・メアリーがヒルダと共に囲んでいる。
説明を付け加えるならば、このテーブルは、ヒューとの思い出のテーブルからは3つほど離れた別のテーブルだ。
シェリー・メアリーがヒルダをここへ連れて来た訳を、ヒルダのプライベートの部分は外しつつ、音楽仲間に今、説明し終えた所だ。
「じゃあまた暫くは一緒に音楽が出来るんだね?」
仲間たちが大いに喜んでいると、ヒルダが話に割って入って来た。
「私も音楽やりたい!」
仲間たちは一寸驚くと、ニコニコ顔で顔を見合わせる。
「いいとも、いいとも、大歓迎さ」
その時のヒルデガルト・ランスレットの目の輝きを、シェリー・メアリーは見逃さなかった。
***
今日も一日、実習の時間が終わった。ヒルダは研究室から一旦学校へ戻る。 再びシェリー・メアリーと落ち合うその場所は、ゴーリュディシアの邸宅から3軒先の、あの音楽工房だ。
音楽仲間は10人程は居たのだが、皆60歳以上で全員が集まる事は滅多に無かった。だが十代の仲間が加わり、皆は工房にもよく顔を出す様になっていた。
工房でのヒルダはとても明るく素直で、コード進行であれば簡単な曲を弾けるまでになった。
笑顔で過ごすヒルダを見つめるシェリー・メアリーの眼差しが優しい。
ヒルダの初めての楽器作りの時、シェリーは手伝いながら聞いてみた。下校の時の音楽の演奏が気にならなかったのか。
「気になってたけど、お爺ちゃんお婆ちゃんばかりだから近寄れなくて通り過ぎてた。たまに立ち止まったりはしてたけど」
(な、なるほど(汗))
そのヒルデガルトが実習生として過去の冷凍睡眠夢の研究成果を学び、音楽工房で音楽を習う傍ら、彼女の卒業が近づいていた。
***
今、シェリー・メアリーは久々に気密防護服を身にまとい、ランタンを手に、夜のエアロックの外へ、多くの大人たちと出向いていた。
雲が少し空に掛かるが、何十年振りかに見る星空は今宵も見事だ。
ランタンの灯を少し絞り地面に置くと、人々と手を繋いでヒューマンチェーンを作る。
エアロックが、軋む音を従えてゆっくりと開き始めた。子羊たちが驚きの声と共に外に出て来ると、夜空の星々を見上げ、今度は歓喜の声を上げるその様子を、シェリー・メアリーは優しく懐かしく見つめる。
この子羊たちの中にヒルデガルト・ランスレットが居る。
シェリー・メアリーは自分の生体時間で30年程前を思い出しながらヒルダを探すのだが、同じ防護服姿の子羊たちは夜の暗さも手伝って、誰が誰だかさっぱり分からない(笑)。
「私の時も、ヒューマンチェーンの中にお母様が居たのかも」
ヒルダを探し疲れ、夜空を見上げると、あの時と変わらない星々が漆黒の空間に輝き満ちる。
人々と共に星空を見上げ、過ごす、贅沢な
次の日、ヒルダの「青空と星空がどれほど素晴らしかったか!」の、高揚連射トークがさく裂した。シェリーは、ほんの少しウッドの気持ちが分かった(笑)。でも、熱心に報告するヒルダが、シェリー・メアリーには愛おしかった。
ヒルデガルト・ランスレットが16歳になる月、両親が研究室まで訪れ「研究職に専念させたいけれど、この4年間は婚活に集中させてあげたい」と願い出た。彼女の婚期が始まったのだ。
45歳になっていたシェリー・メアリーは「私の時も大変だったから」と快諾した。他の保守職業の手伝いを勧める事が出来ないヒルダには「何も考えたくなくなった時や、ちょっと休んでのんびりしたい時は、研究室にただ居ても良いし、音楽工房にも、いつでも来てね」 ――と言ったが最後、研究室には月に数回しか来なくても、音楽工房には、ほぼ毎日顔を出して、シェリー・メアリーは「やれやれ(笑)」と諦め顔だ。
そのヒルデガルト・ランスレットが結婚する事になった。 彼女が18歳の時だ。
― 47歳のシェリー・メアリーの声 ―
