第3話 豚油?

ルーム近くの更衣室に入った奈月は、慣れた手つきで衣装に着替え始める。

真っ黒なボンテージ――体にぴったり張り付くその衣装に袖を通すと、鏡越しに自分の姿を確認しながら軽く髪を整えた。


(さて、今日もやったりますかっと。)


そう思いながら、奈月はルームと呼ばれる部屋のドアを開ける。


中にいたのは、いつもの客の一人、小太りのサラリーマンだった。

部屋の中には鎖や檻、角張った奇妙な椅子や寝台が配置されており、独特の雰囲気が漂っている。


「お、ナツキちゃん!お久しぶり~。」

笑顔を見せるサラリーマンに、奈月もにこやかに返す。


「ケンちゃんじゃん!2ヶ月ぶりじゃない?てか、どうしたの?こんな早い時間に。」


「いやぁ、最近忙しかったんだけど、今日は早く上がれたからさ。ナツキちゃん、いつも予約埋まってるから、空いてる時間狙って来たんだよ!はい、これお土産。お腹減ったら食べてね。」


差し出された紙袋を受け取り、奈月が中身を確認すると――アップルパイだった。


「わぁ!なにこれ、嬉しい!ありがとう!」

嬉しそうに笑う奈月が、軽くケンの頬にキスをする。


「へへへっ、じゃあ、今日もよろしくお願いします!」

「はいはい、よろしくね~。」


壁にかかったムチを手に取る奈月。

その表情が、ふっと切り替わった。


(10分後)


「オラオラオラァ!今日も汗だくで、汚っねぇな!どのツラ下げて会いに来たんだ、この豚油が!」


「はぁぁぁ、ナツキ様ぁ、すみません!本当に汚らわしい豚油でごめんなさい!」


寝台の上で四つん這いになったサラリーマン――ケンのお尻を、奈月が容赦なくムチで叩く音が響く。


「生まれてきてごめんなさいって言え!ほら、もっと叩いてほしいんだろ?」

「はぁはぁ、生まれてきてごめんなさい!汚い豚油でごめんなさい!私はナツキ様に仕える奴隷です!」


奈月のムチが振り下ろされるたび、ケンの声が歓喜に満ちたものへと変わっていく。


「わかってんじゃねぇか、豚油ぁ!まだまだいくぞ!」


(30分後)


「はーい、終わりです。」

奈月がムチを元の場所に戻しながら言うと、ケンは服を整えながら笑顔を見せた。


「ナツキちゃん、今日もありがとう!おかげで明日からまた頑張れそうだよ。」


「ケンちゃん、本当に変態だねぇ。

アップルパイ、ありがとね。後で美味しくいただきます!」


ケンを店の出口まで見送りながら、奈月はふっと息をつく。


(さぁて、次、次。)

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