第2話 回想

 こんな出来事が起こる数時間前。

 あたしたちは修学旅行でバスに乗っていた。あたしと佳那子ちゃんは隣同士でお菓子を食べながらおしゃべりをしていた。

 会話の途中であたしは他の人達も楽しんでいるだろうな~って思い視線を移していた。あたしが覚えている範囲だが、有森さんはあたし達と同じように友達と会話をしていた。二条さんは一人でバスの外を眺めていた。芹澤さんは一人別世界にでもいるように本を読むことに没頭していた。

 突然の衝撃。その後、急にバスが横揺れをした。少しの間身体を持って行かれないように必死に前の座席にしがみついた。

 そして今度はバスが転がるように落ちていく感じがした。あたしも隣に座っていた佳那子ちゃんもしがみついていた椅子から引き剥がされ、宙を舞った。そしてあちこち打ち付けられて、気づいた時にはバスの揺れはおさまっていたがバスはぐちゃぐちゃに破損していた。辺りには気を失ったのかわからないが血を流してけがをしている人もぼんやりと視界に入った。あたしの顔にも何かが垂れてくる。その何かを確認するために力の限りに顔に手を伸ばす。血だ。あたしはそのまま意識が遠くなった。


 気が付くと見知らぬ空間に立っていた。白い立方体の部屋。その中にあたし一人。

 身体を見回すが怪我をしていない。夢だったのか? いやまだ夢の続きを見ているのか? そんな気分である。

 部屋の中には大型ディスプレイのようなものがある。100インチよりも大きい画面。

 画面の下の部分に文字が書いてある。


 『スキルを一つだけお選び下さい』


(スキル? ゲームみたいな?)


 現状がわからないのでとりあえずその指示に従う。画面にスキルの一覧が表示されているのを見ていく。かなりの数がある。

 スキルというものを使うゲームのことをよく知らないあたしは、能力的な判断が出来ないので名前で判断して決めた。

 決定方法がわからないので、そっとディスプレイを押してみる。タッチパネルかもしれない。その予想は当たっており、次にメッセージが出た。


 『スキルは変更できません。これでよろしいですか?』


 確定ボタンとキャンセルボタンがある。あたしは確定ボタンを押した。

 するとあたしの身体が光り輝く。そして光の粒となって自分の身体が消えていく。慌てるがどうにもならない。

 どうなってしまうのだろうと恐怖のあまりに目を閉じた。


 目を閉じていると、仄かに草の青臭さを感じた。そしてふわりと風が肌を撫でる。恐る恐る目を開ける。そこはバスの事故の場所でも白い部屋でもなく、見渡す限り草原だった。

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