第3話 スキル
あたしの回想が終わった頃に脇坂さんが喚いた。
「お前らのバスにあたいは轢かれたのか!」
なんのことかと脇坂さん以外の人はきょとんとしている。理解が出来ていないことを察して追加説明がされる。
「あたいが原付で走っていたら、後ろから凄い衝撃を受けたんだよ! 気づいたら白い四角い部屋にいたんだよ」
「「「あ~」」」
その言葉以外何も言えない。あたしたちが脇坂さんを轢き殺したわけではないのだから。有森さんが話題を変える。
「それにしてもこの格好は恥ずかしいですね……」
一同が下半身に目を向ける。スカートが短くてパンツが見えそうである。うんうんと頷いていると一人だけ涼しげな顔で反対意見を言う者がいる。
「みんなパンツか。うちは黒パンだから見られても恥ずかしくないわ」
みんなが一斉にそちらを向く。確かに黒パンを履いている。
「「「なんで?」」」
有森さん、二条さん、芹澤さんが声を揃えて質問する。
「んー? うちもよくわからないけど、普段履いている格好で転生しただけやない?」
そう言われて各自視線を自分のパンツに目を移す。自分がいつもこういうのを履いているというのがバレた瞬間である。
二人を除いた四人が短いスカートでパンツを隠す。
あたしもクマさんパンツであることがバレて、恥ずかしくなってきた。そこへ迷台詞。
「まあまあ、あたいたちしか今はいないんだから問題ないだろ」
脇坂さんがそういうけれど、おっさんぽい人にそう言われても説得力はない。
「むしろこの無骨な装備品の方が気になるんだけどな」
言われて全員がお互いの装備を見つめる。防具というよりも兵器的に見える。現実世界で言う所のメカ少女とかいうやつか?
そこで学級委員長である有森さんが思い出したように、みんなに聞いてくる。
「そういえばみんなは何のスキルを選びました? ちなみに私は異世界知識です」
真面目な学級委員長はみんなが言いやすいように、まずは自分からと思ったのかスキルを教えて来た。
「愛と勇気と友情は世界を救う」
「風に舞う花びらのように人生は一瞬の美」
「努力すれば何とかなる」
「空気になりたい」
「酒飲みハイパーブースト」
それぞれが答えると委員長が叫んだ。
「みんなしてなんなんですか? その変な名前のスキルは? なんでそんなわけ分からないものを選ぶんですか?」
各自、自分のスキルのことを棚に上げて、他の人のスキルを笑う。
「いや、愛と勇気と友情で世界が救えるんだよ? これって最強スキルじゃない?」
あたしの熱弁に有森さんがツッコミを入れる。
「それでどんな能力なのです?」
「わかんない」
てへっと笑顔で答える。
「わたくしの『風に舞う花びらのように人生は一瞬の美』は、わたくしに相応しいですからね」
「……」
言葉を失う有森さん。
「あたいは努力すれば大抵何でも出来てるからこれを選んだ」
「それは運動の話で勉強には適用されていませんよね?」
佳那子ちゃんがなかなか辛辣な回答を貰った。
「……ひっそりとしていたかったから」
「うん、まあいいとしましょう」
芹澤さんの性格を考慮してか、判定が甘い。
「酒飲めば大抵幸せに過ごせるだろう」
最後に最低の大人の発言に、全員が白い目で見た。
「ねえねえ、今後どうするの? もう他の人は来そうもないけど」
あたしの発言にみんなが頭を悩ませる。すると有森さんが胸をドンと叩いて誇らしげに言う。
「私の異世界知識スキルでこの世界のことをちょっと調べてみましょう。ちょっと待って下さいね」
そして、目を閉じてそのまま調べた知識を言葉にする。
「まず、私達は人間ではないですね。メカ少女となっています。スキルに関する知識はないようなので調べることは出来ません。身につけている装備品は金属製ですが、私達の身体も特殊な金属で人間の皮膚と同じような感じに見えています。ナノレベルの金属の集まりなので、ロボットみたいな関節のつなぎ目とかはありません。今現在、私達が装備している物は、ランクZの軽装アーマーです」
そこまで話すと二条さんが質問をする。
「メカ少女ということは戦ったりするのです? そうすると現状は武器がない状態ですわ。どうしたものでしょう?」
その問いに目を瞑ったままの有森さんが答える。
「この世界は侵略者に侵攻されているようです。その侵略者もメカで敵を倒すと装備品の設計図や部品が手に入るみたいで、それを作って戦うようです」
「そうすると最初は素手で戦わないとやな」
佳那子ちゃんが楽し気に右拳を左手の平に打ち付けた。
「とりあえず街を探しましょう」
「「ラジャー!」」
「そうですわね」
「……」
「まあ任すわ」
反応に温度差がある。まあそれぞれの性格だから仕方がない。
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