第2話 大人の街「歌舞伎町」
「次は~新宿三丁目~新宿三丁目~」
車内アナウンスが流れる中、イヤホンをつけた奈月は吊り革を掴み、ぼんやりとした表情をしている。大学から離れるにつれ、どんどん表情が下がっていく。
(ほんっと大学ってつまんねぇな。授業だけで単位くれるなら、それだけでいいのに。ゼミは交流しないといけないからめんどくせぇ…。)
本来の奈月は口調が悪い。
大学では俗にいう、「猫を被っている」のである。
電車が駅のホームに到着すると同時に、奈月は扉の方向に向かう。
ホームに降り立つと、自分の頬を軽く「パンッパンッ」と叩いた。
(ここからは楽しい時間だ。切り替えないと。)
改札を抜けた奈月は、慣れた足取りで近くのデパート「新宿マレイ」へ。
5階の女子トイレに入り、鏡の前に立つとカバンからメイク道具を取り出した。
(さて、変身開始っと。)
鏡に映る自分に向き合いながら、手際よく化粧を施していく奈月。
15分後――ギャルメイクが完成した。
「我ながら、このビフォーアフターはすごいな。」
誰もいない洗面所で満足げに呟く奈月。
普段はナチュラルメイクに留めている彼女だが、今は完全に金髪ギャルに変貌している。
「こんなの見た後でも、私に興味を持つんかねぇ、大学の猿どもは。いつもエロい目でみやがって」
ため息交じりに独り言を漏らし、奈月は「新宿マレイ」を後にする。
向かう先は大人の街、歌舞伎町。
現在の時刻は16時45分。
(そろそろホストやキャバ嬢がちらほら出てくる時間か。早めに店に入っておこう。)
華やかな看板が連なる歌舞伎町の通りを抜け、奈月が辿り着いたのはモノトーンの外観の店。黒い看板に白文字で「KILLER BEE」と書かれている。
「おはようございま~す。」
店内の待合室に入ると、ソファに腰掛けた黒髪のギャル、ミライが振り向いた。
「おっ!今日早いっすね、姐さん!」
「だから姐さんって呼ぶのやめろって言ったろ?他の人が変に思うから。」
ミライは2ヶ月前に入った新人で、奈月より1つ年下のフリーターだ。おそらく店内で最年少。
「いや、ナツキさんは姐さんっすよ。これ、コーヒーっす!」
ミライが差し出した缶コーヒーを受け取りながら、奈月は軽くお礼を言う。
そんな中、待合室のドアがノックと共に開いた。
「ナツキさーん、開店と同時に行ける?今日も予約でいっぱいなんだよ。」
黒服の男性が顔を出して呼びかける。
「予約、全部指名っすよね?」
「そう!今日も全部指名!」
「了解~、ルーム行きます。」
奈月はだるそうに返事をすると、ソファから立ち上がった。
「お勤め頑張ってください!」
ガッツポーズをして送り出すミライに、奈月は苦笑いを浮かべながら言う。
「変な言葉使うなよ。」
空になった缶コーヒーをミライに預けると、奈月は待合室を後にした。
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