野島紗香という女
と、このまま三人称で語り続けると、真田琢磨という存在を迂遠に、また客観的にしか表現できなくなってしまう。この物語はあくまで真田琢磨の物語であり、彼の内面や外面の成長を記す物語である。時に彼以外の視点を映し出す場合もあるが、基本は彼が語ることになるだろう。
故にここからは、語り手は彼に移る。
結局、
顔を上げて、その女子と目が合う。好奇心を目に宿しているという形容が似合う、くりくりとした目。端正な顔立ち、すまし顔に浮かべる微笑。解語の花という言葉がよく似合う人だと初対面の時には思った。確かに好きになる人がいるのは分かるが、俺からしたらこいつは悪友の一人だ。それぐらい、こいつは人のことを振り回してくる。その女、野島紗香は何が面白いのか、未だ微笑んでいる。
「琢磨ー、また遅刻したねー。これで何連続?」
「昨日はガチでギリギリセーフだから連続じゃねえよ」
「ああ、そうだったかもね。いつもいつも遅刻してるから忘れてた」
紗香はそう言って俺をからかう。俺はこいつを紗香と呼んでいる。元々、女子を名前で呼ぶ性質ではないのだが、紗香が自分の苗字は嫌いだから名前で呼んでほしいと言うので、名前で呼んでいる。
「ま、俺の遅刻についてはいいんだよ。目覚ましを買い直すから改善されることが期待されてるしな。それはともかくとして、お前が霧遙とかと話をしないで、俺が顔を上げるのを待ってたってことは、また面倒事でも持ち込む気か?」
数ヶ月の付き合いともなれば、紗香がどんな奴なのかぐらいは分かってくる。そして、こういう顔をしていて、こういう話しかけ方をするときの紗香の話題に、碌なものはない。どこか諦念が入り混じったような俺の質問に反して、ウキウキとしながら紗香は話した。
「ねぇ、琢磨。羽場七不思議って知ってる?」
俺の予感は的中していたらしい。俺は苦笑しながら、「知らねえよ」と答えた。どうやら、ここしばらくは退屈しなさそうだ。紗香の持ち込む話題に碌なものはない。でもそれは、大抵この変わり映えのしない日常をカラフルに色づける、興味深い話題であることが多いのだ。
勿論、面倒事であることには変わりないのだが。
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