「冷凍睡眠夢研究職は、言ってみれば自由研究みたいなもので(自虐的)、結婚して常日生活を続けるのであれば複雑なシフト交代や冷凍睡眠待機を考えなくても良く、結婚生活と研究の両立に何ら支障は無いと判断した」
「良い機会だった。私はヒルダにライブラリの使用を許可した。
勿論、ウッドの『最もキツい3本』を彼女に見せて」
灯りを落としたライブラリの一室で、モニターにかじりついて、3本目の映像を観るヒルダの目には、涙が溢れて溢れて仕方ない。
これはシェリーの賭けだった。ヒルダがより研究にのめり込むのか、それとも名ばかり研究員として籍だけを置くのかの。
結果、ヒルダは名ばかり研究員だと確定した。
「だって、1本目と2本目は、ほとんど目を瞑っていたから(笑)。 でも私は、たとえ名ばかり研究員でも良いから、幸せな結婚生活を送り、音楽を楽しみながら生きてほしいと彼女に伝えた」
「なぜそんな事を言うの?」
ヒルダは不審な顔で首を
「これでやっとウッドの所へ行けると思って」
47歳のシェリーの答えにヒルダは少しパニックになった。
「せめて私の赤ちゃんを抱いてからにして!お願い!私にとってあなたは救世主なの。本当はいつまでも傍に居てほしい。でもそれは駄目だと分かってる。だからせめて赤ちゃんを抱いてからにして!」
ヒルダは気づいてなかったろう。『赤ちゃんを抱く』事は、シェリー・メアリーにとって終生叶わないと諦めた幸せの一つだった。
この機会は二度と訪れ無いだろう事に、シェリーは動揺していた。
***
48歳になっていたシェリー・メアリーが、可愛い玉の様な赤ちゃんを抱いている。 シェリーは赤ちゃんの顔をしみじみと見つめ慈しみ、傍にはヒルダと赤ちゃんのお父さん、そしてヒルダのご両親が見守っている。
イーブンソング家の間取りを思わせるここは、ヒルデガルト・ランスレットの自宅だ。
こんな幸せそうな顔をシェリー・メアリーはするのだと、多分、彼女を知る誰もが思うだろう。
今の彼女の微笑みに既視感を覚えるとすれば、それは彼女がまだ幼かった頃の、彼女の母親の、小さなシェリーを見つめる微笑みだ。
母親によく似たシェリー・メアリーのこの笑顔を、彼女に気づかせてあげられない事がもどかしい。
― 48歳のシェリー・メアリーの声 ―
「この幸せをなんと言い表せば良いのだろう? 私には唯の一度も訪れる事など無いだろうと、諦め終えていた、この離れ難い幸せを」
その後も、ヒルダはシェリーが旅立つ事を何度も阻止しようとした(笑)。シェリーも今の幸せに溺れそうになった。だがやっと、シェリーが旅立つ事を、ヒルダは渋々と受け入れた。
「私も覚悟ができた。未蘇生症になっても良いと思えるほどの幸せを、ヒルダから貰ったから――」
ウッドに会う為、冷凍睡眠に入る日がシェリー・メアリーに訪れた。未蘇生症になる恐怖が改めて彼女に襲い掛かる。
さて、一人で行こうとしていたのに、ヒルダが管理官から旅立つ日を聞き出したらしく、夫と一緒に冷凍睡眠区まで見送りに来ていた。腕には可愛い赤ちゃんを抱きかかえて。
「ここは少し寒いから赤ちゃん暖かくしてあげて」
シェリー・メアリーが慌てていると、ヒルダは厚着をさせている赤ちゃんの袖口を見せて笑顔で返したので、シェリー・メアリーは安堵したのだが、ヒルダの笑顔には少し泣きべそが入っていた。
「お別れに来てくれたのね。ありがとうヒルダ。元気でね」
48歳のシェリー・メアリーが別れを告げると、ヒルダの泣きべそ笑顔にぽろぽろと涙が零れた。
「うん。うん。元気でね、私のシェリー・メアリー・イーブンソング……」
ヒルダはそう返すのがやっとだ。
シェリー・メアリーは思い出していた。
母と別れた日の事を。
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